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先生
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ともあれ、出発することになった。俺としてはちょっと話すだけのつもりだったのに思いのほか時間をとってしまった。そのせいか、あまり良い雰囲気でもない。先生でもないのに、説教臭いことを言ってしまったのは反省すべきだよな。こっちも命を預かっているので多少厳しくなるのは許容してもらいたいけど。
1組はクロス様、ターリブ様、さっきの茶髪の女の子、他二人の5人だった。ターリブ様も1組だったんだな。ひょっとして年齢で分けているのかもしれない。貴族は平民と違って決まった歳になったら入学するものだし、前世の学校のように同い年だと接する機会が多くなるのだろう。チームを組むなら顔見知りの方が断然いい。
「お気をつけて」
「ありがとう」
門を守る第4騎士団の人に見送られて、俺たち1組は城壁外へ出た。ちなみに門番はシフト制で騎士団内で順番に回ってくる仕事だ。俺もやったことがあるめちゃくちゃ暇な仕事だったりする。それこそ、城門前で入退場する人たちを検問したりする役割ならそれなりにやることがある。ただ、門番という仕事の中に城壁の上で見張りをするものも含まれていて、それがめちゃくちゃに暇なのだ。皇都くらいになると城壁に魔法がかかっているので襲ってくる獣は少ない。敵襲なんかもないに等しいのでやることがないのである。
今日の当番に同情しながら城壁の上を見上げると、等間隔に並んでいる騎士の姿が見える。制服のラインは第4騎士団の証である緑だ。
そして、それ以外にも騎士団の制服でない人間が城壁の上からこちらを見ている。クロス様たちの個人的な護衛だろう。
「クロス卿、失礼ですが護衛の数は覚えておらえますか?」
「今日は3人来てる」
「ターリブ卿や他の皆様は?」
「えっ、護衛ってレネ少尉や冒険者の皆さんのことじゃなくて家から来ている者のことですか?」
「はい、人数は聞いていますか?」
「僕のところは1人だけ」
「そんなもの俺にはついてないぞ」
「私は2人だ」
「私も1人だけだ」
さっき話している時はターリブ様って呼んでしまったけど本当は卿って呼ぶ方が良いみたいだから今度はそう呼んだ。幸いなことにご本人であるターリブ様やクロス様たちは違和感を感じていないようだ。
皆の話を信用するなら全部で7人。城壁の上にいるのを数えたところ、数は合っているようだ。それでもすり替わっている可能性もあるため油断はできない。念のため、彼らのことも意識に入れておかなければならない。
「分かりました。それでは林までは私が先導しますのでついてきてください」
皇都は円の形をしていて第4騎士団の守る門は南西にあり、今日の目的地である林は西だ。そこまで向かうルートとしては真っすぐ向かうこともできるが、なるべく安全な城壁を伝って北上しそれから西に向かうのが良い。城壁から離れると獣が多くなるからな。
出発前にあんなことがあったからか、このルート選択には文句が出なかった。
「クロス卿はレネ少尉とお知り合いなんですね」
「ああ」
「なあ、どうやって知り合ったんだ? レネ少尉が冒険者してた時か?」
「いや、5歳の頃に誘拐されたのを助けてくれたのがレネ少尉だ。その時はまだ冒険者ではなかったと思う」
「マジ?!」
「誘拐って……やっぱりソースイミヤともなるとそんなことがあるんですね」
子供たちは俺の後ろを歩きながら俺の話で盛り上がっている。誘拐なんて貴族ならよくある話だと思われそうだけれど、実はこの世界においてはそうではない。珍しいことなのだ。
この世界には獣がいて、町は城壁で囲われ守られている。逆に言えば、城壁で囲われていない場所には住めない。町と町の間には街道が整備されている場合もあるが、街道沿いに茶店や宿屋みたいなものは一切ない。人間は城壁の中でしか生活できないのである。
すると、どういうことが起こるか。同じ町に住む人間は運命共同体のような形になる。皇都くらい大きい街になるとそうでもないにしろ、普通の街の人間はほぼ顔見知りみたいな状態だ。そんな中で悪さをするのは難しい。街以外の場所に拠点を作るのも至難の業だ。さらに言えば、誘拐のような仕事をできるくらい魔法や戦闘力に長けていれば、あえて危ない橋を渡らずともいくらでも高給取りになれるのがこの世界だ。犯罪に手を染めても不利なことばかりで前世のような旨みが少ないのである。
