上 下
49 / 56

049 大量雇用

しおりを挟む
 翌日。
 第三の新商品『缶詰』の販売三日目。

 資金力ランキングは、三二〇〇位台からのスタートだ。
 本日の目標は、千の位を三から二へ塗り替えること。
 果たして、どうなるだろうか

 いつも通り、自宅の一階にて。
 俺達は、営業開始の時を待っていた。

「ゴブちゃん達の働きを直に見るのは初めてだぁ!」

 開店の数分前、アンズは声を弾ませる。
 そう、今日はアンズもこの場に居るのだ。

「ゴブちゃんの計算能力は大したものだよ」
「なんたって私が教えたからね!」

 前方に立っているゴブちゃんが「キェッ!」と鳴く。
 と同時に、こちらへ振り返り、親指をグイッと上げる。
 ゴブちゃんの横に居たネネイも、同じように親指をグイッと。

「頼もしい子達だね」
「だなぁ。ほんとすごいよ、この世界は」

 俺は視線を、左から右に流した。
 ゴブちゃん、ネネイ、マリカの順で視界に入る。

 当店のレジ担当は、五歳児と十歳児だ。
 どちらも、極めて優秀な接客能力をしている。
 リアルなら、天地が逆さまになっても考えられない。
 改めて、そのことを凄いと思った。

「マグボトルを買えるだけと、缶詰を全種二〇〇〇個ずつ頼む」

 いつものように、ミズキが現れる。
 鋭い視線をマリカに突き刺し、注文を言う。
 それに対し、マリカが物怖じすることなく価格を答える。
 その横で、「いらっしゃいませなの」とネネイが頭をペコリ。
 ゴブちゃんも、ネネイの真似をして頭をペコリ。
 当然ながら、二人のペコリは無視された。

「さぁ、今日もガンガン売っていくぞ!」
「私達は観ているだけなんだけどねー!」

 こうして、本日の取引が幕を開けた。
 まずは商人が怒涛のラッシュで押し寄せ、マグボトルを買い漁る。
 文句のない、圧倒的な需要を再認識した。
 これなら、本日の販売分がけるのも時間の問題だ。

「おっ! あれが缶詰の客だね!」

 アンズが扉の外を指す。
 そこには、屈強な連中が居た。
 悠然と、こちらに向かって歩いてくる。

「だな」
「見るからに強そう!」
「なんか漂っているよな、猛者の風格が」
「それ分かる!」

 超高レベル冒険者共は、一目見て強いと分かる。
 別に、見た目が特別凄いわけではない。
 それなのに、なぜだか強そうなオーラが感じられる。

「いらっしゃいませなの」
「嬢ちゃん、二五〇億分の缶詰を頼む」
「こっちは三〇〇億分で」
「あたしゃ七〇〇億分じゃ!」

 冒険者達から、大量の注文が飛び交う。
 それと同時に、ゴブちゃんが動き出した。
 サササッと、らくがき君にメモをしていく。
 そして、それをネネイに見せた。

「最初のお客様は、一万二五〇〇個なの」
「おう、その数で問題ないぜ」

 ネネイが「ありがとうございますなの」と頭をペコリ。
 すぐさま、ゴブちゃんも「キェッ、キェェ!」と続く。
 その後ろで、アンズが「おお!」と拍手する。
 一方、ゴブリンズは必死に商品を運んでいた。

「ネネイちゃんとゴブちゃん、どちらも完璧だね!」
「だろ。ネネイの接客も日に日に向上しているよ」
「この調子なら、他の商品も任せられるかも?」
「そういう未来もあり得る。今はまだ考えていないが」

 その後も、ネネイ・ゴブちゃんペアは好調だった。
 特に問題を起こすこともなく、鮮やかに商品を捌ききる。

「嬢ちゃん、缶詰を売ってもらえるか」
「売り切れちゃいましたなの」
「あちゃー! そっか、それは仕方ない」
「ごめんなさいなの」
「問題ないさ、ありがとうな」
「またのお越しをお待ちしておりますなの」
「おうよ!」

