18 / 92
Echo17:はじまりの気配
しおりを挟む
「ルネ様、おはようございます」
いつも通りの挨拶を、いつもと同じ声で届ける。
だが心の内には、いつもと少しだけ違う鼓動があった。
昨日、ルネが自分から果物に手を伸ばした。口にした。
その瞬間の驚きと喜びは、胸の奥でまだ熱を帯びている。今日も同じであるようにと、ほんの少し、祈るような気持ちで彼の名を呼んだ。
するとルネが、わずかに動いた。
うつむいていた顔が、ゆっくりと上がり、青い瞳がまっすぐにこちらを見た。明らかな反応に、アリセルの顔には笑顔が広がる。歩み寄り、彼の目の前にしゃがみこんだ。
「昨日は眠れましたか?」
問いかけると、ルネは何も言わず、だが視線を逸らすこともなく、じっとアリセルを見つめていた。
そして、わずかに首を縦に動かした。
ルネが問いかけに初めて反応を示してくれた。声が届いた。嬉しさが、静かに体の奥に広がっていく。
その余韻を胸に抱いたまま、アリセルはもう一歩、彼に近づきたくなり、そっと手を差し出す。
「今日も、よろしくお願いしますね」
ルネは黙ったままアリセルの手を見つめる。
やがて、少しだけ迷うような仕草のあと、静かに、自分の手を重ねてくる。アリセルはその手を、力をこめすぎないよう気をつけながら、そっと握り返した。ルネの手は冷たいが、その奥には確かに脈打つものがあった。
小さな一歩。だがアリセルにとっては、大きな一歩だった。きっとそれはルネにとってもだろう。
にっこりと彼に笑いかけてから、持ってきた包みをほどく。
マリーゴールド、カモミール、レモンバーム。先日、市場で選んだ花瓶に挿すつもりで、庭から摘んできたのだ。草と柑橘を思わせる香りが、ふわりと広がる。
「いい香りですよ、ルネ様」
そう言って、花束を差し出す。ルネはわずかに逡巡するように視線を彷徨わせてから、ゆっくりと小首を傾ける。そして花のほうへと身を乗り出した。彼の顔に、ごくかすかなもの――笑みと呼ぶにはあまりに淡く、けれど確かに、口元が緩んだような表情が浮かぶ。
錯覚だろうかとアリセルが目を瞬いた時、扉の向こうから足音が近づいてきた。程なくして姿を現したのはユーグだ。
「おはよう、ルネ。アリセル」
昨日ほどではないが、ユーグの顔にはうっすらと疲労が滲んでいる。肩越しに振り返ったアリセルだが、ぷいっと勢い良く顔を背けた。
「飲んだくれて、女性を家に連れ込むような不良は知りません!」
「約束やぶって悪かったって」
「それだけじゃないでしょ。女性を連れ込んだことに対しての弁明は?」
「いや、そこは俺、別に悪くないし」
しれっと答えるユーグに対してアリセルは、うぎぎぎと小さく唸るような顔で彼を睨んだ。ユーグは、そんな彼女の髪をかき乱すように、くしゃくしゃっと撫でた。
「怒るなよ。お詫びに、これ買ってきたんだ」
そう言って、ユーグは手にしていた厚手の蝋引き紙の包みをほどいた。
中から現れたのは、宝石のような果物が贅沢に敷き詰められたタルトだった。大粒の苺は艶やかに光り、薄桃色の桃は花びらのように重なっている。熟したキウイの緑が葉のように彩られ、オレンジの薄切りには光が透けているようだった。
「……わぁ」
タルトのあまりの華やかさと美しさに、苛立ちなど一瞬にして吹き飛んでしまった。
アリセルは目を輝かせながら、手にしていた花をユーグに押し付ける。
「すぐに紅茶も入れて準備するから。ユーグはこれ活けて! 花瓶はこっちの棚!」
「了解」
忙しなく指示を飛ばしてから立ち上がろうとした時、唇に、ふわりとしたものが押し当てられた。
軽くて柔らかく、ほんのり甘い香りが漂う。
顔を上げると、視線の先でユーグと目が合った。指先につままれていたのは、白くて丸いメレンゲだ。まるで遊ぶような手つきで、それをアリセルの唇にあてがったまま、彼は楽しげに口元を緩めていた。
軽く笑うような瞳と、悪戯の続きを待つような表情に抗うこともできず、そのまま小さく口を開く。メレンゲが、そっと唇の隙間から舌先に触れた。
口に含んだそれは、ふわりと軽くて、驚くほど甘い。ほろりと溶けて、やさしい香りだけを舌の上に残していく。
「……おいしいっ」
ぱっと笑顔を咲かせるアリセルに、ユーグは満足げに目を細める。
「都ではよく見かけるけど、この辺でメレンゲなんて珍しいだろ」
