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第七十七話 思わぬ援軍
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「ヨシュ──」
飛び出した勢いのまま、攻撃に気づいた男が声を上げたのとほぼ同時に、顔面を鷲掴みにして地面に叩きつける。
一番離れた位置にいた敵は、既にアメリアが昏倒させており、俺の手近にいた一人には脇腹に回し蹴りをくれてやった。
かなり嫌な感触があったし、あばら骨くらいは折っていそうだ。
まぁ、奴らの中に魔法を使える輩がいる可能性もあったし、暴れられても嫌だったから仕方ないと割り切ろう。
少し話を聞こうとしてはみたが、大した情報はもっていなさそうだったので、簡単な持ち物検査だけして後に街灯の柱に縄で拘束しておく。
魔法が使えなくても魔道具の類を携帯している可能性は高かったし、マジックバックに何が入っているかなんてわからないからな。
彼らの近くに受付からもらった魔石を一つだけ置いてこの場を去ることにする。受付の彼から聞いた話だと、拘束した敵に関してはこの魔石の魔力を辿って回収しに来るそうだ。
「これで一通り終わりかな」
その後も五度の遭遇戦を終え、大した問題もなく次の集団を探す。中には自称二つ名冒険者らしい海鮮料理みたいな名前の奴らもいたが、戦力的にはカニ男と大して変わらなかったので障害にはならなかった。
今回はあの時と違って、そこまで手加減をする必要もないしな。
「変だな……」
「どうかしたの?」
「あぁ。明らかに敵が弱すぎる……」
前回のクーデターの時は、まだまともな敵がいた。
あのクーデターの後に反乱分子は相応の処罰が下ったため、前回ほどの戦力が整えられていないだけという可能性もあるが、彼ら自体が揺動でしかなく、何か大掛かりな作戦が裏にある可能性もあった。
「アメリア。何処かに人が集まってたりしないか?それも、とりわけ魔力の高い連中だ。ストルワルツにいるメンバーと同程度か、それ以上の」
「うーん、お父さんたちとは離れた場所に人が集まって来てるみたいなんだけど──っ!」
周囲の気配を探っている様子の彼女が唐突に身を強張らせた。
「アメリア?」
「何、これ……?」
──アメリアの声が小さく震えていた。
その事実に不安が募る。竜人の里を含む西の国には実力者が多い。その中で過ごしてきた彼女が恐れているのだ。
「どうしたんだ……⁉︎」
「わからない……。でも、最低四人はお父さんたちと同じくらいの魔力を持った人が集まってる……。さっきまで、そこに誰もいなかったのに……!」
竜人と同数の魔力って──それは本当に人間なのか?
「落ち着いてくれ。位置はわかるか?どのくらいの人が集まっている?」
先ずは状況の確認が先決だろう。場合によってはストルワルツに応援を求める必要があるかもしれないからな。
「場所はお父さんたちがいるところからもっと向こうの方。人数は千人くらい。──でも、さっきまで反応の無かった魔物の群れがいて……」
「魔物の群れ?」
まさか、首都近郊に魔物の群れが現れたのか?
「うん。数も多いし、何体か大物が混ざってる……。多分、三人が魔物を指揮してて、最後の一人が人間の指揮をしてる……」
人間が魔物の指揮をする──つまりはテイマーのような存在がいるのか?
「でも、おかしい……」
「……何がおかしいんだ?」
「──あの魔物たちの気配、カルレランにいたスケルトンたちに反応が似過ぎてる……」
カルラランの魔物に?西の国でも珍しい未踏破ダンジョンの一つであるあそこは、黒色変異種のスケルトンを中心に構成されている筈だ。
少なくても、俺はスケルトンを使役するテイマーなんて見たことがない。
実際そういった能力があるという話を聞いたことはないが、スケルトンを使役するというのなら、まだネクロマンサーや呪術師の方が現実的だろう。
いや、そもそも、西の国のダンジョンにいるはずの奴らが何故急に中央の国に現れたんだ……?