 完売後の対応も問題ない。
 初めてレジに立った日は不安だったが、今や安心して任せられる。

「全ての商品が完売しました、本日の営業は終了になります」

 マリカが販売の終了を告げる。
 この日は、約一時間で完売となった。

【本日の販売内容】
 剃刀セット:3300個
 マグボトル:3万3000個
 缶詰:19万5000個

【売上】
 剃刀セット:33億ゴールド
 マグボトル:1650億ゴールド
 缶詰:3900億ゴールド
 合計:5583億ゴールド

【出費】
 マリカの人件費:1000万ゴールド

【利益】
 5582億9000万ゴールド

 資金力ランキングは三〇一五位に上昇した。
 順調だったが、俺の口からは歯軋りが漏れる。
 千の位を塗り替えることができなかったからだ。
 だが、この調子ならば、次回の営業でいけるだろう。
 慌てる必要はない。

「最近は剃刀セットの販売も好調ですね」

 リーネが言ってくる。
 俺は「たしかにそうだな」と同意した。
 意識していなかったが、剃刀セットも好調だ。
 模造品の話もめっきり聞かなくなった。
 もしかしたら、勝手に死滅したのだろうか。
 まぁ、剃刀の収益規模を考えると、どうでもいいことだ。

「おっ」

 冒険者カードを見ていて、変化に気づいた。
 知名度ランキングが、桁数を一つ減らしているのだ。
 いつの間にか、九五〇位になっていた。

「よっ、世界で九五〇番目の有名人!」
「茶化すなよ。でも、実際そうなんだよな」

 知名度ランキングが動いた理由には察しがつく。
 第三の新商品『缶詰』を販売しだしたからだ。
 レイドに篭っているような人間にも、名が知れたのだろう。

 しかし、有名になっている実感はまるでない。
 というのも、俺は他の街のことをまるで知らないのだ。
 別の大陸はおろか、この大陸についても無知のままである。
 これほど無知な有名人が、他に居るのだろうか。

「総合ランキングは圏外のまま?」

 アンズが訊いてくる。
 先程見た限りだと、圏外のはず。
 そう思ったが、念のために確認する。

『総合:圏外』

 やはり、圏外のままだった。
 資金力三〇一五位に、知名度九五〇位。
 それでも総合が圏外なのは、戦闘力が低すぎるからだ。
 ある程度レベルを上げたら、総合ランキングにも入れるだろう。
 しかし、そこに関心があるわけではないので、どうでもいい。

 目下の目標は、資金力ランキングのトップだ。

 ◇

 営業終了から、しばらくが経過。
 骸骨戦士は解除され、ゴブリンズは二階で待機。
 俺を含む残りのメンバーは、三階に移動していた。

「ふぅ」

 俺がソファに腰を下ろす。
 隣に、「お疲れ様なの」とネネイが座る。
 ネネイはすぐさま、俺の膝を枕代わりにした。

「今日もよく働いた」
「うんうん、お疲れ様!」

 対面にマリカとアンズが座る。
 アンズの膝の上には、ゴブちゃんがちょこん。
 そんなゴブちゃんを、アンズが優しく撫でる。
 ゴブちゃんは、甘えた声で「キェェ」と鳴いた。

「ねーねー、この後はどうする?」

 アンズが訊いてくる。
 俺は「だらだらする」と笑った。

「マスターに賛成だ。私も休憩する」
「えー! まだまだ今日はこれからだよ!」

 アンズだけは、元気が有り余っている様子。
 この女は、どうも元気過ぎるきらいがある。
 なんでそんなに元気なんだ、と思うことも少なくない。

「じゃあ、アンズは一人でお出かけか」
「皆がゆっくりするつもりなら、そうなるかなぁ」

 アンズは、ゴブちゃんを撫でていた手を止めた。
 そして、自分の顎に右の人差し指を当て、考え込む。
 数秒後、「決めた!」と声を上げた。

「ゴブリンズを増やそう!」

 その言葉に、ネネイとリーネの耳がピクッと反応する。

「ゴブリンズを増やすって、テイムしてくるのか?」
「そう! 数を増やしたら、作業がより楽になるよ!」
「たしかにそうだな。なかなか見上げた心意気じゃないか」
「まさに、ザ・貢献する女って感じでしょ?」
「自分で誇らしげに言わなかったら、まさにそうだったな」
「もー!」

