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文献等(小説ではありません)
作成裏話
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本作をお読みくださりありがとうございました。
ここでは小説ではなく、作成裏話を書かせていただきます。
作品やキャラのイメージが崩れるかもしれないのでご注意ください。
そういうものは読みたくない方は、回れ右絶賛推奨です。
〈目次〉
1 人物名裏話
2 作成秘話(?)や裏設定
◇◆◇◆◇◆
1 人物名裏話
登場人物の名前の裏話。
ハナ以外は英語名です。モデルにした地域と時代では庶民も姓があったので皆さん姓がある設定なのですが、作中出てこなかった方も…。
【瀬谷羽南】
羽南の名前の意味は本編最終話にて。
瀬谷という名前は、エッセイ「職業は武装解除」著者の瀬谷ルミ子さんから頂きました。
日本初のDDR(兵士の武装解除・動員解除・社会再統合)の専門家で、24歳で国連ボランティアに抜擢され、27歳でアフガニスタンのカルザイ大統領から助言を求められたほか、国連PKO、外務省、NGOの職員として勤務、30そこそこで認定NPO法人日本紛争予防センター(JCCP)事務局長に就任した方。「世界が尊敬する日本人25人」(2011年 Newsweek日本版)、 「International Leaders Programme」(2015年 イギリス政府)等にも選出されました。
高校時代の決断、そこから地続きに今へ至る足取りを追った上記エッセイは、進路に悩んだり、自分に何もできないと萎縮してしまっている人に力をくれる本です。
【アレクシス・リベラ】
リベラ(Rivera)は川岸や川の近くに住む人という意味の姓。作中出ませんでしたが、施設で付けてもらったという設定です。
アレクシスは作中にあるように「守護者」「防護者」の意味がある名前です。彼は攻めより守りなイメージです。同じ語源を持つアレックスとどちらにするか迷ったのですが、Alexは英語の発音が「アリクス」に近い(私の耳調べ)ので、ハナが発音した時しっくりくる方にしました。
個人的には、アレクシスというと米国TVドラマ「アグリー・ベティ」の美女アレクシスの印象が強烈です。基本は男性名ですが女性名にも使われます。ダメ男な副主人公の優秀な兄アレックスが、全てを捨て全身整形してスーパーモデル体型の美女になって帰ってきて、「アレクシスと呼んで」と華やかに笑うシーンは痛快です。
【ジョン】
英語男性名をと考えて、まずジョン・ワトソンが浮かんだので…ファンの方ごめんなさい。「ジャン」の誤字を大量生産し修正に苦労しました。直ってない箇所がありましたらこっそり教えてください。
【リサ】
以前海外旅行した時、一緒になった現地ツアーでとても良くして下さった、バックパッカーの若い米国女性のお一人から名前をいただきました。なお、同じツアーに日本語学習中という男性と面倒見のいい女性のスペイン人カップルがいらして、このお二人も英語の苦手な私を親身にフォローしてくださって感動したのが、作中の伯爵令嬢のエピソードに反映されています。
【オリバー】
英語圏で人気の男性名ランキングで1位だった名前。ラテン語でオリーブの意味です。ノアの箱船に鳩がオリーブの枝を運んできて以来、英語圏ではオリーブは平和の象徴。
【イザベラ・ギブソン夫人】
「参考文献」でも書きましたが、ヴィクトリア朝の大ベストセラーのマニュアル本「ビートン家の家政本」を作り上げた有能編集者、イザベラさんから名前をいただきました。
【先代】
素晴らしく存在感と功績がある方なので、作品のバランスを全部持っていきかねないので、作中では回想と会話の中だけの登場とし、名前も出しませんでした。最強。
◇◆◇◆◇◆
2 作成秘話(?)や裏設定
作成秘話や作中生かせなかった設定など。
(1)貸本屋
古代ローマでは本屋が出版も行った、ということを私が知ったのは、諏訪 緑先生の漫画「パピルスは神 ~キケロ・カエサル・アッティクスの記~」でした。なので、そんな本屋でガイドブックを作る話にしよう、と資料を探し始めました。
