異世界でワーホリ~旅行ガイドブックを作りたい~

小西あまね

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2章

19 夜空

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 その後合流したアレクに予定変更を詫び、残りの取材予定を駆け足でこなして夕方。
 レストランで取材を兼ねた夕食を取りつつ、やっと昼間の事情を詳しくアレクに説明できた。

「そうでしたか。ご婦人を助けたのは流石ハナらしいですね。しかもその方がうちのガイドブックの読者とは」
「急に約束した予定を変えてごめんなさい」
 ブラの話は避けつつ、体にいい体操を教えたことは伝えた。
「いや、勿論人助け優先でいいですよ。こちらもいくつか他の取材を前倒ししたりして、できるだけ進めておきました」
「フォローありがとう。その代わりというか、富裕層の方々のこの温泉へのクチコミも聞いてきたよ」
「それまた、臨機応変でフットワーク軽いというか、流石ハナですね。他の利用客の声は聞きたいですし、富裕層は伝がなかったからありがたいです」
 アレクが笑う。飲んでいるのは庶民向けのエールではなくワインだ。私は下戸なのでソフトドリンク。
 この店は超絶ゴージャスな程ではなく、私達がちょっと気取れば入れる程度だ。
 どうせ全ての店を食べ歩くことはできない。既存のガイドブックは富裕層を意識した店の紹介が多かったので、私達はもう少しコスパのいい辺りの情報を重点的に集めたかった。

 昼間ギブソンさんから聞いた、カーライル研究所の出資者の変更と、新出資者の良くない噂の話をアレクに伝えた。
「……その話は知りませんでした。知っていたらもっとカーライル研究所のことを疑ったのに」
 アレクが悔しそうに言う。研究所というより、自分を責めるかのように。
「ギブソンさんも、まだ自分達実業家でしか噂が広がってないって言ってたよ。仕方ないよ。それよりこれからのことを考えよう」
「男爵のディラン・デイヴィス氏、ですか……」
「知ってるのアレク」
「確か新聞で記事を見かけたことは数回。やはりいい内容ではありませんでした。カーライル研究所に出資していることは知りませんでした」
 私も同じ新聞を読んでいる筈だけど、英文を読む勉強で一杯一杯で記憶に残ってない。

「ハナの帰還や補償について、カーライル研究所への交渉を何ヵ月も続けていますが、膠着状態です。
弁護士を頼るのは、金銭的にも大変難しいですがーー何より、俺達と研究所の関係を話さなければならないので、異世界からの転移実験やハナが異世界人ということが公になって、ハナがこの先生き辛くなる可能性があるので避けたいです。
デイヴィス男爵の方から何か分かれば、交渉の突破口になり得るかもしれませんね」
「えーと。弱味を握るとか?」
「そこまでいかなくても……ジョンが、人一人が行方不明になった火災はそれなりに大きな事件です。その事件そのものに男爵が関わっていなかったとしても、叩いて埃が出る隙になって、何か情報が手に入るかも知れません」

 アレクは生真面目で正攻法な人のイメージだったけど、こうした絡め手も考えられるんだな、と少々意外。
 いや、苦労人だし、店主までやってるし、今までの人生で色々ダークなことも見てきたんだろうな。それでも普段はあえて正攻法な生き方を選ぶのだから、性根が真っ直ぐな人だよなぁ。尊敬する。

 研究所対策と、ガイドブックの取材の情報整理を話しているうちに大分遅くなり、店を出たときには真っ暗になっていた。あと2ヶ月少しすれば冬至だもんなぁ。こちらに来たときは夏至近かったのに。
 今は夕方5時半には暗い。冬至には3時台に日没って聞いたけどマジか。ちなみに夏は夜8時半位まで明るかった。夏時間がある時代なら9時半だ。
 日本より緯度が高いよなぁ。南欧であるイタリア辺りで北海道位の緯度だった筈だけど、この国はもっと北のようだ。パリとかフランクフルト辺りの緯度だろうか。