それでも、もちろん例外は存在する。
「皆さん、歩きながら聞いてください」
「?」
「どうしました、レネ少尉」
俺は風の魔法で後ろの5人だけに声が届くようにする。訊ねてきた声はターリブ様で、クロス様の視線を気配だけで感じる。
「この先に怪しい集団が待ち伏せしています。おそらく皆さんのうちの誰かを狙ったものと思われます」
「……!」
「えっ」
「何?!」
「どこにそんな人間が?」
「落ち着いてください。声は届かないようにしていますがこちらの様子を怪しまれると困ります。彼らは魔法で姿を隠しています。私の探知魔法には丸見えですが」
大討伐の時にも使った俺のオリジナル探知魔法だ。いくら姿を透明にしても体温は隠せない。子供たちは一瞬ざわついて、でもすぐに大人しくなった。幼くても貴族なんだな。
クロス様が落ち着いた声で俺を促す。
「どうするつもりだ」
「残念ながら、相手が魔法で身を隠していても『獣を狩るためにそうしていた』と言い訳されれば終わりです。現行犯でなければ逮捕できません」
「それじゃ」
「このまま気付かないふりをして進みます。皆さんには怖い思いをさせてしまうかもしれません」
「おいおい……マジかよ」
「安心してください。相手に動きがあればすぐに対処します。皆さんには指一本触れさせません」
俺は振り返ってあえて笑って見せた。さっきも言ったように、人を攻撃する犯罪者が少ないこの世界で貴族を待ち伏せしているなんて余程のことだ。言い訳されて逃げられたら危険分子を放置することになる。クロス様のためにも絶対にここで捕まえなければならない。俺の推しを害そうなんて良い度胸だ。
「任せたぞ」
「はい、お任せを。皆さんはそのままついてきてくださるだけで構いません」
つぶらな瞳に高い声で俺に命令するクロス様は超かわいい。前世ではクールで孤独なイメージだったクロス様に今は割とお友達がいるみたいで良かった。俺の救出劇が少しはクロス様の幸せに繋がってるんだと思いたい。そして、その幸せは俺が守る。
奴らは全部で7人。はからずも、クロス様たちの護衛の数と一緒だ。城壁の傍に張り付くようにして待ち伏せている。獣をいなしながら姿を隠すのは難しいため、林の方ではなく城壁の傍を選んだのだろう。城壁を守る騎士や護衛がいるとは言え、相当な高さのある城壁の上だ。駆けつけるのは一歩遅くなる。攫ってしまえばこっちのものだと思っている可能性が高い。それくらい、腕に自信があるということだ。
「ところで、皆さん。学校ではどんな授業を受けているのか話してくれませんか」
「えっ、学校?」
「精霊語の授業なら俺だってちゃんと受けてるぞ! でもあんな訳分かんねー言語覚えられるわけねーだろ!」
「おまえの覚えが悪いだけだろう」
奴らに不審に思われないよう俺が雑談を促すと、茶髪の女の子とクロス様が乗ってくれた。それに促されて他の子供たちも話し始める。俺はそれに相槌を打ちながら先程までと同じスピードで奴らに近づいていく。視線は真っすぐ、奴らの方は見ない。
城壁の傍に並ぶ奴らの横に差し掛かる。一人目を通り過ぎる。まだ動かない。二人目、まだだ。三人目、その横を通り過ぎようとした時、
「今だ!!」
と、野太い声がして7人の不審者が姿を現した。忍者のように布を顔に巻き付けていて人相は分からない。もっとも、衣服の色は茶色とクリーム色なので忍者とは言い難いが。奴らは城壁を蹴りつけるようにして、俺と子供たちに襲い掛かってくる。
俺は準備していた土の魔法を行使した。
「何?!」
「これは……」
敵の声とクロス様の声が重なる。奴ら7人は勢いよくせり上がる地面に身体を叩きつけられるようにして上空へ打ち上げられた。子供たちに辿り着く暇も与えない。俺はせり上がった地面をそのまま大きな掌のようにして7人全員を捕まえ、土の塊から顔だけを出す形にして地面に転がした。
「貴様!」
ほとんどの者が最初の一撃で気絶したようだったが、リーダーらしき男はまだ意識があって土の塊に身体を埋めながらも俺を睨んだ。魔法を使われると面倒なので、すぐに鼻面を殴って気絶させる。
「ガッ……!」
「貴族誘拐と傷害未遂の現行犯で逮捕する」
