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第2章
シルバーブルーの祈り
しおりを挟む一睡もできぬまま、気が気ではない状態で決闘の日の朝を迎えた。
カーテンの隙間から差し込む白々しい光が、運命の日の訪れを告げている。
「エリアス様、おはようございます。……お身体の具合はいかがですか?」
担当のメイドが静かに入室し、銀の盆に乗せた薬と水を差し出した。
ヒート期間が目前に迫っているエリアスのために、王宮の医師が特別に調合した抑制剤だ。
もし決闘の場でヒート状態になってしまえば、多くのアルファが集まる会場はパニックになり、ヴォルフの足手まといになってしまう。それだけは避けなければならない。
「ありがとうございます……」
薬を飲むと、ざわついていた体内の熱がすうっと引いていくのが分かった。
王宮の医師が用意しただけのことはあり、効果覿面だ。
これで今日一日、不測の事態が起きることはないだろう。
あと数日後には、予定通り「本番」のヒートが訪れるはずだ。
(その時を……私は、夫であるヴォルフと迎えられるのだろうか)
それとも、あの男の所有物として迎えることになるのか。
すべては、今日の決闘の結果次第だ。
そう考えると、胃が縮み上がるようで喉を食事が通らなかったが、メイドが気を利かせて胃に優しいスープを用意してくれたおかげで、なんとかそれだけは流し込むことができた。
ヴォルフを信じると決めたのだ。彼が勝った時、笑顔で迎えられるように体力をつけておかなければ。
食事を終えると、身支度の時間となった。
メイドがクローゼットから取り出し、広げた衣装を見て、エリアスは息を呑んだ。
「これは……」
それは、美しく上質なシルバーブルーの布で仕立てられた、気品溢れる衣装だった。
朝霧のような淡い青と、ヴォルフの髪色を思わせる銀が織り交ざった、繊細な色合い。
メイドに説明されるまでもなかった。
一目で分かった。
(ヴォルフが、用意したものだ)
エリアスの透き通るような白い肌に映える、美しい色。
かつて実家で「地味で暗い色が似合う」と言い聞かせられ、自分でもそう思い込んで選んできたエリアスに、ヴォルフは出会ってからずっと「君には光が似合う」と言い続け、明るく綺麗な色を贈り続けてくれた。
この衣装も、それらと同じだ。
ここにはいないヴォルフの、「君は美しい」という声が聞こえてくるようで、エリアスの胸が熱くなった。
メイドは、エリアスが何も言わずとも全てを理解したことを察し、余計な説明はしなかった。
ただ静かに微笑み、着替えを手伝ってくれた。
袖を通すと、まるでヴォルフに抱きしめられているような心地よさを感じた。
支度を終え、姿見の前に立つ。
「…………」
鏡の中には、凜と前を向く青年の姿があった。
やつれてはいるが、その瞳には力が宿っている。
ヴォルフが用意した衣装ほど、エリアスを輝かせるものはない。
改めて、美しい姿でそこに立つ自分を見て、エリアスは確信した。
これはただの服ではない。ヴォルフの愛そのものであり、エリアスを守るための鎧なのだと。
(今日はこの姿で、愛する人の勝利と、幸せな未来を祈ろう)
ヴォルフは勝つ。必ず迎えに来てくれる。
彼を信じる。
それだけが、今のエリアスにできる唯一の、そして最大の戦いだ。
「行きましょう」
エリアスは鏡の中の自分に頷き、決意を秘めた瞳で前を見据えた。
メイドに扉を開けてもらい、祈りを胸に部屋を後にした。
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