「戦況はどうなっている?」
「魔物が優勢。人間側が押し負けてる……これって、助けに行った方が良いのかな?」
──まぁ、そうなるだろうな。もし本当にカルラランのスケルトンたちを率いる者が出てきたのであれば、人間側に勝ち目はないだろう。
前線に出ているのも、ただの黒いスケルトンではなく、その上位種たちだろうからな。
もしかしたら、スケルトン・ジェネラルくらいまでは来ているかもしれない。
「いや、彼らには災難だが、助けることはできない。彼らが首都に攻め入らんとする敵であるならな」
それでも、状況の報告くらいはしておいた方が良さそうか……。
クーデター派が敗走するにしろ、それを軽く迎撃出来るような魔物の群れを放置するわけにはいかないからな。
そう思った矢先、急速に俺たちの方へ飛来してくる存在が索敵にかかった。
「──フレディか?」
「うん。多分、魔物の反応に気づいて情報の共有に来てくれたんだと思う」
何かあったらすぐに助けを寄越すって言ってたから。そう言って、アメリアは苦笑いを浮かべる。
それから間もなく、豪風を連れ立って直上まで来たフレディが、旋回しながら減速し、俺たちの傍に降り立った。
「久しぶりだな。フレディ」
「おぅ。それで、どこに行けばいい?」
フレディに釣られてか、アメリアも俺の顔色を窺ってくる。
「……」
本来なら、一度ストルワルツに戻ってアンナに報告を入れるべきだろう。
それでも、どうしても確認しておかなくてはいけないことがあった。
「巻き込んで悪い。少し距離があるが、魔物の群れと人間が争っている場所まで飛んでもらっても良いか?戦況の詳細を確認したい」
「わかった」
フレディがそう答えたことを確認してから、彼の背に乗り込む。
以前、スカルロードの情報を王女が直接買った理由が今更になってわかった気がする。
──恐らくは、そういうことなのだろうと。
飛び出した勢いのまま、攻撃に気づいた男が声を上げたのとほぼ同時に、顔面を鷲掴みにして地面に叩きつける。
一番離れた位置にいた敵は、既にアメリアが昏倒させており、俺の手近にいた一人には脇腹に回し蹴りをくれてやった。
かなり嫌な感触があったし、あばら骨くらいは折っていそうだ。
まぁ、奴らの中に魔法を使える輩がいる可能性もあったし、暴れられても嫌だったから仕方ないと割り切ろう。
少し話を聞こうとしてはみたが、大した情報はもっていなさそうだったので、簡単な持ち物検査だけして後に街灯の柱に縄で拘束しておく。
魔法が使えなくても魔道具の類を携帯している可能性は高かったし、マジックバックに何が入っているかなんてわからないからな。
彼らの近くに受付からもらった魔石を一つだけ置いてこの場を去ることにする。受付の彼から聞いた話だと、拘束した敵に関してはこの魔石の魔力を辿って回収しに来るそうだ。
「これで一通り終わりかな」
その後も五度の遭遇戦を終え、大した問題もなく次の集団を探す。中には自称二つ名冒険者らしい海鮮料理みたいな名前の奴らもいたが、戦力的にはカニ男と大して変わらなかったので障害にはならなかった。
今回はあの時と違って、そこまで手加減をする必要もないしな。
「変だな……」
「どうかしたの?」
「あぁ。明らかに敵が弱すぎる……」
前回のクーデターの時は、まだまともな敵がいた。
あのクーデターの後に反乱分子は相応の処罰が下ったため、前回ほどの戦力が整えられていないだけという可能性もあるが、彼ら自体が揺動でしかなく、何か大掛かりな作戦が裏にある可能性もあった。
「アメリア。何処かに人が集まってたりしないか?それも、とりわけ魔力の高い連中だ。ストルワルツにいるメンバーと同程度か、それ以上の」
「うーん、お父さんたちとは離れた場所に人が集まって来てるみたいなんだけど──っ!」
周囲の気配を探っている様子の彼女が唐突に身を強張らせた。
「アメリア?」
「何、これ……?」
──アメリアの声が小さく震えていた。
その事実に不安が募る。竜人の里を含む西の国には実力者が多い。その中で過ごしてきた彼女が恐れているのだ。
「どうしたんだ……⁉︎」
「わからない……。でも、最低四人はお父さんたちと同じくらいの魔力を持った人が集まってる……。さっきまで、そこに誰もいなかったのに……!」
竜人と同数の魔力って──それは本当に人間なのか?
