理系屋さん~理系女子と騎士のほのぼの事件簿~

小西あまね

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2章 爆発な事件

2-2

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 エルンストは食後のお茶を一口飲んで喉を湿らせて話し出す。
「現場が遠くて手紙じゃ情報が少なくてよく分からないんだが、工場や何かで爆発があって、その原因を調べてほしいそうだ。事故か、犯罪か、国境近いから隣国の破壊工作かと揉めに揉めてるそうでな」
「パス」
 ベルティーナは即刻却下した。
「なんでー!!」
 エルンストが眉尻を下げる。

「なんで私にそんな話が来るの。私は一介の天文学者。それは騎士団とか…小説で流行りの探偵とかの仕事じゃないの? 内容も理系分野とは言い難いし。水車の不具合とか、機織りの糸を切れにくくする方法とか、そういう相談ならのるよ」
「いや、勿論捜査は騎士団でやるよ。でも利害関係のない科学者の目で、科学的事実をはっきりさせてくれれば手がかりになるだろう? 工場の設備が壊れたのかもしれないし、爆薬が使われたなら種類や特徴が分かれば犯人をたどることができるかもしれない」
「騎士団が現場検証しても、少なくともある程度は分かるでしょう」
「それがな…。身内の恥になるが、騎士団でも科学的捜査を取り入れられるようになったのは割と近年になってからだ。俺らが子供の頃まではもっといい加減だったろう?」

 ベルティーナは眉を顰める。
 貧困層で動機のありそうな者を捕まえて、証拠や自供がなくても権力者や騎士団が犯人だと言い張れば刑が執行される、というやり方が、どこの国でも行われてきた歴史がある。それは事実だった。
 探偵小説が流行しだしたのも、きちんと科学捜査する探偵を大衆が求めたからだ。
「少しずつ改善されてきてはいるが、特に地方だと未だそんな感覚の奴も多い。そういう上司を見かねて、まともな感覚の奴が俺らに手助けを求める手紙をよこしたんだ」
「うわぁ…組織あるある。てか、まともな人がいただけでもマシなのか…」

 ベルティーナはため息を吐く。一介の天文学者にとっては、斜め上なうえ重すぎる依頼だ。
 しかし科学的客観的証拠もなく、社会的弱者というだけで冤罪を背負わされるかもしれないと聞くと、もうダメだ。
 断っても、その後ずっと、自分が動かなかったせいで人生変わった人がいるかもしれない、と自分はぐるぐる気に病み続けるのだろう。
 そこまで自分が背負うことじゃない、と頭では分かっているけど、気持ちが割りきれないのがベルティーナという人間だ。

 いつも依頼を持ってくるエルンストはそれを見越している気がして、恨みがましい心持ちも湧いてくる。
 しかしエルンストは、決して丸投げはしない。面倒なことになっても、最後まで一緒に案件に関わって必ずベルティーナの味方になる。
 春の伯爵家の案件もそうだった。伯爵の手打ちにされるかもとびくびくしつつも、そんな時はエルンストが必ず守ってくれる筈、と信じられたから、最後まで仕事をやり遂げることができた。

 国だ何だなんて大ごと、絶対関わりたくない。ベルティーナは小心者の引きこもり学者なのだ。
 けれど、エルンストの依頼なら、少なくとも最後の最後のところは必ず守ってくれるだろう、と確信に近い信頼がある。
 最悪、命が危なくなったり、国のお尋ね者にされたりしたら、国外の小さな村で研究の続きをして暮らせる程度の用意は整えてくれそうだ。

 それに、エルンストの持ってくる依頼の報酬のお陰で、測定機器や本を買って研究を続けていられることは確実だ。
 村人の相談にのることで報酬に貰う野菜や卵で生きてはいけるが、研究費まで稼ぐのはかなり厳しい。学術研究の成果は必ずしも金になるものではないし。
 ベルティーナにとって天文の研究は、自分そのものと言っていい位不可分の大切なものだ。それを続けるには相応の収入が得られる仕事が必要だ。
 そういう意味で、エルンストには大変感謝している。

「分かった。私に何ができるか分からないけど、引き受けるよ」
 歓声を上げるソプラノとバスの大小コンビ。
 仲いいな…


=====
 19世紀、シャーロック・ホームズの探偵小説が流行したのは、科学的調査を取り入れる捜査手法が当時まだ珍しく、大衆に歓迎されたのが大きな要因と言われます。
 本作は近世欧州風ですが架空の国と時代が舞台なので、作中の「流行りの探偵小説」はホームズを指してはいませんが、そんな位置付けの作品と思ってください。
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