『ゼファー・コード』

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プロローグ 「灰の空」

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 空が燃えていた。灰色の雲を裂いて、真紅の光が地上へと突き刺さる。かつて高層ビルが林立していた都市〈エリュシオン〉は、今や瓦礫と火炎の海だった。

 少年はその中にいた。

 アキラ・セイラン──十五歳。細い体を覆うのは、破れた合成繊維のコート。燃え上がるビルの影から影へ、身をかがめながら走っていた。耳元では、断末魔の叫びが絶え間なくこだまする。空に浮かぶ異形の存在──鋼鉄と有機体が融合したような巨大な生物兵器が、街を蹂躙していた。

 ヴェルクス──それが奴らの名だと、誰かが言っていた。意思があるのかすら定かでない。だが確かなのは、人類の文明を破壊し尽くすという、ひたすらな敵意だけだった。

「……ミユ……どこだ……」

 アキラは荒い息を吐きながら、崩れた建物の隙間を抜けていく。妹を探していた。幼い彼女を残して、物資の調達に出たわずか一時間──その間に、街は地獄と化した。

 突如として空を裂いて現れたヴェルクスの群れ。軍の防衛線は一瞬で崩壊し、通信は遮断された。誰も、何も、助けに来なかった。

 路地の奥で、かすかに人の気配がした。

「ミユ!」

 アキラが駆け寄る。だがそこにいたのは、ただの少女の骸だった。冷えきった小さな体に、淡い花模様のシャツ──それは、ミユがいつも着ていたものと同じだった。

 彼の時間が止まった。

 世界が静かになった。

 空のヴェルクスが、音もなくこちらを見下ろしていた。次の瞬間、閃光が降り注ぎ、爆風が全てを飲み込んだ。

 ――しかし、彼は死ななかった。

 彼の身体を包んだのは、漆黒の鋼だった。咆哮と共に舞い降りたのは、人型の巨大兵器──TITAN FRAME(タイタン・フレーム)。その胸部ハッチが開き、機械の声が響いた。

「適合者、アキラ・セイラン。認証完了。搭乗を要請します」

 少年は、涙を拭うことなく、そのままハッチの中へと歩みを進めた。

 復讐の始まりだった。

 そして、長きに渡る地球奪還戦争──「ヴェルクス侵攻戦争」の幕が、ここに開かれた。
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