そう言いながら、ユーグは手元のもうひとつのメレンゲをつまむと、今度はルネの前にしゃがみ込む。
「ほら、ルネも食ってみるか?」
ルネは、差し出されたメレンゲをしばらく見つめていた。
まるで、それが何であるのか探るように、じっと動かずにいる。やがて、小さく目を伏せ、ためらうような仕草のあと、そっと口を開いた。
素直に食べたことが、ユーグにとっても意外だったのだろう。ちらりと視線を寄越してきた彼に、アリセルは笑顔でこくり、と頷いた。
そのまま小さな炭炉を手元に引き寄せる。
家から持ち込んだもので、金属製の簡素なつくりながら、お茶を用意するのに重宝していた。
新しい炭をくべて火を起こし、小鍋に汲んだ水をのせると、ほどなくして湯気がふわりと立ちのぼっていく。棚から茶葉の缶と、素焼きのポットを取り出して机の上に置く。葉を入れ、お湯を注ぐとふくよかで深みのある香りが立ちのぼった。
一方、ユーグは押しつけられた花束を手に、素直に花瓶の前へ向かっていた。
水の入った瓶の口に、花と香草をひとつひとつ丁寧に差し入れ、向きや高さを調整しながら、ときおり全体のバランスを確かめている。
お茶がちょうどよく蒸らせた頃合いを見計らって、アリセルは小皿を並べ、タルトを丁寧に三等分にした。ふんだんに乗せられた果物は形を崩すことなく切り分けられ、それぞれの皿の上に収まっていく。
湯気の立つ紅茶のカップを添えて、アリセルは皿を並べた。
そのままルネの隣に腰を下ろし、ユーグを手招きする。三人は皿を囲むように並んだ。
「では、いただきます」
そう言って両手をそろえると、アリセルはフォークを手に取り、タルトのひとかけを口に運んだ。サクッとした生地の感触のあとに、甘酸っぱい果実と、程よい甘さのクリームが舌の上に広がる。
「……んーっ、しあわせ……」
自然と笑みがあふれる。つい顔が緩んでしまうのを自分でも止められない。
「本当、ウマそうに食うよなぁ」
紅茶のカップを片手に、ユーグがどこか嬉しそうに言う。その声音には、少しだけ満足げな響きが混じっていた。
「だって美味しいんだもん」
とろけるような笑顔のアリセルの隣で、ルネはただじっと、自分の皿に目を落としている。ユーグが身を乗り出し、彼の手にフォークを握らせた。
「ほら、食ってみろよ」
言葉こそ軽いが、口調は優しかった。
ルネは僅かに手をこわばらせたが、やがてゆっくりとフォークを動かし、タルトの一辺を切り取った。躊躇いながら、それを口に運ぶ。アリセルはそっと、ルネの様子を見守っていた。
「ね、美味しいでしょう?」
小さく問いかけると、ルネは返事をしないまま、またひとくち、タルトを口に運んだ。その動きはぎこちないけれど、もう迷いはなかった。
しばしルネを見つめていたアリセルは、ふと視線をユーグに向ける。
「そう言えば、ユーグ。二日酔いとか珍しいね、何かあったの?」
問いかけに、ユーグはカップを置き、微かに眉をひそめた。
「ああ、ちょっと嫌な奴に会ったんだ」
「嫌な奴……?」
小さく首を傾げるアリセルだが、ユーグはそれ以上何も言わなかった。
よほど関わりたくない相手なのだろうと、アリセルは察する。だが人付き合いに長けたユーグが、そこまで嫌がる相手とはどんな人なのだろうか。疑問を胸の内にしまい、「そういえば」と言葉を続けた。
「私、この前、エリック・ジルベールさんに会ったよ」
「どこで?」
その問いかけの直前、ユーグの表情がかすかに強張った気がして、アリセルは一瞬だけ戸惑う。
だが、それもすぐに掻き消える。目元に笑みを乗せたまま、何事もなかったように視線を返す彼を見て、アリセルは自分の勘違いだと思い直した。
「市場の外れで」
「……そうか。どんな奴だった?」
「なんか、聞いていた話とは全然違っていた。猫を連れていて、優しそうな人だったよ」
アリセルは口を閉ざし、タルトを口に運ぶ。嚥下してから「でも」と言葉をつなぐ。
「でも信用してはいけないって、お父様とお母様は言っていた。だから、たぶん…そういう人なんだと思う」
言葉を選びながら続けるアリセルに、ユーグは何も返さない。
だが、ふと浮かんだその痛ましげな表情が、何を意味するのか、アリセルには分からなかった。
いつも通りの挨拶を、いつもと同じ声で届ける。
だが心の内には、いつもと少しだけ違う鼓動があった。
昨日、ルネが自分から果物に手を伸ばした。口にした。