「落ち着いてくれ。位置はわかるか?どのくらいの人が集まっている?」
先ずは状況の確認が先決だろう。場合によってはストルワルツに応援を求める必要があるかもしれないからな。
「場所はお父さんたちがいるところからもっと向こうの方。人数は千人くらい。──でも、さっきまで反応の無かった魔物の群れがいて……」
「魔物の群れ?」
まさか、首都近郊に魔物の群れが現れたのか?
「うん。数も多いし、何体か大物が混ざってる……。多分、三人が魔物を指揮してて、最後の一人が人間の指揮をしてる……」
人間が魔物の指揮をする──つまりはテイマーのような存在がいるのか?
「でも、おかしい……」
「……何がおかしいんだ?」
「──あの魔物たちの気配、カルレランにいたスケルトンたちに反応が似過ぎてる……」
カルラランの魔物に?西の国でも珍しい未踏破ダンジョンの一つであるあそこは、黒色変異種のスケルトンを中心に構成されている筈だ。
少なくても、俺はスケルトンを使役するテイマーなんて見たことがない。
実際そういった能力があるという話を聞いたことはないが、スケルトンを使役するというのなら、まだネクロマンサーや呪術師の方が現実的だろう。
いや、そもそも、西の国のダンジョンにいるはずの奴らが何故急に中央の国に現れたんだ……?
「戦況はどうなっている?」
「魔物が優勢。人間側が押し負けてる……これって、助けに行った方が良いのかな?」
──まぁ、そうなるだろうな。もし本当にカルラランのスケルトンたちを率いる者が出てきたのであれば、人間側に勝ち目はないだろう。
前線に出ているのも、ただの黒いスケルトンではなく、その上位種たちだろうからな。
もしかしたら、スケルトン・ジェネラルくらいまでは来ているかもしれない。
「いや、彼らには災難だが、助けることはできない。彼らが首都に攻め入らんとする敵であるならな」
それでも、状況の報告くらいはしておいた方が良さそうか……。
クーデター派が敗走するにしろ、それを軽く迎撃出来るような魔物の群れを放置するわけにはいかないからな。
そう思った矢先、急速に俺たちの方へ飛来してくる存在が索敵にかかった。
「──フレディか?」
「うん。多分、魔物の反応に気づいて情報の共有に来てくれたんだと思う」
何かあったらすぐに助けを寄越すって言ってたから。そう言って、アメリアは苦笑いを浮かべる。
それから間もなく、豪風を連れ立って直上まで来たフレディが、旋回しながら減速し、俺たちの傍に降り立った。
「久しぶりだな。フレディ」
「おぅ。それで、どこに行けばいい?」
フレディに釣られてか、アメリアも俺の顔色を窺ってくる。
「……」
本来なら、一度ストルワルツに戻ってアンナに報告を入れるべきだろう。
それでも、どうしても確認しておかなくてはいけないことがあった。
「巻き込んで悪い。少し距離があるが、魔物の群れと人間が争っている場所まで飛んでもらっても良いか?戦況の詳細を確認したい」
「わかった」
フレディがそう答えたことを確認してから、彼の背に乗り込む。
以前、スカルロードの情報を王女が直接買った理由が今更になってわかった気がする。
──恐らくは、そういうことなのだろうと。
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