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事の真相
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「ねぇ、姉上。誰が誰を愛してたんですか?」
わたしの問いに、姉は怒ったのか、かっと顔に朱がさした。
「シャルル様がわたくしをよ!」
「…へ~え…そうなの?」
私たちは侍女たちに目を向ける
「お前たち、そう思ってたのか?」
侍女たちは全員下を向いた。
姉は途端に狼狽え始めた。
「え…わたくしはシャルルさまのお子を12人も産んで、皆んなから仲良くて羨ましい…と」
私ははあ…とため息をついた。
「そう言わないと姉上が陰湿な嫌がらせするからだろ。」
「!!そんなことは…でも!でも!12人もお子を産んだのよ!愛がないとできないはずよ!」
はあああ…こめかみを押さえながら答えた。
「…ああ、まあ、そうだね。それは義兄上の努力…いや敬意だな…」
「ど、努力!?」
「努力は言いすぎた。義兄上は自分を王にしてくれた姉上に感謝はしていた。そういうことだよ。」
「…どういう…」
「姉上が王妃として侮られないようにするくらいの情はあったという事じゃないかな。」
…姉の表情を見て、うんざりした…まだわからないか…
「でも、あの女が来るまで、愛人はいなかったのよ!」
「…義兄上はお優しいからな。」
「そうでしょう?わたくしにはお優しくて…」
「…違うよ、姉上。」
私はゆるゆると首を振った。いい加減、こいつのでもでも会話にうんざりしてきた。
「義兄上は複雑なお産まれだ。人の気持ちの機微に敏い。だから全部知っておられた。義兄上がちょっとでも目をかけた者に姉上がどういう事をしていたかを。」
姉は激しくかぶりを振った。
「わたくしは何もしてないわ!」
「…そうだね、姉上は何もしてないね。」
私は姉を真正面から睨みつけた。
「みんながそう動くよう仕向けるだけで、直接は手を下さない分たちが悪い。」
「わたくしは頼んだことは「確かにないよね。周りに察せさせるだけだったね」」
「…っ」
姉は息を飲んだ。
「義兄上の侍女。それと分からぬやり方でじわじわ追い詰め、自殺未遂するまで続けたよね。義兄上の乳母さえも難癖つけて退けた。数えればきりがないよ。姉上の狡猾さと執念深さを知っていたから、義兄上は姉上しか見ていないふりをしてたんだ。姉上にしか触れずにね。…愛情は持てぬともそこまで心を砕いて頂いてたのに、」
私はいったん言葉を区切った。
「…ジャンヌ…いやジャネットに…」
嫌悪を乗せて言葉を続けた。
「姉上は何をした?」
「な、何もしてないわ!あれは母上が…」
私は薄く笑った。
「母上も姉上の性格は重々ご存知だ。またジャネットが義兄上の特別な存在なのは見てわかっておられた。ジャネットを害したら義兄上が壊れてしまうことも。だから、逃がしたんだ。姉上の思考を逆手に取ってね。」
想像もしてなかったのか、姉は呆然としていた。
「…確かに義兄上の王位の正当性を高めるには神の力は必要だった。そこにジャネットの保護を絡めただけさ。」
私はぬるくなったお茶に口をつけた。
「そもそも10歳の子に義兄上が手を出すとでも?」
「………」
「ジャネットがその純粋さで義兄上の心をお慰めしてたのは確かだ。それまでだったら姉上から守るためにすぐ自分の側から退けてたのをぎりぎりまで迷われてたからな。」
「………」
「あなたはそれに気が付き、周りがジャネットを疎ましく思うように仕向けた。10歳の子には辛かったろうな。」
「……」
「幼女趣味の貴族を焚きつけたこともあったな?」
姉は下を向いた。自分は悪くない。とばかりに殻に閉じ籠もっている。
「母上だって子の親だ。姉上が人として一線を越える前に一芝居打った。たった10歳の子だぞ?親元から離され、見知らぬ土地にやられ…」
