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第一章 危険に見合った報酬
15. 水色のネットワーク
しおりを挟む■ 1.15.1
お偉いさん達は何の視察か会議か知らないが、連中がシャトルを出て行った後は俺も暇になる。
折角の時間だ。スパイらしい事をしてみようじゃ無いか。
チップ操作で、シャトルのログとレコーダを呼び出す。
セキュリティや事故防止など、色々な理由があるが、大概の船では航行中のログを取り、船内のモニタ情報を記録している。
それはシャトルも例外では無い。シャトルは、大気圏内降下機能に特化した船であると言える。
シャトル管制システムから、クルーズレコードを呼び出す。
パワーコアレコードや、センサーログ等の項目に混ざって、キャビンレコードがある。
これを呼び出し、データをそのまま俺のチップに転送する。
シャトルのシステムはただ単にキャビン内の音声を記録しているだけなので、ノイズリダクションをかけたり、レベル調整をしたりするような編集操作はこちらでやってやらなければならない。
クルーズレコードの解析プログラムはパイロット必須のツールで、勿論俺の頭の中にも入っている。
しかも前回のブラソンとの航海の時に、ログ解析の重要性をブラソンから説かれ、パイロット組合からダウンロード可能である最新のものに変更してある。
さらにブラソンの改造付きだ。そんじょそこらの音声解析ツールより余程高度な会話抽出が可能の筈だった。
連中がシャトルのハッチをくぐったところからの全てを再生して、念のために会話をテキスト変換する。
取り巻きの軍人達は、クーデターと言うことに絞って言えばあまり興味をそそる会話をしていない。
何処の部隊の同期の誰がどこに異動になっただの、現在開発中の新型装備品の開発スケジュールの遅れだの、そんな話に終始している。
勿論、装備品や士官のの名称がクーデターの具体的行動詳細に関する符丁の可能性は捨てきれないが、全体的な会話の話し方や内容から判断して裏のない内容に思えるので、やはりこれは除外する。
ダナラソオンとキュロブの会話は、パイロット席の近くだったので比較的明瞭に聞き取れる。
それに、俺も前を向いて操縦しつつもオートパイロットで手が空いているときには要所要所に聞き耳を立てて掻い摘まんで聞いている。
その内容確認作業となったが、やはり簡単にクーデター関連だとすぐに判るような具体的な内容は取れない。
相当に用心しているのだろう
。
当然と言えば当然のことだ。
シャトルの中など、壁に耳あり障子に眼ありと云ったところで、あちこちにセンサーが備え付けてある。
不用意にヤバイ内容を喋れば、それを誰が何処でモニターしているか判ったもんじゃない。実際、俺がこうやって聞いている。
二十分間のフライトのレコード解析に二時間近くを費やし、結局特に意味のある情報を取ることは出来なかった。
焦らない方がいい。これからもまだ連中を乗せて飛ぶだろう。
焦れば無理をすることになり、ボロが出る。
バレれば、たぶん命はない。
レコーダの解析が終わり暇になる。
操縦席をリクライニングにしてくつろぎ、寝る体勢に入る。
腕を組んでさて寝ようかと思ったところで、ゲートからドカドカと人の歩く音が聞こえてきた。
ゲートモニタのセンサが反応し、ダナラソオン達が帰ってきたことを告げる。
あわてて、と言うわけでもないが、リクライニングさせていたシートを元に戻す。
「マサシ、このシャトルでこのままベレエヘメミナまで行けるか?」
ダナラソオンが尋ねる。
俺は耳を疑った。
ベレエヘメミナとは、この太陽系の第五惑星であるベレエヘンムの環状ステーションだ。
ベレエヘンムは直径10万km強のガス星で、我々地球人の故郷であるソル太陽系の第五惑星木星と同様の星だ。
但し質量は木星の数倍、ハフォンの1200倍程度になる。
この第五惑星ベレエヘンムに、ハフォネミナ同様の環状軌道ステーションが設置されており、その名を「ベレエヘンムの環」と言う。