気絶したようなので土塊を解き、持参していた魔封じの手錠をリーダーらしき男にかけた。騎士団で支給されているものだ。ただ貴重品だし、基本的に一つしか持ち歩いていないため全員分はない。
俺は城壁の上を見上げて叫んだ。
「見張りの責任者はいるか?! こちらは第5騎士団所属、レネ・ルフィーナ少尉だ! クロス・オリバー・ソースイミヤ卿をはじめとする魔導学校生徒を害そうとした不審者を拘束した!」
「……っすぐに呼んでまいります! そこでお待ちを!」
「第4騎士団長にもすぐに報告するように!」
「了解いたしました!」
俺の声を受けて、城壁の上の騎士たちが慌ただしく走っていく。犯罪者が少ないからこそ護衛も少ないし学校の先生も付いてこないのだ。こんな事態は滅多にない。はっきり言って大事だ。だから、騎士団長にも報告する必要がある。
俺は油断なく捕まえた7人を見張りながら、子供たちに声を掛けた。
「皆さん、大丈夫ですか? 怪我などしてませんか?」
「レネが守ってくれたから平気だ」
「レネ少尉の魔法は凄いです!」
「いきなり飛び出てきたあいつらより、少尉の魔法の方にビビったぜ」
「私は何が起こったか理解できなかった」
「正直に言うと、私もだ」
5人は口々に答えてくれる。クロス様がレネって言った! さっきまでレネ少尉って呼んでたのに。きっとそれだけ吃驚したんだろう。可愛い。嬉しい。そのままレネって呼んでくれればいいのに。
「レネ少尉!」
第4騎士団の騎士が馬に乗って門の方から走ってくる。十数人体制で、馬車も一台引き連れている。捕まえた7人を乗せるのだろう。俺に声を掛けた騎士は腕に付けている腕章から大尉だと分かる。大尉だからと言って役職を決めつけることはできないけど、おそらく大隊長だろう。今日の見張り当番の大隊の内の一つに所属しているはずだ。
「すぐに手錠を掛けろ!」
「はっ」
俺がリーダー以外の土魔法の拘束を解くと素早く手錠がかけられ馬車に乗せられていく。先の大尉が俺に敬礼してくれた。
「第4騎士団第1師団第10大隊隊長、オードリー・オーブリー・フォーサイス大尉であります」
「第5騎士団第3師団第7大隊隊長、レネ・ルフィーナ少尉です。迅速なご対応ありがとうございます」
「いいえ、当然のことです。こちらこそ、レネ少尉のご協力に感謝いたします」
オードリー大尉は女性だった。この世界は前世よりも男女平等なのでどんな職業でも男女混合だし、女性が上司なんてことも普通にある。逆に家事手伝い的な職業に男性がつくのも普通だ。前世では家政婦って言われてたけど、男もなるので家政婦とは呼ばない。使用人と呼ぶのが普通だ。
人間には魔力が備わっているので、男女で体格が違ったり筋力に差があったりなんてことはなく、生まれた時の得意不得意と努力によっていくらでも身体は変化する。オードリー大尉も結構な体格をしている。もっと言うと、シャワー室も男女共同だったり2人部屋を男女で使うこともある。なにしろ、この世界は男性同士でも女性同士でも恋愛ができるし、子供は愛し合う二人が教会に行って祈って授かるものなのだ。それなら男女に分ける意味ないじゃんと思うかもしれない。実はそのことは聖書で説明されているのだが長くなるので割愛する。
ただ、第5騎士団には男性が多くて第4騎士団には女性が多いので、俺の周りは男が多い。別にルールで決まってるわけでもないので、自然とそうなっているみたいだ。
「もしよろしければ手錠をお貸し願えませんか。まだ任務中なのですが私の物は使用してしまったので」
「それでは私の物をお持ちください。後で第4騎士団の者に返却していただければ結構です」
「ありがとうございます」
オードリー大尉は自分の手錠を俺に渡すと簡単な挨拶だけをして、早々に引き上げていった。駆けつけるのも早かったし、仕事ができる人のようだ。平民の、しかも階級が下の少尉である俺に大して丁寧な対応をしてくれたので印象も良い。
「レネ少尉」
一段落してオードリー大尉を見送っているとクロス様の声が俺の意識を子供たちに戻した。振り返ると5つの顔が俺を見上げている。クロス様は無表情で、他の4人は不安そうな困惑したような顔だ。こんなことがあったので、授業続行とはいかないかもしれないと思っているのだろう。
俺は改めて子供たちに向き直ると彼らの意思を確かめるべく口を開いた。