ガイドブックを売る展開上、庶民が一定以上の識字率で、金銭・流通的にも本を手にできること、鉄道が普及している時代であることが必須だったため、19世紀頃の時代設定にしました。
当初は本屋にしようと思っていたのですが、人口の大半である労働者階級が気軽に本を買えるようになるのはもっと後の時代と分かり頓挫しました。
代わりに貸本が発達していたことを知り調べていくと、出版と兼業とか、会員外単発貸出システムとか、元から書きたいと考えていた設定を、そのまま当時の貸本屋がやっていて。やっぱりそういうシステム欲しいと思うよね!ナカーマ! と同士愛が生まれて貸本屋となりました。
なお、私は理系で、学生時代は歴史は大の苦手でした。それを払拭してくれたのは、前述の漫画家 諏訪緑先生の歴史題材の漫画の数々でした。
前述の「パピルスは神」は、紀元前のローマを舞台に、人類史に初めて名を残した公刊人(編集者)ティトウス・ポンポニウス・アッティクス、古代ローマを代表する思想家キケロ、ローマ一の有名人カエサル(シーザー)が、恐怖政治を敷く権力者に対し、古代ローマ最大の財産であり世界に輸出し続けた「法」の正義をかけ立ち向かう話。
諏訪先生は、代表作「諸葛孔明ー時の地平線ー」「玄奘西域記」ほか、古今東西の歴史や伝説を題材に、壮大さと、緻密な構成と、繊細な表現力と、知識と思慮に裏付けられた深いテーマ性を持つ作品を多数描かれているので是非お勧めしたいです。
(2)貸本屋の間取り
ハナとアレクが住む貸本屋兼住宅の間取りは、資料と作品の都合の狭間で散々悩み、間取り図面を何度も書き直して決めました。実在の(大手チェーンでない)貸本屋の写真や図面が手に入らず、且つ千差万別だったようなので大分自由に書きました。創作としてご了承ください。
自分が住むならキッチンとダイニングで階を分けるなんて面倒なことは決してしたくありません(笑)
【資料を参考にした要素】
◎欧州はリビング(兼ダイニング)へよく客を招く文化があり家の顔として重要視するので、2、3階で窓からの景色のよい一番いい部屋をリビングにする
◎上記理由で、匂いがダイニングに流れるのを避けるためキッチンは分離され、ワンルームのアパートで狭い等事情がない限りオープンキッチンにはしない。キッチンに休むための椅子とテーブルを置くことはある。
本作では、石炭や食材をキッチン地下の貯蔵庫に保管し、近所と共有の井戸を利用し、排水は家の前の側溝へ運ぶと設定しているので、毎日の調理に便利なようにキッチンは1階にしました。
◎2階建ての場合、1階に店と奥の作業部屋、2階に寝室等プライベートと仕事の空間をはっきり分ける
◎洗濯場の床は石畳等排水を考慮したもの
◎地下室は上部に陸上から見える換気孔あり
他
【資料によらない要素】
◎欧州はキッチンが家の中央にある間取りがよく見られる。中世には日本の囲炉裏に当たるような暖房兼調理火力装置(ストーブ)を、暖房効率を良くするため家の中央においた背景があり、欧州は数百年単位で古い家が沢山あるため、ストーブが現代的レンジに置き替わっても間取りが維持されている。
しかし本作の貸本屋のキッチンは1階南端に。レンジの燃料の石炭は煤が大量に出るため、先代は大事な本を煤で汚したり熱や湿度の大きな変化に晒して痛めたりしないよう、レンジを北端の店舗部分と離しただろうと現位置に。
◎作り付けの湯沸かし釜は地下室や屋外に置くことが多かったようです。本作では、どちらも使い辛そうなのと風呂場兼用という特殊設定を考慮し、1階を想定しています。
◎リーディングルームや店舗や書庫や規模は資料が乏しく完全に創作
◎当時の労働者階級の家は、ワンルームに1家族が住んだり、半地下だったり、隣家と壁が共有(つまり横方向に窓がない)だったりします。本作の貸本屋兼住居は相当広くていい物件です。
上手くいっている自営業者で、本人達の認識は労働者階級だけど、裕福さとしては労働者階級上層~中流階級下層辺りを想定しています。本作では「労働者階級」という言葉は使わず「庶民」「平民」といった言葉を使っています。
蛇足ながら、本作表紙写真はドイツのロマンチック街道の起点の街、ヴュルツブルクです。
セピア色っぽく色調加工してはいるものの、一面の朱色の屋根瓦をはじめ、街並みは昔のヨーロッパそのままのようです。でも現代の写真です。
中世から今まで、勿論19世紀頃も、人々はこんな家々に住み、こんな風景を見て暮らしていたんですね。