 談笑していると、ネネイが身体を起こした。
 寝ぼけ眼を軽くこすったあと、アンズを見て言う。

「アンズお姉ちゃん、ゴブリンを増やしにいくなの?」
「うん! そのつもりだよ! 一緒に来る?」
「やったぁ! 行きたいなの!」

 そこに、「あのー」とリーネが割って入る。

「私も連れて行ってもらっていいですか?」
「お、リーネさんも来ますか!」
「はい。もう少し、アンズさんのテイムを見たいです」

 アンズは「イエイ」と頷いた。
 その後、俺を見てニヤリと笑う。

「これで私達が多数派だ!」
「少数派になろうと、俺はだらだらさせてもらうぜ」
「私もマスターに同意だ」
「仕方ないなぁ、じゃあ、四人でテイムに行こう!」

 ゴブちゃんを抱えながら、アンズが立ち上がる。
 アンズの代わりに、ゴブちゃんが「キェ!」とバンザイした。
 続いて、ネネイが「おーなの♪」と笑顔で右手を挙げる。

「では、行って参ります、社長!」

 ゴブちゃんを床に立たせると、アンズは俺に敬礼をした。
 それを見て、ゴブちゃんとネネイが真似をする。
 俺は「いってらっしゃい」と笑顔で見送った。

 四人が消えると、一気に部屋が静まる。
 俺とマリカは、どちらも口数が多くない。
 その上、マリカはソファにもたれて目を瞑っている。
 それが、輪を掛けて静寂にしていた。

「どうせなら、ベッドで休んだらいいのに」
「この体勢が楽なのだ」

 俺は「そうか」と答え、自分のベッドに移動した。
 勢いよくドーンッと飛び込み、中に入る。
 枕に頭をのせ、ゆっくりと目を瞑った。

 しばらくの間、お金のことを考える。
 より稼ぐにはどうすればいいか。
 何か見落としている問題はないか。
 その他、アレコレと考えまくる。

 次第に眠くなってきた。
 いよいよ、睡眠の世界へ出発だ。
 そう思った時、身体を揺すられた。

「マスター、起きろ」
「な、なんだ」

 目を開けると、すぐ隣にマリカが立っていた。
 いつも通り、無表情で俺のことを見ている。

「マスター、少し出かけよう」
「え、一緒に?」
「そうだ」

 相手がアンズなら「寝かせろ」と断っている。
 しかし、マリカが相手だと、そうもいかなかった。
 妙な勢いに気圧され、「お、おう」と承諾してしまう。

「で、どこにいく?」

 俺は起き上がり、ベッドから出て尋ねる。
 マリカは「まずは冒険者ギルドだ」と即答。

 ――そんなわけで、やってきました冒険者ギルド。
 道中では、互いに無言で、会話という会話はなかった。

「いらっしゃいませ」

 受付カウンターにつくなり、受付嬢のエルフがお辞儀をしてくる。
 今日の担当もティア……と思いきや、違っていた。知らない美人だ。
 マリカは「うむ」と答えた後、冒険者カードを取り出した。

「状況はどうなっている?」

 カードを渡して、受付嬢に尋ねるマリカ。
 状況とは何のことだろう、と思いながらも静観する俺。

「申し訳ございません、まだ見つかっておりません」

 受付嬢が冒険者カードを返す。
 マリカは「そうか」と残念そうに答え、それを受け取った。

「何の話をしているんだ?」

 そろそろ教えてくれよ、といった様子で尋ねる。
 マリカは表情を変えることなく「内緒だ」と答えた。
 しつこく食い下がったところで、教えてくれそうにない。
 やれやれ、気になるけど、我慢しておこう。

