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狂愛【完】
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父上のもとを辞し、庭園に出ると、きゃっきゃっと可愛らしい声が聞こえてきた。
庭園から駆け出してきた少女にぶつかりそうになって思わず抱きとめる。
側仕えが私に気が付き一斉に膝をついた。
私は少女を自分の目の高さまで抱き上げた。
アニェスの面影にダークブラウンの髪と瞳。
幼いながらも男を虜にする妖香を漂わせ、少女は絶世の美女になる片鱗をすでに窺わせていた。
少女はにこにこと笑いながら、
「お客様は、もうお帰りになるの?」
と小首を傾げた。
その仕草が愛らしくて、このまま連れ去りたくなる。
「そうだよ。もう帰るが…すぐそなたを迎えに来る。」
膝をついて頭を垂れているマーガレット夫人らしき人の体がびくっと揺れる。
私は厳かに告げた。
「…このものは、私のものだ。たった今父上から譲り受けた。心して仕えるように。」
「…御意」
みなが平伏した。
「私はおじさまの子になるの?」
少女がきょとんとして私の目を見つめた。
ああ…美しい。
そのさくらんぼのような唇もすべて愛らしい。
これからが楽しみだ。
しかし、おじさま…か。
私はまだ30になっていないのだが…まあ、20は年が離れてるからな。
私は苦笑しながら、少女のすべすべした頬に唇をよせ、そして耳元で囁いた。
「…君は私の妃になるのだよ。」
意味がわからなかったのだろう。
少女は首をかしげている。
「…まだわからなくていいよ。私がすべて教えてあげる。」
少女を高い高いするように掲げると、少女はとても嬉しそうに破顔した。
私の中のどろりとした独占欲が蠢き出した。
私は父と同じ修羅の道に足を踏み入れた。
この子に囚われるなら本望だ。
もう引き返せない。
これは私のものだ。
誰にも渡さない。
その後、少女は秘密裏にサヴォイア公の養子となり、シャーロットと名前を改めた。
私はわずか8歳の少女に政略結婚を申し込んだ。
父上は大反対したが、私は強引に婚姻に持ち込んだ。
…という、父上が考えたシナリオ通りにことは進んだ。
そして、私たちの婚姻がなされたのを見届け父上は死去。
母上もその2年後亡くなった。
私は父王の事業を継ぎ、百年戦争後のフランスを統一、経済復興をはかり、フランス絶対王権の基礎を固めた。
一方で、母上譲りの陰険さを存分に生かし、ヨーロッパ中の至るところに情報網を張った。
「偏在する蜘蛛」
これが私の二つ名だ。
良く言えば用心深く、悪く言えば陰険。至るところに網を張って、引っかかった獲物は食べてしまう。
別に何と呼ばれようと構わない。こうすることで、私のものに手を出すものはいなくなるだろう。
私は王位につくとただちに、ブルゴーニュへシャーロットを追いやった。
追いやったと見せかけたのは、シャーロットを人目につかせないためだった。
捨てられた王妃に見向きするものはいない…。
恋焦がれた人の面影を宿す私の可愛いシャーロット。
彼女には何のしがらみもなく天真爛漫に育って欲しい。
他の男の目になんか触れさせなくてよい。
私は文字通りシャーロットを囲い込んだ。
「…少し重くなったか…?」
久しぶりに会ったシャーロットははしゃぎすぎて私の膝の上で可愛らしい寝息を立てていた。
私はその滑らかな肌に指を滑らせた。
くすぐったそうにシャーロットが身を捩る。
その仕草に私は思わず口角を上げた。
…シャーロットは私の獲物だ。
絡め取り骨の髄までしゃぶり尽くす。
決して逃がしはしない…
「…そなたが大人になるのが楽しみだが、なかなか待つのはつらいものよ…」
私は仄暗い微笑みを浮かべ、シャーロットの髪を弄んだ。
…父上、私2代続いた狂愛がまた始まる。
【完】
庭園から駆け出してきた少女にぶつかりそうになって思わず抱きとめる。
側仕えが私に気が付き一斉に膝をついた。
私は少女を自分の目の高さまで抱き上げた。
アニェスの面影にダークブラウンの髪と瞳。
幼いながらも男を虜にする妖香を漂わせ、少女は絶世の美女になる片鱗をすでに窺わせていた。
少女はにこにこと笑いながら、
「お客様は、もうお帰りになるの?」
と小首を傾げた。
その仕草が愛らしくて、このまま連れ去りたくなる。
「そうだよ。もう帰るが…すぐそなたを迎えに来る。」
膝をついて頭を垂れているマーガレット夫人らしき人の体がびくっと揺れる。
私は厳かに告げた。
「…このものは、私のものだ。たった今父上から譲り受けた。心して仕えるように。」
「…御意」
みなが平伏した。
「私はおじさまの子になるの?」
少女がきょとんとして私の目を見つめた。
ああ…美しい。
そのさくらんぼのような唇もすべて愛らしい。
これからが楽しみだ。
しかし、おじさま…か。
私はまだ30になっていないのだが…まあ、20は年が離れてるからな。
私は苦笑しながら、少女のすべすべした頬に唇をよせ、そして耳元で囁いた。
「…君は私の妃になるのだよ。」
意味がわからなかったのだろう。
少女は首をかしげている。
「…まだわからなくていいよ。私がすべて教えてあげる。」
少女を高い高いするように掲げると、少女はとても嬉しそうに破顔した。
私の中のどろりとした独占欲が蠢き出した。
私は父と同じ修羅の道に足を踏み入れた。
この子に囚われるなら本望だ。
もう引き返せない。
これは私のものだ。
誰にも渡さない。
その後、少女は秘密裏にサヴォイア公の養子となり、シャーロットと名前を改めた。
私はわずか8歳の少女に政略結婚を申し込んだ。
父上は大反対したが、私は強引に婚姻に持ち込んだ。
…という、父上が考えたシナリオ通りにことは進んだ。
そして、私たちの婚姻がなされたのを見届け父上は死去。
母上もその2年後亡くなった。
私は父王の事業を継ぎ、百年戦争後のフランスを統一、経済復興をはかり、フランス絶対王権の基礎を固めた。
一方で、母上譲りの陰険さを存分に生かし、ヨーロッパ中の至るところに情報網を張った。
「偏在する蜘蛛」
これが私の二つ名だ。
良く言えば用心深く、悪く言えば陰険。至るところに網を張って、引っかかった獲物は食べてしまう。
別に何と呼ばれようと構わない。こうすることで、私のものに手を出すものはいなくなるだろう。
私は王位につくとただちに、ブルゴーニュへシャーロットを追いやった。
追いやったと見せかけたのは、シャーロットを人目につかせないためだった。
捨てられた王妃に見向きするものはいない…。
恋焦がれた人の面影を宿す私の可愛いシャーロット。
彼女には何のしがらみもなく天真爛漫に育って欲しい。
他の男の目になんか触れさせなくてよい。
私は文字通りシャーロットを囲い込んだ。
「…少し重くなったか…?」
久しぶりに会ったシャーロットははしゃぎすぎて私の膝の上で可愛らしい寝息を立てていた。
私はその滑らかな肌に指を滑らせた。
くすぐったそうにシャーロットが身を捩る。
その仕草に私は思わず口角を上げた。
…シャーロットは私の獲物だ。
絡め取り骨の髄までしゃぶり尽くす。
決して逃がしはしない…
「…そなたが大人になるのが楽しみだが、なかなか待つのはつらいものよ…」
私は仄暗い微笑みを浮かべ、シャーロットの髪を弄んだ。
…父上、私2代続いた狂愛がまた始まる。
【完】
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