その瞬間の驚きと喜びは、胸の奥でまだ熱を帯びている。今日も同じであるようにと、ほんの少し、祈るような気持ちで彼の名を呼んだ。
するとルネが、わずかに動いた。
うつむいていた顔が、ゆっくりと上がり、青い瞳がまっすぐにこちらを見た。明らかな反応に、アリセルの顔には笑顔が広がる。歩み寄り、彼の目の前にしゃがみこんだ。
「昨日は眠れましたか?」
問いかけると、ルネは何も言わず、だが視線を逸らすこともなく、じっとアリセルを見つめていた。
そして、わずかに首を縦に動かした。
ルネが問いかけに初めて反応を示してくれた。声が届いた。嬉しさが、静かに体の奥に広がっていく。
その余韻を胸に抱いたまま、アリセルはもう一歩、彼に近づきたくなり、そっと手を差し出す。
「今日も、よろしくお願いしますね」
ルネは黙ったままアリセルの手を見つめる。
やがて、少しだけ迷うような仕草のあと、静かに、自分の手を重ねてくる。アリセルはその手を、力をこめすぎないよう気をつけながら、そっと握り返した。ルネの手は冷たいが、その奥には確かに脈打つものがあった。
小さな一歩。だがアリセルにとっては、大きな一歩だった。きっとそれはルネにとってもだろう。
にっこりと彼に笑いかけてから、持ってきた包みをほどく。
マリーゴールド、カモミール、レモンバーム。先日、市場で選んだ花瓶に挿すつもりで、庭から摘んできたのだ。草と柑橘を思わせる香りが、ふわりと広がる。
「いい香りですよ、ルネ様」
そう言って、花束を差し出す。ルネはわずかに逡巡するように視線を彷徨わせてから、ゆっくりと小首を傾ける。そして花のほうへと身を乗り出した。彼の顔に、ごくかすかなもの――笑みと呼ぶにはあまりに淡く、けれど確かに、口元が緩んだような表情が浮かぶ。
錯覚だろうかとアリセルが目を瞬いた時、扉の向こうから足音が近づいてきた。程なくして姿を現したのはユーグだ。
「おはよう、ルネ。アリセル」
昨日ほどではないが、ユーグの顔にはうっすらと疲労が滲んでいる。肩越しに振り返ったアリセルだが、ぷいっと勢い良く顔を背けた。
「飲んだくれて、女性を家に連れ込むような不良は知りません!」
「約束やぶって悪かったって」
「それだけじゃないでしょ。女性を連れ込んだことに対しての弁明は?」
「いや、そこは俺、別に悪くないし」
しれっと答えるユーグに対してアリセルは、うぎぎぎと小さく唸るような顔で彼を睨んだ。ユーグは、そんな彼女の髪をかき乱すように、くしゃくしゃっと撫でた。
「怒るなよ。お詫びに、これ買ってきたんだ」
そう言って、ユーグは手にしていた厚手の蝋引き紙の包みをほどいた。
中から現れたのは、宝石のような果物が贅沢に敷き詰められたタルトだった。大粒の苺は艶やかに光り、薄桃色の桃は花びらのように重なっている。熟したキウイの緑が葉のように彩られ、オレンジの薄切りには光が透けているようだった。
「……わぁ」
タルトのあまりの華やかさと美しさに、苛立ちなど一瞬にして吹き飛んでしまった。
アリセルは目を輝かせながら、手にしていた花をユーグに押し付ける。
「すぐに紅茶も入れて準備するから。ユーグはこれ活けて! 花瓶はこっちの棚!」
「了解」
忙しなく指示を飛ばしてから立ち上がろうとした時、唇に、ふわりとしたものが押し当てられた。
軽くて柔らかく、ほんのり甘い香りが漂う。
顔を上げると、視線の先でユーグと目が合った。指先につままれていたのは、白くて丸いメレンゲだ。まるで遊ぶような手つきで、それをアリセルの唇にあてがったまま、彼は楽しげに口元を緩めていた。
軽く笑うような瞳と、悪戯の続きを待つような表情に抗うこともできず、そのまま小さく口を開く。メレンゲが、そっと唇の隙間から舌先に触れた。
口に含んだそれは、ふわりと軽くて、驚くほど甘い。ほろりと溶けて、やさしい香りだけを舌の上に残していく。
「……おいしいっ」
ぱっと笑顔を咲かせるアリセルに、ユーグは満足げに目を細める。
「都ではよく見かけるけど、この辺でメレンゲなんて珍しいだろ」
そう言いながら、ユーグは手元のもうひとつのメレンゲをつまむと、今度はルネの前にしゃがみ込む。
「ほら、ルネも食ってみるか?」
ルネは、差し出されたメレンゲをしばらく見つめていた。
まるで、それが何であるのか探るように、じっと動かずにいる。やがて、小さく目を伏せ、ためらうような仕草のあと、そっと口を開いた。