ハフォネミナとは異なり、ベレエヘメミナは主に軍の港として使われている。
ベレエヘンムからほぼ無尽蔵に供給される水素、重水素の供給ステーションでもあり、ハフォン太陽系防衛の要として機能している。
ちなみにハフォネミナは惑星ハフォンの静止衛星軌道上に存在するため、半径4万km程度の円環で済んでいるが、ハフォンの1000倍以上の質量を持つベレエヘンム環状ステーションであるベレエヘメミナは、半径約35万kmというバカみたいな大きさを持つ。
これをほぼ全て軍用の基地として使用しているのだが、この間のダナラソオンとキュロブの会話では、このベレエヘメミナの司令長官はどうやらダナラソオンの一派らしく、クーデター計画に加わっているようだった。
ベレエヘメミナにいったい何隻くらいの宇宙船が係留してあるのかは知らないが、総延長200万kmを超える軍基地が丸ごとクーデターに参加する予定で、俺の任務はそのクーデターを阻止することだ、というのは考えたくない事実だった。
話が逸れた。
シャトルというのは通常、ビークルには乗せきれない人数の人員や、大きな荷物を運ぶ為の、大型のビークルという様な使われ方をする。
つまり常識的に、地上と軌道ステーションを往復するのが通常の使い方で、脚を伸ばしたとしても衛星や、L1~L5ラグランジュポイント辺りとの往復に利用されるものだ。
遠くても数千万km程度の場所に行く事しか想定されていない乗り物で、数億kmを踏破しろと要求しているのだ。
これだから、地上で生活している連中は困る。
「ダナラソオン様、畏れながら。燃料は十分であり可能なのですが、このシャトルの加速性能はそれほど良いものではありません。現在のベレエヘンムとの位置関係を考えると全速でも片道四時間近くかかってしまいます。それでも構わないと仰るのであればこのまま向かえます。ちなみに、ハフォネミナから軍の駆逐艦をお使いになりますと、片道二時間弱程度です。」
「四時間もかかるか。仕方がないな。空いている軍の駆逐艦を調達するのに二時間はかかるだろう。ならばこのシャトルの方が良い。やってくれるか? ベレエヘメミナのA4区25番ピアだ。」
俺は頭の中で盛大に溜息を吐きながら、しかしにこやかな顔で言った。
「畏まりました。」
俺はシャトルの航法管制に、遥か10億kmの旅の為の自動操縦用のデータの入力を開始し、同時にハフォネミナのピアからの離岸シーケンスを起動した。
無事王宮に戻ったら、すぐさまシャトルのメンテナンスを申請せねばならないだろう。
■ 1.15.2
ブラソンは、ネットワーク上でのクーデター情報の調査をほとんど諦めていた。
キーワードとして考えつく限りの単語やフレーズを検索したが、めぼしい成果を上げられていなかった。
王宮軍を含めた王宮全体と、軍との間のやりとりを過去一年間にわたって虱潰しにしてみたが、それでも何も得られなかった。
勿論いくつか引っかかるメッセージなどがあるにはあるのだが、どれも決め手に欠けた。
感覚的な基準なってしまうが、それらのメッセージが当たりである可能性は、30%以下だろうと感じていた。
何よりも、過去一年間に渡ってほとんど全てのメッセージを検索した結果何もヒットしない事が問題だった。
その結果だけを見れば、クーデター計画などこの星の上に存在しない、というのが結論だった。
しかし、王宮に潜り込む事に成功したマサシはクーデター決行の情報をもたらしていた。
それが王宮内での噂話のような情報ではなく、クーデター計画の首謀者であると見なされているダナラソオンと直接接触して得たものである事から、この情報の確度は高いと考えられた。
マサシが適当な作り話をしているのではないだろう。
王宮から軍の部隊を引き連れてやってきたマサシは、ダナラソオンに見事に洗脳されていた。
それが洗脳なのか、ミリ達情報軍が主張するように魔法なのかは、この際どうでも良い。
奴は確かに何らかの術をかけられていて、思考をコントロールされていた。
だからやはり、クーデター計画は存在するのだ。
ではなぜ自分はそのクーデターに関する情報を何一つ見つけられないのか?
