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第3章 欲望と希望、そして出会い

29話「謎の少女」

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「ルルも行くです。案内役のポポが動かなくなったです。だから君について行くです」

 よくわからないけど、どうやら俺についてくるようだ。
 でも俺は、城に入ったらコルックを脱出させて、一緒に逃げなければならない。この少女は、ついてこれるのだろうか。そう疑問に思いながらも問いかける。

「ここから出て城に行くのはいいけど、俺は用事があるんだ。あんたはそっからどうするんだ?」
「ルルはお姉ちゃんを探すです。でもその為にポポを直さないとダメです」

 少女は、身の丈に合わない大きなバッグから、小さなフクロウに似た何かを取り出した。
 そしてこれがポポだと、案内役だと言う。
 こいつがいないとお姉さんを探せないという事か? でもどうやって……。
 動物なら動物病院にでも……と思った時、そのフクロウに目を落とすとあるものを見つける。

「これ、もしかして……」

 それは、ミナのこの壊れたフェイスと同じく、針金でできた触角のようなものだった。
 まさかこいつらの仲間なのか? だとしたら、ラシャーナさんが言っていた、アイちゃんの製造施設で直せるかもしれない。

「直せるかも」
「本当ですか」

 俺のその言葉に食いつくように目を見開く。
 だが、俺だってわからない。フェイスも修理出来るのかはわからないんだ。
 あまり期待を持たせないようにと、釘を打つ。

「わからない。あくまで可能性があるってだけだ」
「それでもいいです。ルルも行くです」

 どうやらその意思は揺るがないようだ。腰まで伸ばした艶やかな黒髪を、揺らしながら期待の眼差しで俺を見つめる。
 そして、仕方なく承諾する。

「わかった。ただ、お前の事までいちいち見てられないからな。自分の事は自分で――」

 地響きが鳴る。

「おわっ!?」

 目の前に巨大なオレンジ色のスライムが降ってきた。体が透けて中心のコア的なものが見えている。あれが心臓に当たるのだろうか。

〈敵対生物を発見しました〉

 こんな時にいいって!
 ドスンとその場でジャンプしながら威嚇しているようだ。その巨大なオレンジ色のスライムから、次々と産まれるように小さなスライムたちが増える。

「どんだけ増えるんだよ!?」

 俺はその地響きに耐えながらも、梯子の方に向かおうとする。そして気が付く。少女を見ると尻もちをついてうろたえていた。
 俺は軽く舌打ちをしながら、少女の手を引っ張ると梯子に向かって走る。

「――こっちだ!」
「わっ……」

 その間も敵情報アナウンスは止まらない。

〈イエロースライム――瞬時に小さな分身を生む事ができる。生まれた分身は集合体になり、更に大きくなる。押しつぶされたが最後、飲み込まれて栄養として吸収されてしまう〉

「早く!」

 俺は少女の手を引いて梯子に登らせると、警戒しながら俺も後に続く。

 小さなイエロースライムは、軽快に飛び跳ねながら俺たちの方に向かってくる。
 俺は慎重に、だけど急いで梯子を登る。
 ふと下を見ると、小さなイエロースライムがたくさん梯子の下に集まり、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
 今仮に下に落ちたら……死ぬ。いや、溶ける!

 俺は唾を飲み込むと再び上を見て登る。

「わぁっ!?」

 すると、ふと視界が奪われる。

 ズルっと足を踏み外し、上を登っていた少女が、俺の顔面に"座る"。

「うげっ!? おい!! ふざけんな、落ちる落ちる!」

 俺は、綺麗にストンっと乗っかった少女のお尻を片手で持ち上げると、少女は再び梯子に足をつき登った。

「足が滑ったです」
「いいから! 早く登れって!!」

 再び地響き。
 なんと、巨大スライムが梯子の下でドスン、ドスンと音を立てている。たくさん集まった小さなイエロースライムを吸収するように、更に大きくなる。

 もう少し。
 見上げると光が漏れていた。

 一番上にたどり着くと、少女は一生懸命、鉄の重たいマンホールの蓋を持ち上げようとしていた。

「なにやってんだよ!?」
「持ち上がらないです」

 俺は再び少女の柔らかいお尻を持ち上げると、マンホールの蓋ごと、少女を押し上げようと試みる。
 体中の血液が頭に集まるのを感じる。

 ――ダメだ。血管ブチ切れそうだ。

 少女が重いというより、鉄のマンホールが持ち上がらない。
 下の方ではドスンと物凄い地響きが伝わってくる。
 目線だけで下を見ると、巨大なイエロースライムに梯子が飲み込まれ、少しずつ溶けていくのが見えた。

 俺の手に更に力が入る。
 少女を持っている右手に集中する。魔素を集める……。すると右手全体が鋼鉄で包まれた。
 力が湧いたかのように、俺は勢いよくマンホールごと少女を押し出す。

「――ふッん!!」

 そして俺もようやく地上へ出る。

「はぁッ……」

 エンチャントって、素手にも使えるんだな。と考えながら、咄嗟に下を見下ろす。
 すると未だに巨大スライムは飛び跳ねていて、梯子の半分は巨大スライムにより溶解されていた。

 俺は慌ててマンホールの蓋を雑に閉める。

 再びため息を吐くと、急な疲労が俺の体を襲う。

 辺りを見渡すと、幸いここは衛兵の巡回ルートから外れているのか誰もいなかった。
 俺は胸を撫で下ろし、リラックスするように両手を床につき、腰を下ろした。
 そして口を開く。

「……俺はリョウ」

 一息吐くとようやく口を開く。

「ルルはルルです。生まれた時からずっとルルです」

 な、なんか……特殊な子だな。
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