(3)出せなかった設定
設定メモに残ったままのことつれづれ。
◎メラニンの関係から、肌や髪が濃い場合は大抵目も濃い色です。そして金(琥珀)色の目は肌色が薄くてもかなり稀な存在比率です。アレクが黒髪褐色肌で金目なのは、珍しい例とご了承下さい。黒髪の間から覗く金色の目、というのは作者のロマンです。
本作では髪や目の色の存在比率は現実の欧州とある程度近い比率にしようと思い、男女とも金髪は1、2人であとは髪色が濃い目にした程ですが、アレクの目は拘りでした(笑。しかも今調べたら、女性キャラで唯一金髪の設定だった伯爵令嬢の髪色を作品中で書いていませんでした…)
◎昔の欧州の食物をイメージする中にチーズがありますが、19世紀英国の労働者階級ではバターは週一度のご馳走で、牛乳は水で薄めて色の薄さを誤魔化す白亜を混ぜ物にして売られたような時代でした。酪農はかなり地域差もあったようで、欧州の南や東の山岳部等だとまた違うかもしれません。
作中でハナがココアを淹れるのに使っている無糖練乳は、濃縮したミルクで加熱殺菌して缶に入っているので、産地と離れた地域でも安全な牛乳が流通するのに役立ったようです。
本作ではヴィクトリア朝の市街地域のように、卵と乳製品と肉が労働者階級の食卓に殆ど上らないのが一般的なことを想定していたので、食事メニューや生鮮の買い物のシーンでは大分頭を悩ませました。
ちなみに鉄道員は裕福な方で、毎日卵やソーセージを食べたりもできたようです。オリバー達は多分ハナやアレクよりゴージャスな食事をしていましたが、栄養学的には知識のあるアレクの料理の方が優れていたかも。
◎貸本屋3階は丸々プライベートスペースなので、ハナの発案で土足禁止にしているという設定がありました。病原菌やウイルスを持ち込み辛くなるし、掃除も楽になるということで。
ハナが病気になるよりずっと前からそうしていたけれど、ハナはこちらの気候や保温条件等に体が慣れていないし無理が重なってたので発病したと考えています。
室内履きや布は高いので、新聞紙を折り紙して作るスリッパ(ハナが元の世界の防災サイトで覚えた)をハナが定期的に2人分作っています。
◎ヴィクトリア朝英国ではシャツは下着扱いでそのまま外を歩くことはなく、必ずベストと上着を着たと資料にありました。夏や南欧で暑いとどうだったのか気になります。寛ぐ時や自分の店の中で上着を脱ぐ位はあるようです。
アレクは店内では普段ベスト姿でいて、褐色の肌と真っ白のシャツが映えて凄く似合っていて、ハナの一番のお気に入りスタイルという設定がありました(笑)。
ヴィクトリア朝のトラウザーズ(ズボン)は、動いても腹や背中が出ないよう股上が長く胸の下位まであって、ブレイシーズ(サスペンダー)で留めたので、ベストがある方が現代の感覚では格好良いかもしれません。でもアレクはスタイルがいいので、サスペンダー姿も様になりそうです。
◎作中あえて避けて通った話。
当時は室内用便器(チェンバーポット、おまる)は富裕層から最貧層までどこの家庭にもある必需品でしたが、本作では1階のトイレ使用の設定を貫きました。創作結界として史実と異なることをご了承ください。
また、野菜や森や住居等で、虫との出会いに事欠かない生活環境だったと思いますが、作品では一切カットしました。気にしちゃダメだ!(笑)
◇◆◇◆◇◆
最後までマニアックな話にお付き合いいただきありがとうございました。
本作は、ワーキングホリデー(風味)や異文化交流を描く題材のため、ある程度実際の歴史や文化や風土を忠実に描く作風を選んだため、調べものが大変でした。
なお、それは裏返しに、史実よりエンターテイメント性に比重を置く作品を否定する意図ではありません。本作でも、史実と異なると分かっていて書いた部分を多く持ちます。
本作は作者自ら、歴史が専門でもないのに歴史資料と格闘する茨の道へ自分を追い込みましたが、本作を書かなければ一生知らなかったような様々な興味深いことを知る機会となり、楽しく書かせていただきました。
皆様におかれましても、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
ここでは小説ではなく、作成裏話を書かせていただきます。
