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第2章
狭間の安息
しおりを挟むふと、深い水底から浮上するように、エリアスはゆっくりと目を開けた。
視界に映ったのは、湯気で白く霞んだ天井と、温かな光。
そして肌を包んでいるのは、とろりとしたお湯の感触だった。
「……ん」
「……目が覚めたかい、エリアス」
耳元で、低く優しい声が響いた。
エリアスはヴォルフの膝の上にすっぽりと収まり、その広い胸に背中を預ける形で、大きなバスタブに浸かっていたのだ。
「ヴォルフ……私、は……」
「あの後、何度か果てたところで君が気を失ってしまってね。……そのまま少しベッドで休ませてから、綺麗にするためにここへ運んだんだ」
ヴォルフは湯を含ませたスポンジで、エリアスの腕を優しく撫でながら説明してくれた。
言われてみれば、記憶は快楽の絶頂で途切れている。
気絶するほど激しく求め合い、そしてヴォルフが全てをケアしてくれたのだ。
今のエリアスを包んでいるのは、温かいお湯と、激しいセックスの後に訪れる心地よい倦怠感だけだった。
ヒート特有の、理性を焼き切るような猛烈な熱の波は、今は一時的に引いており、嵐の目のような静けさが訪れている。
(……落ち着いている)
けれど、これは終わりではない。
ヒートは数日間続く。また次の波が来るまでに、少しでも体力を回復し、眠っておかなければならない。
エリアスはぼんやりとした頭で、湯の温かさと、ヴォルフの手のひらに撫でられている気持ちよさに身を任せた。
自分では指一本動かせないほど脱力しているが、ヴォルフが支えてくれているおかげで、溺れる心配もなくただただ心地よい。
「……気持ちいい、です」
「そうか。よかった」
ヴォルフはエリアスの項に頬を寄せ、慈しむように囁いた。
「少しでも休んで。……全て私に任せていいよ」
大きな手が、お湯の中でエリアスの手足や腹部を、マッサージするようにゆっくりと撫でていく。
「身体が温まったら、私もこの後、一緒に眠るから。安心して、身を委ねていればいい」
その頼もしい言葉と、規則正しい心音。
揺蕩うお湯の浮力。
全てがエリアスを甘い微睡みへと誘っていく。
「……はい、ヴォルフ……」
安心しきったエリアスの瞼が、重力に逆らえずゆっくりと落ちていく。
エリアスは湯の中で、再びヴォルフに身体を預けたまま、泥のように深く、安らかな眠りへと落ちていった。
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