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第012話 品種改良のススメ

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 天地がひっくり返る程に驚くことが起きた。

 まずは昨日のこと。
 前に購入したオレンジの種が萌芽した。
 この時点では、ちょこんと芽が出たくらいだ。
 菜園に詳しくない私達は「出たー!」と喜んだもの。

 そして今日。

「ええええええええええええええええええ!」
「ワゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」
「「「ゴブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」」」

 なんてこった、オレンジが完成していたのだ。
 いつの間にやら成長していて、美しい実を作っている。
 しかも数が多い。1つの種に対し、その数なんと数百個。
 無数に生えたオレンジの樹に、実がギッシリついている。

「本当に食べられるのかな?」

 私は試しに一つのオレンジをもぎ取った。
 水瓶の水を使って皮を洗った後、皮を剥いて食べてみる。

「んまぁー!」

 種屋で食べたのと全く同じ味だ。
 見た目だけではなく、味まで完成している。

「皆も食べていいよ!」

 私はレオンとゴブリン達にもオレンジをあげた。
 レオンには5個、ゴブリンはそれぞれ2個ずつプレゼント。

「ワゥゥー♪」
「「「ゴッブゥー♪」」」

 皆も美味しそうだ。
 表情を緩ませて頬張っている。

「でもこれだけ出来ると困っちゃうなぁ」

 いくら美味しいとは言え、この量のオレンジは困る。
 お隣さんにあげたいところだが、付近の家は空き家ばかりだ。

「そうだ! 冒険者ギルドで換金してもらおう!」

 冒険者ギルドでは何でも換金してくれる。
 多くの冒険者がレートにケチをつけているが気にならない。
 これだけの数を持っていけば、それなりのお金になるはずだ。

 私は雑貨屋で竹の籠を6個買った。
 その中にもぎたてのオレンジを詰めていく。

「よーし、皆、冒険者ギルドに行くよー!」
「ワーン♪」「「「ゴブゥー♪」」」

 皆で籠を持つ。
 私は2つだ。背負っている分と手で抱く分。
 他の皆はそれぞれ背負っている。

 こうして、私達は冒険者ギルドにやってきた。
 オレンジの甘い香りを漂わせながら、受付カウンターまで歩く。

「オレンジの換金、お願いします!」
「ワンッ!」「「「ゴブッ!」」」

 受付嬢は「かしこまりました」と笑顔で微笑んだ。
 オレンジの量に驚くかと思いきや、そんなことはなかった。
 それから複数回に分けて換金作業を行っていく。
 査定額が楽しみだ。私の予想は5,000ゴールドくらい。

「合計2,145ゴールドとなりますが、よろしいでしょうか?」

 思ったより安かった。
 しかし、薬草採取と同程度と思えば気にならない。

「問題ありません!」
「ありがとうございます」

 余ったオレンジもこうしてお金に替わるのなら大助かりだ。
 せっかく作ったのに食べきれずに腐らしてしまうのはもったいない。

「お姉さん、栽培物を売るなら多少は品種改良したほうがいいぜ」

 近くの冒険者が声を掛けてきた。
 中年の男性で、顔には深い切り傷の跡がある。

「どういうことですか?」
「そのオレンジ、種屋で買ったセットのまんまだろ。それだと安定して美味しいけれど、ありふれているから価値が低いんだ。だから、栽培物を売って金を稼ぎたいなら、独自の組み合わせで品種改良した奴を売るといいぜ。美味いオレンジが出来たら今の数倍以上は稼げる。それに、下手を打っても買い取って貰えるから安心だ」

 なるほど、と納得した。
 栽培物の味は種と魔法球の組み合わせで決まる。
 特に魔法球の組み合わせが大事だ。味がまるで違ってくる。
 私の場合、お店で買った3つの魔法球をそのまま使用していた。

「品種改良かぁ……」

 私はかなりの安全志向だ。
 冒険することを拒み、常に安全な選択肢をする。
 株式投資などをギャンブルと捉える類の人間なのだ。
 だから、自分で品種改良するなど考えてもいなかった。

「たしかに自分の味を追及するのは面白いかも」

 失敗してもお金になる。
 それに手間暇も掛からないから楽ちんだ。
 ローリスクだし、品種改良も悪くないなと思うのであった。
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