1組はクロス様、ターリブ様、さっきの茶髪の女の子、他二人の5人だった。ターリブ様も1組だったんだな。ひょっとして年齢で分けているのかもしれない。貴族は平民と違って決まった歳になったら入学するものだし、前世の学校のように同い年だと接する機会が多くなるのだろう。チームを組むなら顔見知りの方が断然いい。
「お気をつけて」
「ありがとう」
門を守る第4騎士団の人に見送られて、俺たち1組は城壁外へ出た。ちなみに門番はシフト制で騎士団内で順番に回ってくる仕事だ。俺もやったことがあるめちゃくちゃ暇な仕事だったりする。それこそ、城門前で入退場する人たちを検問したりする役割ならそれなりにやることがある。ただ、門番という仕事の中に城壁の上で見張りをするものも含まれていて、それがめちゃくちゃに暇なのだ。皇都くらいになると城壁に魔法がかかっているので襲ってくる獣は少ない。敵襲なんかもないに等しいのでやることがないのである。
今日の当番に同情しながら城壁の上を見上げると、等間隔に並んでいる騎士の姿が見える。制服のラインは第4騎士団の証である緑だ。
そして、それ以外にも騎士団の制服でない人間が城壁の上からこちらを見ている。クロス様たちの個人的な護衛だろう。
「クロス卿、失礼ですが護衛の数は覚えておらえますか?」
「今日は3人来てる」
「ターリブ卿や他の皆様は?」
「えっ、護衛ってレネ少尉や冒険者の皆さんのことじゃなくて家から来ている者のことですか?」
「はい、人数は聞いていますか?」
「僕のところは1人だけ」
「そんなもの俺にはついてないぞ」
「私は2人だ」
「私も1人だけだ」
さっき話している時はターリブ様って呼んでしまったけど本当は卿って呼ぶ方が良いみたいだから今度はそう呼んだ。幸いなことにご本人であるターリブ様やクロス様たちは違和感を感じていないようだ。
皆の話を信用するなら全部で7人。城壁の上にいるのを数えたところ、数は合っているようだ。それでもすり替わっている可能性もあるため油断はできない。念のため、彼らのことも意識に入れておかなければならない。
「分かりました。それでは林までは私が先導しますのでついてきてください」
皇都は円の形をしていて第4騎士団の守る門は南西にあり、今日の目的地である林は西だ。そこまで向かうルートとしては真っすぐ向かうこともできるが、なるべく安全な城壁を伝って北上しそれから西に向かうのが良い。城壁から離れると獣が多くなるからな。
出発前にあんなことがあったからか、このルート選択には文句が出なかった。
「クロス卿はレネ少尉とお知り合いなんですね」
「ああ」
「なあ、どうやって知り合ったんだ? レネ少尉が冒険者してた時か?」
「いや、5歳の頃に誘拐されたのを助けてくれたのがレネ少尉だ。その時はまだ冒険者ではなかったと思う」
「マジ?!」
「誘拐って……やっぱりソースイミヤともなるとそんなことがあるんですね」
子供たちは俺の後ろを歩きながら俺の話で盛り上がっている。誘拐なんて貴族ならよくある話だと思われそうだけれど、実はこの世界においてはそうではない。珍しいことなのだ。
この世界には獣がいて、町は城壁で囲われ守られている。逆に言えば、城壁で囲われていない場所には住めない。町と町の間には街道が整備されている場合もあるが、街道沿いに茶店や宿屋みたいなものは一切ない。人間は城壁の中でしか生活できないのである。
すると、どういうことが起こるか。同じ町に住む人間は運命共同体のような形になる。皇都くらい大きい街になるとそうでもないにしろ、普通の街の人間はほぼ顔見知りみたいな状態だ。そんな中で悪さをするのは難しい。街以外の場所に拠点を作るのも至難の業だ。さらに言えば、誘拐のような仕事をできるくらい魔法や戦闘力に長けていれば、あえて危ない橋を渡らずともいくらでも高給取りになれるのがこの世界だ。犯罪に手を染めても不利なことばかりで前世のような旨みが少ないのである。
それでも、もちろん例外は存在する。
「皆さん、歩きながら聞いてください」
「?」
「どうしました、レネ少尉」
俺は風の魔法で後ろの5人だけに声が届くようにする。訊ねてきた声はターリブ様で、クロス様の視線を気配だけで感じる。
「この先に怪しい集団が待ち伏せしています。おそらく皆さんのうちの誰かを狙ったものと思われます」
「……!」
「えっ」
「何?!」
「どこにそんな人間が?」