勿論、一般ネットワークに限らず、軍用、政府公共機関用、王宮といったあらゆるネットワーク上にクーデターに関する情報が一切無いからだ。
完全に行き詰まりだった。
もちろん、事が事だけに連中も情報の隠蔽には細心の注意を払っているだろう。
それにしても、この俺が、持てる手立てを全て使った上で、何も見つけられない筈はない。
しかし、ネットワーク上にクーデターを匂わせる情報が全く存在しないことは事実で、そしてあと十日ほどでクーデターが決行される可能性が高いというマサシがもたらした情報も事実なのだろう。
一体何が起こっているというのだろう。
新しくシステムを攻略するには、今手元にあるMPUは非力すぎる。
すでに掌握したシステムについては、過去数年にわたってほとんどのアクセスログを解析し終わっている。
クーデターが決行された場合、必要と思われるプログラム群を仕込んでいる最中だ。
他にやる事がない。
肝心の、いつどのようにクーデターが起こるのか、という情報だけが全く存在しない。
あちこち色々手を出して遊んでみても良いが、クーデター阻止にあまりに関係ない事をすると、ばれたときに面倒な事になりそうなのでやめておいた方がいいだろう。
もっとも、あの稚拙な技術の追跡部隊が自分のいたずらの跡を暴けるとも思えないが、万が一という事もある。
妙な事がばれて報酬額に響くのは避けたかった。
何をする当てもなくネット上をふらふらとうろつく。
プログラムの作成にばかり根詰めていても、そのうち嫌気が差して効率が極端に低下する。たまに一息入れる必要がある。
そうやってふらふらしているところで妙なものに気づいた。
この惑星上の情報のメインストリームと言って良いハフォン基幹システムの向こう側に、おぼろげなデータの流れが見える。
基幹システムのネットワークは、判り易くするために赤色に着色してある。
その近傍というか、向こう側に、淡い水色のネットワークが寄り添うように存在していることに気づいた。
それは基幹システムと同じデータ流を使いつつ、しかし完全に独立したネットワークだった。
基幹システムとデータのやりとりが認められるなら、同じように赤色に着色されているはずだった。
基幹システムとデータのやりとりがない、つまり、基幹システム上を走ったのではどのようにしても乗り移ることが出来ない独立したネットワークであるので、水色に着色されているのだった。
妙な話だった。
メインストリーム近傍にメンテナンス用や、大規模侵入に備えた非常用のサブストリームを構築することはままある話だ。
しかしそのサブストリームが、メインストリームとの間に接合点を持っていないのはおかしい。
それではサブストリームを作る意味がない。
もちろん、メインストリームが大規模な攻撃を受けてダウンしたとき、その余波を受けて一緒にダウンしないようにサブストリームに独立性を持たせる考え方は分かる。
しかし、情報のやりとりが一切無いというのは異常だし、このハフォンの他のネットワーク構造の脆弱性から考えると、ここだけこれほど強固な設計がなされているのは少々違和感を感じる構造だった。
興味を引かれたブラソンは、メインストリームの向こう側に淡く透けて見えるその水色のネットワークに接近した。
やはり、メインストリームの上に存在する今のブラソンからでは、触ることも近づくことも出来ないようだった。
少し興味を引かれて、この水色のネットワークを調査することにした。
調査できるところは調査し尽くしたのだ。良い暇つぶしにはなる。
基幹システム上にクーデター関連の情報が一切見つからない事から、もしかしたら当たりを引き当てたか、と言う期待も少しあった。
ブラソンは、基幹システムのメインストリームの赤色の流れの中を、おぼろげな水色の流れに沿って移動し始めた。
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