 空を見上げて、思わず声を上げた。
「あ!さそり!」
「え?さそり?!」
「えーと、単語が出てこない!空の星を繋いで絵になぞらえる……」
「星座(constellation)?」
「そう!あの星座……さそり座は私の世界と同じ形!」
 地平線ギリギリだけど、あの特徴的な星3つ&星3つの並びや、一際輝く『さそりの心臓』赤い星のアンタレスは間違いない。星座に詳しくない私が見つけられる数少ない星座の一つ。

 慌てて見回すと、北斗七星とカシオペア座も見つかった。空気が綺麗で灯りが少なくて見える星が多すぎるから、北極星は星々に埋もれてどれか分からないが、あの辺りが北ーー『天の北極』だろうと見当をつける。日本で見るより大分天頂寄りの位置にある。本当に、緯度が高い土地のようだ。
「こちらではあれはさそり座って言わない?」
「うーん。俺は星座は詳しくないんです。でも聞いたことのない星座です」
 ギリシャ神話が元になった星座名だから、こちらでは違う宗教を元に違う星座名があるのかもしれない。少なくとも星座という概念はあるようだ。

 とはいえ、この宇宙が、私の世界の宇宙と同じだということにびっくりした。
 考えてみると、この世界は大気の成分や植生や人体の必要栄養素や建築や、言語すら酷似しているのだから、ここはパラレルワールドではあっても『地球』の筈だ。
 『地球』は同じなのに、『地球』以外の太陽系や他の星々は全く一致しないという方が不自然かもしれない。
 パラレルワールドの解釈で超過去とか超未来ってあるよね。私の世界の文明が滅んで数千万年経ったのがこの世界、とか。
 でもその位長く年月が経つと星々が移動して星座が崩れている筈だから、超過去や超未来じゃなくて、本当に普通に(?)平行して存在しているパラレルワールドということか。
 うーん。SFというかエセ科学というか。
 これまで夏場は忙しかったから、夜空なんて見上げる機会がなくて気付かなかった。

 夢中で星を目で追って、つい空を見上げたままふらふら歩いてしまう。
「危ない!」
「わっ?!」
 道の縁石に足を引っかけ、仰向けに転びそうになったのをアレクが支えてくれる。後ろからすっぽり腕の中に填まってしまう。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい!大丈夫!」
 顔だけ振り返り、慌てて体を起こ……そうとしてバランスを崩す。
「足を痛めましたか?!」
「いや、その……」
 この年になって空を見上げて歩いて転ぶとか恥ずかしすぎる。その上……あぁ、顔から火が出そうだ。でも言わざるを得ない。
「靴が片方どっかいっちゃった……」


「うーん……ないなぁ」
 街路灯はガス灯で比較的明るいけどまばらで、その僅かな光の下、二人で真っ暗な石畳の歩道に蹲って靴を探す。左右が植え込みになっていて、その中に飛び込んでしまったようだ。
 長いこと私は元の世界のスニーカーを履いていたのだが、身形をきちんとするという観点ではかなりルール違反なので、ビジネスであちこち出歩くようになって必要に迫られアレクに買って貰ったのだ。サイズは合っているのだが、革靴なので流石にスニーカーよりは脱げやすい。転んだ拍子に飛んでいった。
 
 ……アレクの背中が小刻みに震え、圧し殺した震え声が漏れている。
「……いいよアレク、いっそ豪快にパーッと笑っちゃって!最早アホらしすぎて笑い飛ばさなきゃやってられまへんわ!」
「ブッ……ハハッ、ハハハハーッ!」

 文字通りお腹を抱えて笑い転げるアレク。
 いやもう、楽しんで貰えて光栄です。
 涙が浮かんだ目を擦りながら、空に向けて大口開けて笑っているアレクを見ていて、ふと気付く。アレクはいつも礼儀正しく穏やかなので、こんなに大笑いしているのを見るのは初めてかもしれない。無防備な全開の笑い顔が、何となく嬉しい。例え自分のアホな失敗が原因としても!

