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第5章 バルディア族

39話「バルディア族の少年」

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「ふぁ~」

 目を擦りながら体を伸ばす。
 相当疲れが溜まっていたのだろう。気付かない内に眠っていたようだ。

 俺はある違和感に気が付いた。

 腕が重い。
 重さを感じた右側を見てみる。

「――はぁ!?」

 俺の腕に頭を乗せ、ピッタリとくっつくルルがいた。
 咄嗟に腕を頭から外し突き飛ばす。
 そしてその場から後ずさるように離れると思考を巡らせる。

 いやいやいや。まずいって。こんな幼女と一緒に寝るとかまじでやばい。俺別に幼女好きじゃないし!

 心を落ち着かせる。

「う~ん。痛いです」

 突き飛ばした勢いでゴロゴロと転がるルルは、テーブルの足に頭を強打する。
 目を擦りながら辺りを見渡すルル。

「どうしたですか」

 どうやらルルは気が付いていないようだ。いや、でもルルから腕に乗らなきゃあんな体勢になってないよな? でもまぁ、本人もわかってないみたいだし、言わないでおこう。

「いや、なんでも」
「そうですか」
「あ、俺外見てくるわ」

 俺はあからさまに怪しい態度で、そそくさと部屋の外に出る。
 日差しが眩しい。どうやら朝まで眠っていたらしい。相当疲れていたんだな。

「待つです。ルルも行くです」

 ルルは俺の後を追うように、小走りで部屋を出た。

 海底にあるバルディア族の集落。海の深層にあるはずなのに、不思議とそこには水がなく、"普通の"集落だった。改めて見ても不思議だ。
 舗装された一本の道。それを挟むように木造の家が並ぶ。そして一番奥に見える一際大きい石造りの建物が、長老ディアングの家だ。俺たちの寝床は、ディアングの家の手前にある一軒家だ。

 俺たちは家を出ると店が沢山並ぶ商店通りに向かう。
 魚を売っているお店が並ぶ中、魔物肉を売っているお店が一際目立つ。どうやらバルディア族の中では魔物肉は貴重らしい。

「コラ――!!」

 背後から怒号が聞こえる。慌てて振り向くと、一人のバルディア族がこちらに向かって走ってくる。

「誰か!! そいつを捕まえてくれ――!! 盗人だ」

 盗人……!? よく見ると、そのバルディア族は魔物肉を抱えて振り向きながら走っている。
 どうやら商店から盗みを働いた奴らしい。
 俺が一瞬の出来事に戸惑いを隠せず唖然としていると、バルディア族は物凄い速さで俺とルルの前を通り過ぎて行った。

「盗み、ダメです」

 ルルは今にも魔術を使おうと手のひらに元素を溜めている。

「ま、待てルル!!」
「なんでですか。悪人はやつけないとダメです」
「わかった、俺が捕まえるから、ここで魔術はナシだ」

 ルルの腕を掴みながら無理矢理手を下ろそうとする。すると、溜まっていた元素が小さくなりルルは腕を下げた。
 こんな人が沢山いる所で魔術なんてぶっぱなしたらどうなるか……言うまでもない。

 俺はルルが魔術をやめたのを確認すると、魔ブーストを使い、バルディア族の盗人を追いかける。
 いくらあいつが速いと言っても、魔ブーストには負けるだろう。

 一瞬でバルディア族の盗人に追いつくと、体ごと脇で抱え、怒号をあげていた店主の元に戻る。

「うわッ!? なにすんだオマエ!! 離せ」

 俺に捕まえられながら暴れるバルディア族。無視して商店まで一気に戻る。
 そしてバルディア族を下ろした。

「コラ!! またオマエか!! 今度という今後は許さんぞ!! 衛兵に突き出してやる」
「それだけはヤメロ!! も、もうやらない!!」
「ったく、毎回同じ事を……」

 店主はバルディア族の頭目掛けて拳をお見舞いする。小さなバルディア族は半べそをかき、頭を抑えながら言う。

「ご、ごめん……なさい」
「謝って許される問題じゃないよ!!」

 店主はバルディア族の腕を引っ張りどこかへ連れて行こうとする。

「イヤ!! ヤメロ!!」

 泣きながら抵抗するバルディア族に、俺はつい口を出してしまう。

「ま、まぁこの子も反省しているみたいだし、今回は大目にみて……」

 店主の強い視線。なぜ俺が睨まれるんだろうか。

「はぁ……仕方ないね。その兄ちゃんに免じて衛兵は勘弁してやる。ただ、今回だけだからな!!」

 バルディア族は安心した表情を浮かべ、コクコクと小さく首を縦に振る。
 そして店主がバルディア族の腕を離すと、一目散にどこかへ走って行った。

「あっ、コラ!! ったく……」

 店主は呆れたようにため息を吐き、言葉を続ける。

「あいつは孤児なんだ」
「……え?」
「両親に捨てられてきっと今日食べるものもないんだ」

 店主は悲しそうに呟く。俺は店主の話を黙って聞いた。

「でも盗まれるのも一度や二度じゃなくて……こっちも商売してるからね。困ってるんだ。それに、甘やかしてばかりいて、あいつに道を外してほしくないんだよ。ここの集落にいる奴らはみんなそう思ってるんだ」

 店主はあのバルディア族が地面に落とした魔物肉を拾いながら、途切れなく話す。

「あぁあ。こりゃもう売り物になんないね」

 砂や土が肉につき、確かに売り物としてはダメそうだ。
 残念がる店主を横目に俺はある提案をする。

「あの、それ売ってくれませんか?」
「この魔物肉かい? だいぶ汚れてるけどいいのかい?」
「はい。そのくらいなら食べれると思うんで」
「そうか? 助かるよ。3ユニだよ」

 安い!! 俺は3ユニ支払うと、あのバルディア族を探す為に集落を歩き回った。

「どこ行くですか」
「あいつにコレ、渡しに行くんだよ」
「悪人にそんな事する必要ないです」

 ルルは真顔でそんな文句を言う。
 裏路地に入ると一人の影が見えた。座り込み、横にあるゴミを漁っている。

「いた!!」

 俺たちはそのバルディア族に近付く。
 バルディア族は必死にゴミを漁るあまり、俺たちの存在に気が付いていなかった。

 魔物肉をバルディア族に差し出す。

 バルディア族は俺を見上げる。そしてすぐに魔物肉に目線を落とし、奪うように取るとかぶりついた。

「なぁ、もう盗みなんてやるんじゃないぞ?」
「ありが……トウ」

 食べ終わったバルディア族はそれだけ言うと、どこかへ走り去ってしまった。

「あ、おい!」

 追いかけようと一瞬、魔ブーストを付けるが、考え直して地面に着地する。

「ま、いいか。よし! そろそろ帰るか」

 気が付くと日が落ちていた。不思議だ。海底でも太陽は見えるし空がある。本当にここは異空間のようだ。まぁ海底と言っても水はないが。

 そうして俺たちは、家に帰る為にその場を離れた。
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