作品やキャラのイメージが崩れるかもしれないのでご注意ください。
そういうものは読みたくない方は、回れ右絶賛推奨です。
〈目次〉
1 人物名裏話
2 作成秘話(?)や裏設定
◇◆◇◆◇◆
1 人物名裏話
登場人物の名前の裏話。
ハナ以外は英語名です。モデルにした地域と時代では庶民も姓があったので皆さん姓がある設定なのですが、作中出てこなかった方も…。
【瀬谷羽南】
羽南の名前の意味は本編最終話にて。
瀬谷という名前は、エッセイ「職業は武装解除」著者の瀬谷ルミ子さんから頂きました。
日本初のDDR(兵士の武装解除・動員解除・社会再統合)の専門家で、24歳で国連ボランティアに抜擢され、27歳でアフガニスタンのカルザイ大統領から助言を求められたほか、国連PKO、外務省、NGOの職員として勤務、30そこそこで認定NPO法人日本紛争予防センター(JCCP)事務局長に就任した方。「世界が尊敬する日本人25人」(2011年 Newsweek日本版)、 「International Leaders Programme」(2015年 イギリス政府)等にも選出されました。
高校時代の決断、そこから地続きに今へ至る足取りを追った上記エッセイは、進路に悩んだり、自分に何もできないと萎縮してしまっている人に力をくれる本です。
【アレクシス・リベラ】
リベラ(Rivera)は川岸や川の近くに住む人という意味の姓。作中出ませんでしたが、施設で付けてもらったという設定です。
アレクシスは作中にあるように「守護者」「防護者」の意味がある名前です。彼は攻めより守りなイメージです。同じ語源を持つアレックスとどちらにするか迷ったのですが、Alexは英語の発音が「アリクス」に近い(私の耳調べ)ので、ハナが発音した時しっくりくる方にしました。
個人的には、アレクシスというと米国TVドラマ「アグリー・ベティ」の美女アレクシスの印象が強烈です。基本は男性名ですが女性名にも使われます。ダメ男な副主人公の優秀な兄アレックスが、全てを捨て全身整形してスーパーモデル体型の美女になって帰ってきて、「アレクシスと呼んで」と華やかに笑うシーンは痛快です。
【ジョン】
英語男性名をと考えて、まずジョン・ワトソンが浮かんだので…ファンの方ごめんなさい。「ジャン」の誤字を大量生産し修正に苦労しました。直ってない箇所がありましたらこっそり教えてください。
【リサ】
以前海外旅行した時、一緒になった現地ツアーでとても良くして下さった、バックパッカーの若い米国女性のお一人から名前をいただきました。なお、同じツアーに日本語学習中という男性と面倒見のいい女性のスペイン人カップルがいらして、このお二人も英語の苦手な私を親身にフォローしてくださって感動したのが、作中の伯爵令嬢のエピソードに反映されています。
【オリバー】
英語圏で人気の男性名ランキングで1位だった名前。ラテン語でオリーブの意味です。ノアの箱船に鳩がオリーブの枝を運んできて以来、英語圏ではオリーブは平和の象徴。
【イザベラ・ギブソン夫人】
「参考文献」でも書きましたが、ヴィクトリア朝の大ベストセラーのマニュアル本「ビートン家の家政本」を作り上げた有能編集者、イザベラさんから名前をいただきました。
【先代】
素晴らしく存在感と功績がある方なので、作品のバランスを全部持っていきかねないので、作中では回想と会話の中だけの登場とし、名前も出しませんでした。最強。
◇◆◇◆◇◆
2 作成秘話(?)や裏設定
作成秘話や作中生かせなかった設定など。
(1)貸本屋
古代ローマでは本屋が出版も行った、ということを私が知ったのは、諏訪 緑先生の漫画「パピルスは神 ~キケロ・カエサル・アッティクスの記~」でした。なので、そんな本屋でガイドブックを作る話にしよう、と資料を探し始めました。
ガイドブックを売る展開上、庶民が一定以上の識字率で、金銭・流通的にも本を手にできること、鉄道が普及している時代であることが必須だったため、19世紀頃の時代設定にしました。
当初は本屋にしようと思っていたのですが、人口の大半である労働者階級が気軽に本を買えるようになるのはもっと後の時代と分かり頓挫しました。
代わりに貸本が発達していたことを知り調べていくと、出版と兼業とか、会員外単発貸出システムとか、元から書きたいと考えていた設定を、そのまま当時の貸本屋がやっていて。やっぱりそういうシステム欲しいと思うよね!ナカーマ! と同士愛が生まれて貸本屋となりました。