「では次に行こう、マスター」
「お、おう。それで、次はどこに行くんだ?」
「次に行く場所は――」

 ――ということで、今度はゾンビの巣にやってきた。
 ジュニアゾンビが無数に湧く、洞窟型のダンジョンだ。
 サクサクッと最奥部まで向かう。

 今日はリーネが居ないので、骸骨戦士が証明を担当する。
 六体の骸骨戦士が松明を右手に持ち、周囲を照らす。
 左手には、盾を持っている。

「さて、到着したけど、どうする?」
「マスター、ゾンビをスポーンさせよう」
「オーケー」

 奥の壁まで移動し、ジュニアゾンビをスポーンさせる。
 うじゃうじゃ、うじゃうじゃと、相変わらずの大群だ。

「運動がてらに蹴散らすか!」

 俺は愛用の槍『プリン』を取り出した。
 しかし、そんな俺に、マリカが待ったをかける。

「今回、マスターの仕事は観ることだ」
「おい、前回も見学だったぞ」

 少し前に来た時も、俺は戦わせてもらえなかった。
 ゴブリンズに担がれ、ただ眺めていただけだ。
 今回も見学だなんて、悲しすぎる。
 経験値とは無関係に、俺はゾンビ無双が大好きなのだ。

「マスターには、新たに覚えたスキルを見てもらいたい」
「ほう、スキルとな?」
「そうだ。ここには、スキルを試し撃ちする為にきた」
「なるほど、見せてくれ」

 マリカは頷いた後、武器を取り出した。
 鈍器としては到底機能しないボロボロの本『魔導書』だ。
 それを右手で持ち、パラパラさせた後、スキルを発動する。

「押し潰せ、メテオドーン!」

 ゴゴゴゴッと音が鳴り、地面が揺れる。
 地上から十メートルの距離に、巨大な岩が現れた。
 紅蓮の炎を纏っていて、半径約三メートルと大きい。
 それが、ゾンビに向かって、ゆっくりと落下していく。

「「「ヴォォオオ!」」」

 そして、ゴリゴリと押し潰した。
 これは、攻撃系スキル『メテオドーン』。
 名前の通り、まるで隕石が落下したみたいだ。
 岩は地面にめり込んだ後、スッと姿を消した。

「どうだ、マスター」

 マリカが訊いてくる。
 俺は「恐ろしく広範囲だな」と絶賛。
 しかし、その後にこう続けた。

「ただ、遅すぎて使いにくい感じがする」

 メテオドーンは、文句なしの範囲を誇るスキルだ。
 こいつを使えば、周囲に更地を作ることも容易い。
 その一方で、落下速度の遅さは引っかかる。
 動きの速いモンスターが相手なら、余裕で避けられるだろう。
 また、動きの遅いモンスターでも、防御するだけの余裕はある。
 総合すると、決して使い勝手の良いスキルとは言えない。

「ソロでこのスキルを活用するならどうすればいい?」
「マリカが一人で戦っている場合、という想定でいいの?」
「そうだ」
「それなら、骸骨で足止めをして、そこに叩きつけるのはどうだ」

 マリカの骸骨戦士は、死のうが何の問題もない。
 一瞬で、しかも何度でも、再召喚が可能だからだ。
 だから、身を挺して足止めに徹することが出来る。
 骸骨ごと、メテオドーンで粉々にすればいいわけだ。
 そうすれば、落下速度の遅いこのスキルも活躍できる。
 ……はず。

「ありがとう、マスター」
「所詮はネトゲの考えだ。自信はないぞ」
「いや、十分参考になった」
「そう言ってもらえると、俺も良かったよ」

 マリカはコクリと頷く。
 その後、俺に背を向けた。

「用は済んだ。後は好きにしてくれていいぞ」
「おっ、残りのゾンビは頂いてもいいのか?」
「うむ」

 まだ、数百体のゾンビが残っている。
 こいつらを蹴散らすのは、俺の仕事というわけだ。

「面倒なら、倒さずに戻ってくれても――」
「何を言っている。後は任せろ。アチョー!」

 俺は槍を振り回しながら、ゾンビに突っ込んだ。
 一騎当千の活躍で、ゾンビを蹴散らしていく。
 一〇〇……二〇〇……三〇〇……。
 そして――。

「ラストォ!」
「ヴォオオ!」

 最後のゴブリンを、縦に真っ二つ。
 綺麗さっぱり、ゾンビ掃除が終了する。

「お疲れ様、マスター」
「マリカも、お疲れ様」

 忘れ物がないかを確認した後、『エスケープタウン』を発動させた。
 じめじめした洞窟から一転、賑やかな街に到着だ。
 といっても、ここは門のすぐ外である。

「日が暮れてきているな」

 マリカが空を見て呟く。
 たしかに、夕暮れ時になりそうだ。
 太陽が「沈まないぞ」と必死に粘る時間帯。

「さっさと戻らないと夕食に遅れるぞ」
「そうだな。行こう、マスター」

 俺達は、早足で自宅に向かった。
 その甲斐あって、あっという間に到着する。
 開きっぱなしの扉をくぐり、階段を上がっていく。

「キェッ、キェッ!」
「「「キェェェェ!」」」

 二階に着くと、大量のゴブリンズが目についた。
 数が倍に増えている。いや、倍どころじゃない。
 もっとだ。もっと多い。

 綺麗に整列しているので、数えやすい。
 横に二〇、縦に五、つまり一〇〇体も居る。
 三倍を超える大増員だ。

 驚いたことに、新たなゴブリンズも同じ服を着ている。
 胸元に白で『ゴブ』と書かれた、黒の子供服だ。
 もちろん、下も桃色のサルエルパンツで統一されている

 ゴブリンズの前に、向き合う形で、ゴブちゃんが居た。

「キェェェ!」

 楽団の指揮者みたいに、ゴブちゃんが腕を振る。
 それに、一〇〇体のゴブリンズが、一糸乱れぬ動きで応じた。
 ゴブちゃんが右腕を上げると、ゴブリンズが左腕を上げる。
 反対に、ゴブちゃんが左腕を上げると、ゴブリンズは右腕を上げた。
 まるで旗揚げゲームをしているみたいで、微笑ましい。

「なにやってるんだ、こいつら……」
「ふっふっふ、気付いたようだね!」

 三階から、アンズが下りてきた。
 その後ろには、ネネイとリーネも居る。

「おとーさん、おかえりなの!」
「おう、ただいま、ネネイ」

 ネネイが飛びついてくる。
 俺はそれを受け入れ、頭を撫でた。
 そして、「楽しかったか?」と訊く。
 ネネイを白い歯を見せてニッと笑い、大きく頷いた。
 今日も、十分に楽しい一日を過ごせたようだ。

「それにしても、すごい数だな」

 俺は視線をアンズに移した。
 アンズは「まぁね」と苦笑い。

「ネネイちゃんとリーネさんのおねだりが凄くて」
「なるほど。それで、予定より多く捕まえたわけか」

 アンズが「そういうこと」と頷く。

「お友達が増えるのは、嬉しいことなの!」
「ゴブリンの心が変わる瞬間を見るのが楽しくて……」

 リーネは僅かに申し訳なさそうな表情を浮かべた。
 一方、ネネイは言葉通り、嬉しそうにニッコリしている。

「数が多くなっても、暴走したりはしないんだろ?」
「その点は大丈夫! 我がゴブリンズに反乱の恐れなし!」
「なら、数が多くてもいいんじゃないか」

 数が多くて困ることは特にない。
 少し多すぎる気もするが、まぁいいだろう。

「ちょっとした軍団になっちゃったけどね」
「スキルで一掃したくなるな」

 頭をポリポリ掻くアンズに、マリカが言った。
 すかさずネネイが「ダメなの!」と口を尖らす。
 マリカは軽く笑い、「冗談だ」と流した。

「マリカの気持ちが分からなくもないけどな」
「おとーさんまで! ぶぅーなの!」
「あいたっ」

 笑って続く俺に、ネネイが怒る。
 頬をぷくっと膨らませ、腹をポコポコ叩いてきた。

「ごめんごめん」

 俺は笑いながら謝り、ネネイの頭を撫でてやった。
 それにより、ネネイの機嫌が元に戻る。

「そろそろいいかな」

 アンズがチラッとゴブちゃんを見る。
 その視線に気づくと、ゴブちゃんが腕を止めた。
 ゴブちゃんが止まったので、ゴブリンズの動きも止まる。

「皆、社長のユート君だよ! 挨拶をしなさい!」
「「「「「キェェェェェェェェ!」」」」」

 アンズが命ずると、ゴブリンズが一斉に鳴いた。
 そして、俺に向かって敬礼する。
 あまりの壮観さに、思わず敬礼を返す俺。
 そんな俺に、なぜか続くネネイとリーネ。

 こうして、当店の従業員が七〇体も増えることになった。
しおりを挟む

処理中です...