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001 おかしな求人に応募した結果

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 ニートの嗜みとして、働く気も無いのに求人サイトを眺めていたところ、ぶっ飛んだ求人票を発見した。

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■□■先着1名様限り! 異世界ハーレムチート転生のお仕事!■□■
【説明】
チート能力を付与した上で異世界に転生してもらいます!
貴方だけの固有能力を惜しみなく使い、異世界を救って下さい!

【仕事内容 】
・男性の英雄として世界を救う。

【チート内容】 
・不老不死 になります。
・敵の攻撃が効かなくなります。
・ユニークスキルが使用可能になります。
・ステータスの自由な配分が可能になります。
・全ての美女が貴方に惚れます。

【備考】 
・最初から最強の装備を所持しています。
・思う存分にハーレムを楽しむことが可能です。
・実戦形式の研修制度があるので未経験でも安心です。
・獣人やエルフが実在しているファンタジー世界です。

【応募方法】
以下のテンプレートに自身の情報を記載し、
チート転生@異世界.comまでメールをお送り下さい。
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 思わず「馬鹿だな」と笑ってしまった。

 隅々まで読んだが、まともな部分が1つもない。

 というか、異世界転生の仕事って何だ。

 ウェブ小説の読み過ぎだし、そもそも英雄って仕事なのかよ。

 突っ込み所が多すぎて、どこから突っ込めばいいか迷うくらいだ。

 どうせ、どこぞの金持ちが、今更ながらに異世界転生を題材とした小説にハマり、調子に乗ったのだろう。

 競走馬にふざけた名前を付ける馬主とかいるし、金持ちの道楽ってやつだ。

 SNSで拡散されて、面白がられる様を見て、悦に浸るつもりだろう。

 実際、この求人を発見した時、俺は「ちょっと面白い」と思ってしまった。

「からかってやるか」

 折角だから、応募してみることにした。

 もしかしたら、この件がきっかけで、金持ちと仲良くなれるかもしれない。

 仲良くなって得すかは分からないが、損することはないだろう。

 求人票の下に書かれているテンプレートをコピーし、項目を埋めて、メールソフトに張り付ける。

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宛先:チート転生@異世界.com
件名:英雄になってやるよ
内容:
■□■応募テンプレート■□■
【名前】
橘海斗

【年齢】
20

【異世界で使用する名前】
カイト

【美女は好きですか?】
大好き

【ハーレムに抵抗はありますか?】
自分が味わうのであれば抵抗なしで大歓迎
他人が味わうのであれば死ぬべきだと思う

【採用後の辞退は出来ませんがよろしいですか?】
はい
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 求人票もぶっ飛んでいるなら、テンプレートもぶっ飛んでいる。

 住所や職歴を記載する欄はないし、後半の質問項目なんて意味不明だ。

「ちゃんと届けよ」

 宛先に誤りがないかを確認してから送信ボタンをクリックする。

 エラーメールは返ってこなかった。

 一応、宛先のメールアドレスは存在しているようだ。

「凝ってるなぁ」

 金の掛け方に感心していると、お腹がぐぅぐぅと鳴りだした。

 そういえば、起きてから何も食べずにネットを見ていたな。

「何か食うか」

 そう思って冷蔵庫を漁るが、何もなかったので、買い出しに向かった。

 近所のスーパーで適当なメシを大量に買い込み、そそくさと帰路に就く。

 一度の買い物で食糧を買い溜めして、可能な限りは家の中に引きこもる。

 これがニートの基本だ。

 ブォオオオォォォオオオオオン!」

 ぼんやり歩いていると、クラクションが聞こえてきた。

 とんでもない爆音で、鼓膜が破れるのではないかと驚く。

 だが、それ以上に驚くことがあった。

 クラクションの元である大型トラックが、俺に向かって突っ込んできたのだ。

 気づいた頃には、既に、「あかん奴だコレ」と思える距離だった。

 で、実際にあかん奴で、俺はトラックに飲み込まれた。

 身体の感覚が完全に失われる。

 意識はあるが、目を開けることが出来ず、音だって何も聞こえない。

 それでいて痛みもないから、これはまごうことなく死んだ。

 死ぬとこんな感じなのかぁ、などと思っていると。

「異世界ハーレムチート転生のお仕事に採用されました」

 脳内に、スマホの音声アシスタントみたいな声が響く。

 その声を境に、全身の感覚が蘇ってきた。

 目を開けると、無機質な白い天井が見えた。

 仰向けで眠っているようで、身体の下にはふかふかのベッド。

 上半身を起こして周囲を見渡す。知らない場所だった。病院でもない。

 テレビやパソコンのない謎のワンルームに居るようだ。

 窓がないことに気づく。不気味だ。

「どこだ、ここは」

 呟いた瞬間、スライド式の自動ドアが開いた。

「ようこそ、救世主カイト様」

 ドアの向こうには、長い黒髪の超美人なお姉さんが立っていた。
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