ジャンヌ・ダルクがいなくなった後

碧流

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天国に行けるのかな?

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「…寵を与えたことがない?あなたのお子を12人も身籠ったわたくしを?」

…意味がわからない…

「誰かを思って抱いてたとでもおっしゃるの?」
自分でも驚く地を這うような冷たい声が出た。

「ああ、あなたが密かに思ってらっしゃったあの平民女…乳母殿?ジャネット?…いや、ジャンヌかしら?」

ふっ。鼻で笑って、シャルルを見やる。

「初恋の女にそっくりの姪やその血縁者を探し出してまで寵愛するなんて、いいご趣味ですこと。」

バカにしてる。
平民に近いあの女のことを思って、わたくしを抱いているなど、到底許されるものではない。

シャルルを無性に傷つけたくて、わざとジャンヌの話を出す。
 
ジャンヌの話を出したのは、ジャンヌが聖女列せられてから初めてだったが、わたくしは知っている。飄々としたシャルルがジャンヌの名前を聞けば表情を変えることを。

わたくしはわざとシャルルの心に爪を立てた。

…傷つけばよい。

でも、予想に反して、シャルルは幸せそうに微笑んでいた。

「…ああ。閨のこと言ってるの?基本的に貴女以外なら誰でもいいからね。いつも違う女性を思っていたよ。」

ひゅっとわたくしは息を飲んだ。



シャルルはお茶を一口飲んだ。

「回廊をすれ違った女、掃除係、メイド。思い浮かべるのは女なら誰でも良かったんだ。君の顔を見ないですめばね。」

もう声も出ない。この人はわたくしに優しく微笑んでいた夫だろうか?

「ただ…」

シャルルは冷えた目をわたくしに向けた。

「…貴女みたいなを抱いている時に、聖女たるジャネットを想うわけないでしょう。烏滸がましい。」

「…聖女…?キタナイ…?」

呆然とシャルルの言葉を繰り返す。
言葉の意味が頭に入ってこない。

そんなわたくしにシャルルはトドメを刺した。

「…ジャネット、いやジャンヌはね、本物の聖女だったんだよ。愚かなマリー。」

蔑む瞳でわたくしを見つめる。

…本物の聖女?そんなまさか…

「ああ…その顔は知らなかったのかな。義母上も罪なことを。」

「お、お母様?お母様が何を、、?」

「いや、稀代の豪傑の義母上も人の親だったということかな。


さて、愚かすぎるマリー。


…聖女を騙し討ちした君は、果たして天国に行けるのかな?」



    
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