素直に食べたことが、ユーグにとっても意外だったのだろう。ちらりと視線を寄越してきた彼に、アリセルは笑顔でこくり、と頷いた。
そのまま小さな炭炉を手元に引き寄せる。
家から持ち込んだもので、金属製の簡素なつくりながら、お茶を用意するのに重宝していた。
新しい炭をくべて火を起こし、小鍋に汲んだ水をのせると、ほどなくして湯気がふわりと立ちのぼっていく。棚から茶葉の缶と、素焼きのポットを取り出して机の上に置く。葉を入れ、お湯を注ぐとふくよかで深みのある香りが立ちのぼった。
一方、ユーグは押しつけられた花束を手に、素直に花瓶の前へ向かっていた。
水の入った瓶の口に、花と香草をひとつひとつ丁寧に差し入れ、向きや高さを調整しながら、ときおり全体のバランスを確かめている。
お茶がちょうどよく蒸らせた頃合いを見計らって、アリセルは小皿を並べ、タルトを丁寧に三等分にした。ふんだんに乗せられた果物は形を崩すことなく切り分けられ、それぞれの皿の上に収まっていく。
湯気の立つ紅茶のカップを添えて、アリセルは皿を並べた。
そのままルネの隣に腰を下ろし、ユーグを手招きする。三人は皿を囲むように並んだ。
「では、いただきます」
そう言って両手をそろえると、アリセルはフォークを手に取り、タルトのひとかけを口に運んだ。サクッとした生地の感触のあとに、甘酸っぱい果実と、程よい甘さのクリームが舌の上に広がる。
「……んーっ、しあわせ……」
自然と笑みがあふれる。つい顔が緩んでしまうのを自分でも止められない。
「本当、ウマそうに食うよなぁ」
紅茶のカップを片手に、ユーグがどこか嬉しそうに言う。その声音には、少しだけ満足げな響きが混じっていた。
「だって美味しいんだもん」
とろけるような笑顔のアリセルの隣で、ルネはただじっと、自分の皿に目を落としている。ユーグが身を乗り出し、彼の手にフォークを握らせた。
「ほら、食ってみろよ」
言葉こそ軽いが、口調は優しかった。
ルネは僅かに手をこわばらせたが、やがてゆっくりとフォークを動かし、タルトの一辺を切り取った。躊躇いながら、それを口に運ぶ。アリセルはそっと、ルネの様子を見守っていた。
「ね、美味しいでしょう?」
小さく問いかけると、ルネは返事をしないまま、またひとくち、タルトを口に運んだ。その動きはぎこちないけれど、もう迷いはなかった。
しばしルネを見つめていたアリセルは、ふと視線をユーグに向ける。
「そう言えば、ユーグ。二日酔いとか珍しいね、何かあったの?」
問いかけに、ユーグはカップを置き、微かに眉をひそめた。
「ああ、ちょっと嫌な奴に会ったんだ」
「嫌な奴……?」
小さく首を傾げるアリセルだが、ユーグはそれ以上何も言わなかった。
よほど関わりたくない相手なのだろうと、アリセルは察する。だが人付き合いに長けたユーグが、そこまで嫌がる相手とはどんな人なのだろうか。疑問を胸の内にしまい、「そういえば」と言葉を続けた。
「私、この前、エリック・ジルベールさんに会ったよ」
「どこで?」
その問いかけの直前、ユーグの表情がかすかに強張った気がして、アリセルは一瞬だけ戸惑う。
だが、それもすぐに掻き消える。目元に笑みを乗せたまま、何事もなかったように視線を返す彼を見て、アリセルは自分の勘違いだと思い直した。
「市場の外れで」
「……そうか。どんな奴だった?」
「なんか、聞いていた話とは全然違っていた。猫を連れていて、優しそうな人だったよ」
アリセルは口を閉ざし、タルトを口に運ぶ。嚥下してから「でも」と言葉をつなぐ。
「でも信用してはいけないって、お父様とお母様は言っていた。だから、たぶん…そういう人なんだと思う」
言葉を選びながら続けるアリセルに、ユーグは何も返さない。
だが、ふと浮かんだその痛ましげな表情が、何を意味するのか、アリセルには分からなかった。
1
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
やさしいキスの見つけ方
神室さち
恋愛
諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。
そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる