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第002話 テイミング

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 モンスターブリーダーとして最初にすること。
 それはペットとなるモンスターの調達である。

 調達方法は2種類ある。
 1つ目、他のブリーダーから購入。
 2つ目、自分で【テイミング】。

 一般的には1つ目の方法が採用される。
 巾着袋の金貨を1枚払い、最下級Fランクの雑魚を手に入れるわけだ。

「さて、捕まえに行くぜ」

 俺は2つ目の方法を選択した。
 金がもったいないし、何より試したい。
 習得したスキル【テイミング】を。

 そんなわけで、俺は街の外へ移動を開始した。
 やってきたのは<ラウドの森>と呼ばれるFランクばかりの森だ。
 通称“初心者の森”とも呼ばれるここで、ペットを手に入れよう。

「ゴブゥ!」「ぴゅるん!」

 森を彷徨う俺の前にモンスターが現れた。
 Fランクモンスターの“ゴブリン”と“スライム”だ。

 モンスターの見た目だが、
 ゴブリンは全身が緑色の爪と牙が鋭い五歳児で、
 スライムはボウリング玉のような大きさをしたゼリーの塊だ。

 ちなみに、モンスターのランクは7段階。
 上から順にS、A、B、C、D、E、Fだ。

「いきなり2体はきついな。まぁいい、両方ともペットにしてやろう」

 ブリーダースキル【テイミング】は発動条件がある。
 モンスターの“友好度”または“屈服度”を8つ星以上にすること。
 成功率は星8個で8割、9個で9割、MAXの10個で10割だ。

 友好度は専用のエサを与えることで上昇し、
 屈服度はダメージを与えることで上昇する仕様だ。

「(開け、インベントリ!)」

 念じることでインベントリが脳内で展開する。
 RPGにおけるアイテム画面みたいなものだ。

――――――――――――――――――――
■所有アイテム
・ゴブリンのエサ:2個
・スライムのエサ:3個
――――――――――――――――――――

 俺の所有アイテムは、目の前に佇む雑魚用のエサしかない。
 スライムの方が数が多いし、スライムのエサを使うとしようか。

「(スライムのエサ、展開!)」

 どこからともなくスライムのエサがポンと現れる。
 スライムを手のひらサイズに縮小したようなゼリー状の球体だ。

「それ!」

 俺は遠く向かってエサを投げた。

「ぴゅる!? ぴゅるるん!」

 スライムがエサに反応する。
 ぴょんぴょんと跳ねながら、エサに向かっていった。
 その瞬間、スライムの頭上に表示されているステータスに変化が生じる。

――――――――――――――――――――
【名 前】スライム
【ランク】F
【友好度】★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【屈服度】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
――――――――――――――――――――

 まだ食べていないのに、友好度に星が点灯した。
 エサを食えば一気に4つ星くらいになりそうだ。

「今のうちに勝負だ、ゴブリン」
「ゴブゥ! ゴッブゥ!」

 ゴブリンが飛びかかってくる。
 小さな図体の割には素早いが問題はない。
 冷静に回避してから、反撃のボディブローをお見舞いする。

「ゴブォ!」

 ゴブリンが唾液を垂らしながら吹き飛んだ。
 そのまま地面をコロコロと転がり、木に激突して止まる。

――――――――――――――――――――
【名 前】ゴブリン
【ランク】F
【友好度】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【屈服度】★★★★☆☆☆☆☆☆
――――――――――――――――――――

 一気に屈服度が跳ね上がった。
 よし、チャンスだ。
 俺はゴブリンに突っ込んだ。

「これで!」

 そして、助走をつけた後ろ回し蹴りを腹にぶちかます。

「ゴッ……ブッ……!」

――――――――――――――――――――
【名 前】ゴブリン
【屈服度】★★★★★★★★★☆
――――――――――――――――――――

 ゴブリンの屈服度が【テイミング】の発動条件を満たした。

「喜べ、お前が俺の初ペットだ」

 俺は即座に【テイミング】を発動した。
 ゴブリンの身体をスキルの淡い光が覆う。
 光は何度か点滅してから消えた。
 ゴブリンの頭上に小さなハートが浮かぶ。
 ハートはグラグラと左右に揺れ、そして固まった。