「落ち着いてください。声は届かないようにしていますがこちらの様子を怪しまれると困ります。彼らは魔法で姿を隠しています。私の探知魔法には丸見えですが」
大討伐の時にも使った俺のオリジナル探知魔法だ。いくら姿を透明にしても体温は隠せない。子供たちは一瞬ざわついて、でもすぐに大人しくなった。幼くても貴族なんだな。
クロス様が落ち着いた声で俺を促す。
「どうするつもりだ」
「残念ながら、相手が魔法で身を隠していても『獣を狩るためにそうしていた』と言い訳されれば終わりです。現行犯でなければ逮捕できません」
「それじゃ」
「このまま気付かないふりをして進みます。皆さんには怖い思いをさせてしまうかもしれません」
「おいおい……マジかよ」
「安心してください。相手に動きがあればすぐに対処します。皆さんには指一本触れさせません」
俺は振り返ってあえて笑って見せた。さっきも言ったように、人を攻撃する犯罪者が少ないこの世界で貴族を待ち伏せしているなんて余程のことだ。言い訳されて逃げられたら危険分子を放置することになる。クロス様のためにも絶対にここで捕まえなければならない。俺の推しを害そうなんて良い度胸だ。
「任せたぞ」
「はい、お任せを。皆さんはそのままついてきてくださるだけで構いません」
つぶらな瞳に高い声で俺に命令するクロス様は超かわいい。前世ではクールで孤独なイメージだったクロス様に今は割とお友達がいるみたいで良かった。俺の救出劇が少しはクロス様の幸せに繋がってるんだと思いたい。そして、その幸せは俺が守る。
奴らは全部で7人。はからずも、クロス様たちの護衛の数と一緒だ。城壁の傍に張り付くようにして待ち伏せている。獣をいなしながら姿を隠すのは難しいため、林の方ではなく城壁の傍を選んだのだろう。城壁を守る騎士や護衛がいるとは言え、相当な高さのある城壁の上だ。駆けつけるのは一歩遅くなる。攫ってしまえばこっちのものだと思っている可能性が高い。それくらい、腕に自信があるということだ。
「ところで、皆さん。学校ではどんな授業を受けているのか話してくれませんか」
「えっ、学校?」
「精霊語の授業なら俺だってちゃんと受けてるぞ! でもあんな訳分かんねー言語覚えられるわけねーだろ!」
「おまえの覚えが悪いだけだろう」
奴らに不審に思われないよう俺が雑談を促すと、茶髪の女の子とクロス様が乗ってくれた。それに促されて他の子供たちも話し始める。俺はそれに相槌を打ちながら先程までと同じスピードで奴らに近づいていく。視線は真っすぐ、奴らの方は見ない。
城壁の傍に並ぶ奴らの横に差し掛かる。一人目を通り過ぎる。まだ動かない。二人目、まだだ。三人目、その横を通り過ぎようとした時、
「今だ!!」
と、野太い声がして7人の不審者が姿を現した。忍者のように布を顔に巻き付けていて人相は分からない。もっとも、衣服の色は茶色とクリーム色なので忍者とは言い難いが。奴らは城壁を蹴りつけるようにして、俺と子供たちに襲い掛かってくる。
俺は準備していた土の魔法を行使した。
「何?!」
「これは……」
敵の声とクロス様の声が重なる。奴ら7人は勢いよくせり上がる地面に身体を叩きつけられるようにして上空へ打ち上げられた。子供たちに辿り着く暇も与えない。俺はせり上がった地面をそのまま大きな掌のようにして7人全員を捕まえ、土の塊から顔だけを出す形にして地面に転がした。
「貴様!」
ほとんどの者が最初の一撃で気絶したようだったが、リーダーらしき男はまだ意識があって土の塊に身体を埋めながらも俺を睨んだ。魔法を使われると面倒なので、すぐに鼻面を殴って気絶させる。
「ガッ……!」
「貴族誘拐と傷害未遂の現行犯で逮捕する」
気絶したようなので土塊を解き、持参していた魔封じの手錠をリーダーらしき男にかけた。騎士団で支給されているものだ。ただ貴重品だし、基本的に一つしか持ち歩いていないため全員分はない。
俺は城壁の上を見上げて叫んだ。
「見張りの責任者はいるか?! こちらは第5騎士団所属、レネ・ルフィーナ少尉だ! クロス・オリバー・ソースイミヤ卿をはじめとする魔導学校生徒を害そうとした不審者を拘束した!」
「……っすぐに呼んでまいります! そこでお待ちを!」
「第4騎士団長にもすぐに報告するように!」
「了解いたしました!」
俺の声を受けて、城壁の上の騎士たちが慌ただしく走っていく。犯罪者が少ないからこそ護衛も少ないし学校の先生も付いてこないのだ。こんな事態は滅多にない。はっきり言って大事だ。だから、騎士団長にも報告する必要がある。