「そんな不憫な存在に姉上は何をした?」
「義兄上がせめてもと選んだ護衛を勝手に変えたな?刺客は何回おくった?国の救世主として命を賭して闘う『ジャンヌ』の悪質な噂を流し、最後に仲間から裏切らせたのは、姉上じゃないのか?」
「………」
「ジャンヌを助ける賠償金を握り潰そうとしたな?」
「……」
私はわかりやすくため息をついた。
「…義兄上はすべてわかっておられた。賠償金で助かったとしても、姉上のことだ。義兄上の元に戻る前に兵士に凌辱でもさせただろう。だから苦しまず死ねる毒を渡して乙女のまま逝かせるようにしたんだ。」
…毒は間に合わなかったがな。
「…それを魔女と噂を流し、火あぶりにさせるなんて…」
またお茶を飲んで心を落ち着ける。
「…あなたには人の心はないのか?誰のおかげで皆から崇められる王妃になれた?」
「…わたくしは何も命じてないわ…」
ダメだ。動揺すらしていない。こいつは一生反省することはない。
高貴なバケモノだ。
「…姉上がそう思うならそれでいいさ。ところで、ねぇ、姉上。義兄上の初恋が誰かご存知か?」
「え…?」
急な話の転換に姉は声をあげた。
「義兄上が恋焦がれた初恋だよ。」
「…わたくしかしら?」
この話の流れからどうしてそうなる?
頭がイカれたバケモノに戦慄が走った。
言葉が通じてない。なら遠慮することはないか。
「違うよ。そんなわけないでしょう。」
私は薄く笑った
「義兄上の乳母殿だ。」
姉が目を見開き、醜く顔を歪めた。
「そう姉上が難癖つけさせて義兄上から退け、生家でも住みづらくさせて孤立させ死に至らせた乳母殿さ。」
姉は何か言おうとしては口を開いて閉じるを繰り返した。
「ジャンヌは乳母殿の姪」
「そしてアニェスは、乳母殿の姪の子」
そこまでは知らなかったのか、姉は大きく目を見開く。
「姉上は、アニェスに会ったんでしょう?あの美しさで20歳まで誰にも手折られなかったとかあり得ないと思われなかったのか?」
姉もやっと真実に気づいたようだ。
「誰かが強烈に囲い込まない限り」
わたしの問いに、姉は怒ったのか、かっと顔に朱がさした。
「シャルル様がわたくしをよ!」
「…へ~え…そうなの?」
私たちは侍女たちに目を向ける
「お前たち、そう思ってたのか?」
侍女たちは全員下を向いた。
姉は途端に狼狽え始めた。
「え…わたくしはシャルルさまのお子を12人も産んで、皆んなから仲良くて羨ましい…と」
私ははあ…とため息をついた。
「そう言わないと姉上が陰湿な嫌がらせするからだろ。」
「!!そんなことは…でも!でも!12人もお子を産んだのよ!愛がないとできないはずよ!」
はあああ…こめかみを押さえながら答えた。
「…ああ、まあ、そうだね。それは義兄上の努力…いや敬意だな…」
「ど、努力!?」
「努力は言いすぎた。義兄上は自分を王にしてくれた姉上に感謝はしていた。そういうことだよ。」
「…どういう…」
「姉上が王妃として侮られないようにするくらいの情はあったという事じゃないかな。」
…姉の表情を見て、うんざりした…まだわからないか…
「でも、あの女が来るまで、愛人はいなかったのよ!」
「…義兄上はお優しいからな。」
「そうでしょう?わたくしにはお優しくて…」
「…違うよ、姉上。」
私はゆるゆると首を振った。いい加減、こいつのでもでも会話にうんざりしてきた。
「義兄上は複雑なお産まれだ。人の気持ちの機微に敏い。だから全部知っておられた。義兄上がちょっとでも目をかけた者に姉上がどういう事をしていたかを。」
姉は激しくかぶりを振った。
「わたくしは何もしてないわ!」
「…そうだね、姉上は何もしてないね。」
私は姉を真正面から睨みつけた。
「みんながそう動くよう仕向けるだけで、直接は手を下さない分たちが悪い。」
「わたくしは頼んだことは「確かにないよね。周りに察せさせるだけだったね」」