 ――成功だ。
 失敗の場合、ハートが割れていた。

「ご主人様ぁ、よろしくですぅ!」

 ゴブリンが挨拶してくる。
 ペットは言葉が話せるのだ。

「よろしくな。名前は何がいい?」
「ぼくのなまえ、ぼくがきめていいのですかぁ?」

 ゴブリンは左手の人差し指を咥えながら言う。
 話し方の感じといい、なんだか子供っぽい奴だ。

「いいよ」
「じゃあゴブオがいいですぅ!」
「ゴブオだな。OK。今からお前はゴブオだ」

 ゴブリンのオス、略してゴブオか。
 出来ればメスが良かったが、オスでもかまわない。
 オスのステータスはメスの2割増しだからな。
 ちなみに、メスのメリットは【魔物生殖】が出来ること。

「せっかく名前を決めたことだし、ゴブオのステータスを確認しておくか」

 ゴブオが「やったぁー!」と喜ぶ。
 何も喜ぶことではないはずだが……変な奴だ。
 そんなわけで、俺はステータスを確認した。

――――――――――――――――――――――
・名 前:ゴブオ
・性 別:メス
・ランク:F
・レベル:1
・H P:220
・筋 力:28
・敏 捷:19
・知 識:7
・魔 力:5
・耐久力:19
――――――――――――――――――――――

「お前メスかよ!」

 思わず突っ込んでしまった。
 一人称が「ぼく」で自薦の名前が「ゴブオ」だぞ。
 そこまで揃ってどうして性別がメスになるんだよ。

「そうですよぉ! みたまんまじゃないですかぁ」
「ゴブリンの顔なんざどれも同じだ」
「ひどいですぅ、ご主人様ひどいですぅ」

 やれやれ、初っ端から変わり者を引いたものだ。

「もう一方はまともであることを祈るぞ」

 身体の向きをスライムに向ける。
 ようやくエサにありついたところだ。
 ムシャムシャと食べている。

――――――――――――――――――――
【名 前】スライム
【友好度】★★★★☆☆☆☆☆☆
――――――――――――――――――――

 この調子ならあともういっちょエサをやればいけるな。

「ほら、次はコレを食いな」

 俺はスライムに近づき、追加のエサをプレゼントした。

「ぴゅるるん!」

 スライムが嬉々としてエサに飛びつく。
 あまりにも無防備なものだから蹴飛ばしたくなった。
 その衝動をグッと堪え、友好度を確認する。

――――――――――――――――――――
【名 前】スライム
【友好度】★★★★★★★★☆☆
――――――――――――――――――――

 【テイミング】の発動条件を満たしたぞ。

「失敗して星なしに戻ってくれるなよ」

 成功を信じて【テイミング】を発動する。
 スライムを包む光がハートになり、揺れて……固まった!

「よろしくー、ご主人様!」
「おう、よろしくな。名前を付けてやるからちょい待ち」

 一人称が「オラ」でも侮れない。
 ステータスを確認して、俺が名付けてやろう。

――――――――――――――――――――――
・名 前:※名称未決定※
・性 別:オス
・ランク:F
・レベル:1
・H P:300
・筋 力:6
・敏 捷:6
・知 識:20
・魔 力:28
・耐久力:30
――――――――――――――――――――――

 よし、今度は一人称通りのオスだ。

「お前の名前は“スラキチ”だ」
「スラ吉……それがオラの名前かー」
「おう。気に入ったか?」
「うんー。気に入ったー。オラはスラ吉だー!」

 こうして、俺は2体の【テイミング】に成功したのであった。
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