勇者の婿取り~強面女性騎士と報奨の王子~

小西あまね

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11 戦い

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 村長が言った巣穴は、村外れの峡谷にあった。
 切り立った崖は4階建て程の高さか。クレシュは崖の上に立ち、谷を見下ろす。
 底の中央部に細く川が流れており水は少ない。谷底を目で辿ると、岩壁に横穴が開いているのが見つかった。村長の話の通りだ。
 しかしあの穴を調べる前にやることがある。

 クレシュは確認する風に崖下を見下ろしながら崖の端に沿って歩いた。そして一本の木の根本まで来ると、突然その幹を思い切り蹴飛ばした。
 それなりに太い木が激しく揺れ、木の上から何かが落ちた音と枝が折れる音がして、ばらばらと色々降ってくる。葉と枝と、弓と矢。
 木を見上げると、高い枝から落ちたらしく低い位置の枝に必死でしがみついている男が一人。
 即座に剣を抜きその肩を貫くと本体も降ってきた。
 容赦なく頭を蹴って昏倒させる。

 と、クレシュの近くの木の幹にカッと矢が突き立つ。
 やはりまだ他にもいるか。
 いるとしたらあの辺り、と当たりをつけた方向と自分の間に木や茂みが盾になるよう動いていたので、上手く木が盾になってくれた。
 クレシュは気配に敏いが、隠れ場所の多い森で無制限に敵を察知するのは不可能だ。
 しかし予め待ち伏せを予測していれば、身を隠し敵を討つならどんな所がいい、という当たりはある程度つく。そして更に、今のように矢を撃ってくれれば射手の位置は割り出しやすい。

 クレシュが真っ直ぐ駆け出すと、その先で茂みをかき分け走り去る音がした。
 しかし道から外れた森の中、障害物が多過ぎてお互いスピードは出ない。茂みなどを迂回できる所を探して走らなければならない男に対し、同じコースで追えばいいクレシュの方が速く、やがて追いついた。

 逃げ切れぬと悟った男は振り返り、短剣としては長いが長剣としては短い独特な剣をクレシュへ向けて一閃した。
 クレシュはそれを避けながら自分の剣を抜き、二閃目は見切って剣を跳ね飛ばした。そして蹴りを入れて転がったところで剣の柄で殴り、これもまた昏倒させた。
 さっきの場所からは多少離れてしまったので、武装解除させて後で見つけやすい所を選んで木に縛っておく。後で誰かに拾いに来させよう。
 先程の所へ戻ると木の上にいた男はまだ転がっていたのでこれも縛る。

 糧食の毒が不発だった以上、焦って何か仕掛けてくるのではないか、とクレシュは予め警戒していた。
 標的が単独行動していると狙いやすかろうと、この魔物の巣穴調査は囮を兼ねて動いていたが……それが当たっても嬉しくも何ともない、とクレシュはため息を吐く。
 
 木の上の男を見つけられたのは、谷底の横穴付近にいる者を遠くから狙い撃つならどこに場所取りをするか、と当たりをつけてそこを集中的に探したからだ。
 谷底にいる時に上から攻撃されるのは大変不利だ。雨あられと矢や岩を落とされても谷から上へは矢もろくに届かない。
 標的が谷底に行く予定なら、それを狙うのがセオリーだ。

 二人から回収した弓矢と剣、そして小瓶を調べる。小瓶には緑がかった黒色の粘度が高い液体が入っており、矢尻と剣にも似た色がついていた。恐らく毒だろう。
 やはり勇者を倒すには毒がいいらしい。
 ルーゼル団長の言った通り、勇者とできるだけ剣を交えない方法を彼らは選んだ。私は猛獣扱いか。

 その後、念のため谷底に下りて横穴を調べたが、村長が主張したような魔物の巣穴であった痕跡はなかった。
 クレシュは木の上にいた方の男を馬に荷物のように乗せる。とりあえず一人は確実に持ち帰って聴取が必要だが、クレシュを含めて3人も載せると馬が潰れる。
 もう一人も日が暮れる前に回収に来てやれば、肉食動物や魔物に喰われることもないだろう。多分。



 そうして村へ帰り、殺害未遂で村長達を呼びつけた。
 締め上げ……聞き取りした結果、村長は単に思い込みで魔物の巣穴だと言っただけで襲撃とは無関係だった。
 しかし、会議で村長の隣にいた副村長の男はハントス公爵の手の者に買収されていた。

 会議でクレシュが単独で村外れへ行くことを知り、好機として刺客を先回りさせ送り込んだ。
 刺客の二人組は、派遣隊が毒の食事を摂り混乱した隙にクレシュを討つため用意したが、空振りに終わり待機中だったためすぐ動けた。
 刺客は黙秘を続けたが、副村長はあっという間に自白した。
 訊かれていないことまで次々話すのは罰の軽減を期待しての情報提供と思われ、実際そう口にしていたが、派遣隊の聴取官は軽減の明言はしなかった。
 聴取の様子をドアに凭れて聞いていたクレシュは、副村長の次の言葉で背筋が凍った。

「ヴェルディーン殿下は今頃はハントス公爵様の元にいらっしゃる筈だ。別の者が王都で動いていて、下衆な女の屋敷に囚われた哀れな状況からお救い申し上げると聞いている」

「貴様ら、ヴェルディーンに何をした!」
 部屋に雷のような怒号が響き、クレシュが副村長の襟首をつかみあげた。灰色の目が爛々と怒りに燃え男を睨み据える。
 普段の冷静なクレシュを知る聴取官は瞠目し、言葉を失った。

 副村長は顔を引きつらせる。
「いやっ、俺は何もしてない! そういう計画だって聞いただけでっ……」
「何をする計画だ!」
「屋敷から、お連れすると……」
「誘拐か!いつ誘拐したんだ!」
「……っ、知らない!その、まだかも!俺は計画を聞いただけですから!」
「いつを計画していた!」
「大体今日辺り……い、色々調整があるから2,3日前後するかもって…」

 クレシュは副村長を放り出した。
 部屋を飛び出すと、派遣隊の補佐を捕まえて極めてかいつまんだ説明をした。
 目を白黒させている補佐に、魔物討伐任務終了の領主への説明とクレシュ暗殺未遂事件の後始末を託すと、ほぼ身一つで馬に飛び乗り王都を目指した。

 派遣隊が村に来るまでの行程は2日半だったが、荷物の重さなしで馬を替えつつ単騎で走り続ければその半分で着く筈だ。
 ヴェルディーンに何が、と思うと胸が張り裂けそうだった。
 ネルフィア殿下にも、剣にかけて彼を守ると誓ったのだ。
 どうか--無事でいてくれ。
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