「いや、すみません。笑い事じゃないですよね」
「いやいや、これぞ笑い事だよ」
 アレクの全開笑顔も見られたし、たまにはいいさ。
「暗くてよく分からないですね。明日明るくなったら俺が探しに来ますよ。今日は帰りましょう。ちょっと失礼しますね」
 え? えええええ?!
 なんと、アレクが私を抱き上げた。お姫様だっこという奴だ。
「わっ、ちょ、アレク」
「危ないので余り動かないでください。しっかり掴まってくれると助かります」
 うわ。顔が近い。ガス灯に照らされ陰影がくっきりして金色の目が綺麗で、イケメンが心臓に悪い。思わず目を逸らす。

「下ろして、歩けるから!」
「靴なしで歩くのは危ないですよ。空を見上げて靴を飛ばしたせいと観念して下さい」
 まだ笑っている腹筋の振動が伝わってきて、怒りたいやら狼狽えるやら。じわじわ顔が熱くなってきて、赤くなってる自信ある。昨日の少女よ、ちょっと羨ましいとか思ってごめん。これは恥ずかしいわ……。

「あ…と、嫌でしたか?」
 アレクは眉尻を下げ気遣わしげに言う。
「いや、そうじゃなくて、アレクが重いでしょう!」
「全然。なんだ、それなら問題ないです」
 ほっとしたように破顔して、アレクは奇妙に機嫌よさげに、私を抱えたまま歩き出す。うぬぅ。何だか悔しい。

「アレクはこういうの慣れてるんだね」
「え?」
「昨日も女の子抱き上げてたし」
 アレクは割と奥床しくて照れ屋な人なのに、こういうのは平気な感覚が分からない。
「慣れの問題では……。
あぁ、先代が一度店で倒れたって話したでしょう。暫くは安静が必要で、3階の部屋から1階の手洗いまで階段で行く時とか、こうして毎回俺が運んだんです。そういう意味では慣れてます。
昨日のあの道は車も入れないし、誰かがああやって運ぶか担架しかないですからね」
 お姫様抱っこが、ロマンス枠でなくまさかの介護枠だった!

 私の様子を見て、アレクが不思議そうな顔をする。
「あれ?ハナの国ではこういうの珍しいですか?」
「えーと、怪我人の介護とかでない場合、かなり親密で気恥ずかしい範疇……」
「いや、こちらでも基本そうですが。……え?! でも列車で長時間男女が密着する国なんですよね?!」
 成程、そういう誤解があったのか。
「満員列車は心を無にして乗るものだから。こういうのは別」
「ハナの国の文化は難しい……」
 異文化交流難しい。そうだ、私も気になってたことを聞いてみよう。

「そういえば、あの女の子の階級ってどの辺りだったの?アレクは分かった?」
「上流階級でしょう。だからあんな所に一人でいて驚きました」
「はー……。私は見分けられないんだよね。まだまだ私たちこちらのこと分かってないなーって落ち込んだよ。服で分かるの?」
「いえ?単に発音です。見事な上流階級のアクセントだったので」
 発音!そうか!映画『マイ・フェア・レディ』みたく、発音の違いが階級差をはっきり示す時代だもんね!私はまだ聞き分けられないけど、理由がわかって目から鱗が落ちた。
「服はよく女主人から使用人に下げ渡すから、初対面の来客が女主人と使用人を間違えたなんて話もある位で、こちらの人間でも間違えるものですよ」
 昨日感じた疎外感が引いてく。いや、人の失敗に安心しちゃいけないけど、人間根っこは自分と変わらないんだ、と親近感が湧く。

「ハナでも落ち込むことあるんですね」
「それは勿論!沢山あるよ?!」
「だって、ハナは普段優秀で完璧だから。親近感が湧きました」
「優秀?!完璧?!それはないよ?!」
「それが今日は意外な面が色々見られて嬉しいです。靴を飛ばしたりとか、人間臭くて一気に親近感が湧きました」
 何故ーー!!
 しかし本当に、アレクは何だか機嫌がいい。私を抱く腕に妙に力籠っている気がするんだけど気のせいですか?! 普段のエールより今日のワインの方がアルコール強かったせいですか?!
 そんな妙に浮かれた様子のアレクが可愛くて、嬉しくて、そして凄まじく恥ずかしくて。心が凄くざわざわして走って逃げ出したい気分。

 空には綺麗な秋の月。
 ガス灯がぽつりぽつりと灯る石畳の道を、じたばたしつつアレクに運ばれていったのだった。
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