「…っ」
姉は息を飲んだ。
「義兄上の侍女。それと分からぬやり方でじわじわ追い詰め、自殺未遂するまで続けたよね。義兄上の乳母さえも難癖つけて退けた。数えればきりがないよ。姉上の狡猾さと執念深さを知っていたから、義兄上は姉上しか見ていないふりをしてたんだ。姉上にしか触れずにね。…愛情は持てぬともそこまで心を砕いて頂いてたのに、」
私はいったん言葉を区切った。
「…ジャンヌ…いやジャネットに…」
嫌悪を乗せて言葉を続けた。
「姉上は何をした?」
「な、何もしてないわ!あれは母上が…」
私は薄く笑った。
「母上も姉上の性格は重々ご存知だ。またジャネットが義兄上の特別な存在なのは見てわかっておられた。ジャネットを害したら義兄上が壊れてしまうことも。だから、逃がしたんだ。姉上の思考を逆手に取ってね。」
想像もしてなかったのか、姉は呆然としていた。
「…確かに義兄上の王位の正当性を高めるには神の力は必要だった。そこにジャネットの保護を絡めただけさ。」
私はぬるくなったお茶に口をつけた。
「そもそも10歳の子に義兄上が手を出すとでも?」
「………」
「ジャネットがその純粋さで義兄上の心をお慰めしてたのは確かだ。それまでだったら姉上から守るためにすぐ自分の側から退けてたのをぎりぎりまで迷われてたからな。」
「………」
「あなたはそれに気が付き、周りがジャネットを疎ましく思うように仕向けた。10歳の子には辛かったろうな。」
「……」
「幼女趣味の貴族を焚きつけたこともあったな?」
姉は下を向いた。自分は悪くない。とばかりに殻に閉じ籠もっている。
「母上だって子の親だ。姉上が人として一線を越える前に一芝居打った。たった10歳の子だぞ?親元から離され、見知らぬ土地にやられ…」
「そんな不憫な存在に姉上は何をした?」
「義兄上がせめてもと選んだ護衛を勝手に変えたな?刺客は何回おくった?国の救世主として命を賭して闘う『ジャンヌ』の悪質な噂を流し、最後に仲間から裏切らせたのは、姉上じゃないのか?」
「………」
「ジャンヌを助ける賠償金を握り潰そうとしたな?」
「……」
私はわかりやすくため息をついた。
「…義兄上はすべてわかっておられた。賠償金で助かったとしても、姉上のことだ。義兄上の元に戻る前に兵士に凌辱でもさせただろう。だから苦しまず死ねる毒を渡して乙女のまま逝かせるようにしたんだ。」
…毒は間に合わなかったがな。
「…それを魔女と噂を流し、火あぶりにさせるなんて…」
またお茶を飲んで心を落ち着ける。
「…あなたには人の心はないのか?誰のおかげで皆から崇められる王妃になれた?」
「…わたくしは何も命じてないわ…」
ダメだ。動揺すらしていない。こいつは一生反省することはない。
高貴なバケモノだ。
「…姉上がそう思うならそれでいいさ。ところで、ねぇ、姉上。義兄上の初恋が誰かご存知か?」
「え…?」
急な話の転換に姉は声をあげた。
「義兄上が恋焦がれた初恋だよ。」
「…わたくしかしら?」
この話の流れからどうしてそうなる?
頭がイカれたバケモノに戦慄が走った。
言葉が通じてない。なら遠慮することはないか。
「違うよ。そんなわけないでしょう。」
私は薄く笑った
「義兄上の乳母殿だ。」
姉が目を見開き、醜く顔を歪めた。
「そう姉上が難癖つけさせて義兄上から退け、生家でも住みづらくさせて孤立させ死に至らせた乳母殿さ。」
姉は何か言おうとしては口を開いて閉じるを繰り返した。
「ジャンヌは乳母殿の姪」
「そしてアニェスは、乳母殿の姪の子」
そこまでは知らなかったのか、姉は大きく目を見開く。
「姉上は、アニェスに会ったんでしょう?あの美しさで20歳まで誰にも手折られなかったとかあり得ないと思われなかったのか?」
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