なお、私は理系で、学生時代は歴史は大の苦手でした。それを払拭してくれたのは、前述の漫画家 諏訪緑先生の歴史題材の漫画の数々でした。
前述の「パピルスは神」は、紀元前のローマを舞台に、人類史に初めて名を残した公刊人(編集者)ティトウス・ポンポニウス・アッティクス、古代ローマを代表する思想家キケロ、ローマ一の有名人カエサル(シーザー)が、恐怖政治を敷く権力者に対し、古代ローマ最大の財産であり世界に輸出し続けた「法」の正義をかけ立ち向かう話。
諏訪先生は、代表作「諸葛孔明ー時の地平線ー」「玄奘西域記」ほか、古今東西の歴史や伝説を題材に、壮大さと、緻密な構成と、繊細な表現力と、知識と思慮に裏付けられた深いテーマ性を持つ作品を多数描かれているので是非お勧めしたいです。
(2)貸本屋の間取り
ハナとアレクが住む貸本屋兼住宅の間取りは、資料と作品の都合の狭間で散々悩み、間取り図面を何度も書き直して決めました。実在の(大手チェーンでない)貸本屋の写真や図面が手に入らず、且つ千差万別だったようなので大分自由に書きました。創作としてご了承ください。
自分が住むならキッチンとダイニングで階を分けるなんて面倒なことは決してしたくありません(笑)
【資料を参考にした要素】
◎欧州はリビング(兼ダイニング)へよく客を招く文化があり家の顔として重要視するので、2、3階で窓からの景色のよい一番いい部屋をリビングにする
◎上記理由で、匂いがダイニングに流れるのを避けるためキッチンは分離され、ワンルームのアパートで狭い等事情がない限りオープンキッチンにはしない。キッチンに休むための椅子とテーブルを置くことはある。
本作では、石炭や食材をキッチン地下の貯蔵庫に保管し、近所と共有の井戸を利用し、排水は家の前の側溝へ運ぶと設定しているので、毎日の調理に便利なようにキッチンは1階にしました。
◎2階建ての場合、1階に店と奥の作業部屋、2階に寝室等プライベートと仕事の空間をはっきり分ける
◎洗濯場の床は石畳等排水を考慮したもの
◎地下室は上部に陸上から見える換気孔あり
他
【資料によらない要素】
◎欧州はキッチンが家の中央にある間取りがよく見られる。中世には日本の囲炉裏に当たるような暖房兼調理火力装置(ストーブ)を、暖房効率を良くするため家の中央においた背景があり、欧州は数百年単位で古い家が沢山あるため、ストーブが現代的レンジに置き替わっても間取りが維持されている。
しかし本作の貸本屋のキッチンは1階南端に。レンジの燃料の石炭は煤が大量に出るため、先代は大事な本を煤で汚したり熱や湿度の大きな変化に晒して痛めたりしないよう、レンジを北端の店舗部分と離しただろうと現位置に。
◎作り付けの湯沸かし釜は地下室や屋外に置くことが多かったようです。本作では、どちらも使い辛そうなのと風呂場兼用という特殊設定を考慮し、1階を想定しています。
◎リーディングルームや店舗や書庫や規模は資料が乏しく完全に創作
◎当時の労働者階級の家は、ワンルームに1家族が住んだり、半地下だったり、隣家と壁が共有(つまり横方向に窓がない)だったりします。本作の貸本屋兼住居は相当広くていい物件です。
上手くいっている自営業者で、本人達の認識は労働者階級だけど、裕福さとしては労働者階級上層~中流階級下層辺りを想定しています。本作では「労働者階級」という言葉は使わず「庶民」「平民」といった言葉を使っています。
蛇足ながら、本作表紙写真はドイツのロマンチック街道の起点の街、ヴュルツブルクです。
セピア色っぽく色調加工してはいるものの、一面の朱色の屋根瓦をはじめ、街並みは昔のヨーロッパそのままのようです。でも現代の写真です。
中世から今まで、勿論19世紀頃も、人々はこんな家々に住み、こんな風景を見て暮らしていたんですね。
(3)出せなかった設定
設定メモに残ったままのことつれづれ。
◎メラニンの関係から、肌や髪が濃い場合は大抵目も濃い色です。そして金(琥珀)色の目は肌色が薄くてもかなり稀な存在比率です。アレクが黒髪褐色肌で金目なのは、珍しい例とご了承下さい。黒髪の間から覗く金色の目、というのは作者のロマンです。