俺は油断なく捕まえた7人を見張りながら、子供たちに声を掛けた。
「皆さん、大丈夫ですか? 怪我などしてませんか?」
「レネが守ってくれたから平気だ」
「レネ少尉の魔法は凄いです!」
「いきなり飛び出てきたあいつらより、少尉の魔法の方にビビったぜ」
「私は何が起こったか理解できなかった」
「正直に言うと、私もだ」
5人は口々に答えてくれる。クロス様がレネって言った! さっきまでレネ少尉って呼んでたのに。きっとそれだけ吃驚したんだろう。可愛い。嬉しい。そのままレネって呼んでくれればいいのに。
「レネ少尉!」
第4騎士団の騎士が馬に乗って門の方から走ってくる。十数人体制で、馬車も一台引き連れている。捕まえた7人を乗せるのだろう。俺に声を掛けた騎士は腕に付けている腕章から大尉だと分かる。大尉だからと言って役職を決めつけることはできないけど、おそらく大隊長だろう。今日の見張り当番の大隊の内の一つに所属しているはずだ。
「すぐに手錠を掛けろ!」
「はっ」
俺がリーダー以外の土魔法の拘束を解くと素早く手錠がかけられ馬車に乗せられていく。先の大尉が俺に敬礼してくれた。
「第4騎士団第1師団第10大隊隊長、オードリー・オーブリー・フォーサイス大尉であります」
「第5騎士団第3師団第7大隊隊長、レネ・ルフィーナ少尉です。迅速なご対応ありがとうございます」
「いいえ、当然のことです。こちらこそ、レネ少尉のご協力に感謝いたします」
オードリー大尉は女性だった。この世界は前世よりも男女平等なのでどんな職業でも男女混合だし、女性が上司なんてことも普通にある。逆に家事手伝い的な職業に男性がつくのも普通だ。前世では家政婦って言われてたけど、男もなるので家政婦とは呼ばない。使用人と呼ぶのが普通だ。
人間には魔力が備わっているので、男女で体格が違ったり筋力に差があったりなんてことはなく、生まれた時の得意不得意と努力によっていくらでも身体は変化する。オードリー大尉も結構な体格をしている。もっと言うと、シャワー室も男女共同だったり2人部屋を男女で使うこともある。なにしろ、この世界は男性同士でも女性同士でも恋愛ができるし、子供は愛し合う二人が教会に行って祈って授かるものなのだ。それなら男女に分ける意味ないじゃんと思うかもしれない。実はそのことは聖書で説明されているのだが長くなるので割愛する。
ただ、第5騎士団には男性が多くて第4騎士団には女性が多いので、俺の周りは男が多い。別にルールで決まってるわけでもないので、自然とそうなっているみたいだ。
「もしよろしければ手錠をお貸し願えませんか。まだ任務中なのですが私の物は使用してしまったので」
「それでは私の物をお持ちください。後で第4騎士団の者に返却していただければ結構です」
「ありがとうございます」
オードリー大尉は自分の手錠を俺に渡すと簡単な挨拶だけをして、早々に引き上げていった。駆けつけるのも早かったし、仕事ができる人のようだ。平民の、しかも階級が下の少尉である俺に大して丁寧な対応をしてくれたので印象も良い。
「レネ少尉」
一段落してオードリー大尉を見送っているとクロス様の声が俺の意識を子供たちに戻した。振り返ると5つの顔が俺を見上げている。クロス様は無表情で、他の4人は不安そうな困惑したような顔だ。こんなことがあったので、授業続行とはいかないかもしれないと思っているのだろう。
俺は改めて子供たちに向き直ると彼らの意思を確かめるべく口を開いた。
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最初はただの好奇心だと思っていた。
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【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
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今回で何回目になるかな... 20回以上 読み回しかな...??
沼にハマりますた。。。ですね。
スパダリ大型犬攻め... 良い!!!
初めまして。とても面白いです!設定やお話がとても好みでこれからも楽しみにしています!!