ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

碧流

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マリーの母 ヨランド・ダラゴン

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マリーの母、ヨランド・ダラゴンは当代きっての女傑である。

そのヨランドに呼ばれ、執務室で向かい合った時、マリーの背中に冷たい汗がつたった。

「…なぜその方は近頃塞いでおる?」
母の低い声が響く。

「…あっ」
塞いではない、ただ気になるのだ。

この偉大なる母に誤魔化しは効かない。
何と答えればよいのか…

マリーは泣きたくなった。




ヨランドは、アラゴン王フアン1世の長女で、アンジュー公に嫁いだ。

マリーとシャルルの婚約も彼女の力によるもので、王位継承問題で王家が揉める中、何故か五男のシャルルに目をつけ、王妃イザボーの下を訪ね、シャルルと長女マリーを婚約させた後、夫の所領アンジェへシャルルを連れて行き息子達と共に教育を施したのである。

その後シャルルがパリから南のブールジュへ逃れてきた際にも庇護し、王太子の宮廷へ入り、シャルルの摂政のようなことをしている。

マリーとシャルルは婚約者であり、兄妹のようにも育った。
だから、シャルルのことはよく分かっている。

あの少女とは何もないことを。
まだ十歳くらいの少女ではないか。

ただ視界の範囲にいただけ。
ただそれだけ。

それを母に勘付かれるなんて

マリーは母によく似た上品な顔立ちではあるが、性格は真逆で大人しい気質だった。
母の迫力の前には無力過ぎる。

「あの…」
「なんだ?シャルルのことか?」
「あ、いえ、……あ…はい」
「…どっちだ?上手く行っておらぬのか?」

マリーは静かに目を瞑った。
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