本作では髪や目の色の存在比率は現実の欧州とある程度近い比率にしようと思い、男女とも金髪は1、2人であとは髪色が濃い目にした程ですが、アレクの目は拘りでした(笑。しかも今調べたら、女性キャラで唯一金髪の設定だった伯爵令嬢の髪色を作品中で書いていませんでした…)
◎昔の欧州の食物をイメージする中にチーズがありますが、19世紀英国の労働者階級ではバターは週一度のご馳走で、牛乳は水で薄めて色の薄さを誤魔化す白亜を混ぜ物にして売られたような時代でした。酪農はかなり地域差もあったようで、欧州の南や東の山岳部等だとまた違うかもしれません。
作中でハナがココアを淹れるのに使っている無糖練乳は、濃縮したミルクで加熱殺菌して缶に入っているので、産地と離れた地域でも安全な牛乳が流通するのに役立ったようです。
本作ではヴィクトリア朝の市街地域のように、卵と乳製品と肉が労働者階級の食卓に殆ど上らないのが一般的なことを想定していたので、食事メニューや生鮮の買い物のシーンでは大分頭を悩ませました。
ちなみに鉄道員は裕福な方で、毎日卵やソーセージを食べたりもできたようです。オリバー達は多分ハナやアレクよりゴージャスな食事をしていましたが、栄養学的には知識のあるアレクの料理の方が優れていたかも。
◎貸本屋3階は丸々プライベートスペースなので、ハナの発案で土足禁止にしているという設定がありました。病原菌やウイルスを持ち込み辛くなるし、掃除も楽になるということで。
ハナが病気になるよりずっと前からそうしていたけれど、ハナはこちらの気候や保温条件等に体が慣れていないし無理が重なってたので発病したと考えています。
室内履きや布は高いので、新聞紙を折り紙して作るスリッパ(ハナが元の世界の防災サイトで覚えた)をハナが定期的に2人分作っています。
◎ヴィクトリア朝英国ではシャツは下着扱いでそのまま外を歩くことはなく、必ずベストと上着を着たと資料にありました。夏や南欧で暑いとどうだったのか気になります。寛ぐ時や自分の店の中で上着を脱ぐ位はあるようです。
アレクは店内では普段ベスト姿でいて、褐色の肌と真っ白のシャツが映えて凄く似合っていて、ハナの一番のお気に入りスタイルという設定がありました(笑)。
ヴィクトリア朝のトラウザーズ(ズボン)は、動いても腹や背中が出ないよう股上が長く胸の下位まであって、ブレイシーズ(サスペンダー)で留めたので、ベストがある方が現代の感覚では格好良いかもしれません。でもアレクはスタイルがいいので、サスペンダー姿も様になりそうです。
◎作中あえて避けて通った話。
当時は室内用便器(チェンバーポット、おまる)は富裕層から最貧層までどこの家庭にもある必需品でしたが、本作では1階のトイレ使用の設定を貫きました。創作結界として史実と異なることをご了承ください。
また、野菜や森や住居等で、虫との出会いに事欠かない生活環境だったと思いますが、作品では一切カットしました。気にしちゃダメだ!(笑)
◇◆◇◆◇◆
最後までマニアックな話にお付き合いいただきありがとうございました。
本作は、ワーキングホリデー(風味)や異文化交流を描く題材のため、ある程度実際の歴史や文化や風土を忠実に描く作風を選んだため、調べものが大変でした。
なお、それは裏返しに、史実よりエンターテイメント性に比重を置く作品を否定する意図ではありません。本作でも、史実と異なると分かっていて書いた部分を多く持ちます。
本作は作者自ら、歴史が専門でもないのに歴史資料と格闘する茨の道へ自分を追い込みましたが、本作を書かなければ一生知らなかったような様々な興味深いことを知る機会となり、楽しく書かせていただきました。
皆様におかれましても、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
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藤谷 要
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サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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