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第3章
二つの愛顔
しおりを挟む湯船の中で幾度もの絶頂を迎え、完全に脱力してしまったエリアスを、ヴォルフは愛おしげに抱き上げた。
濡れた身体をふかふかのバスタオルで包み込み、水滴を優しく吸い取るように拭いていく。
そして、湯冷めしないように厚手のバスローブを着せると、ヴォルフはエリアスを軽々と横抱きにして浴室を出た。
「……んぅ」
エリアスはヴォルフの首に腕を回す気力すら残っておらず、されるがままにその胸にぐったりと頭を預けた。
自分の足で歩く必要も、身体を支える必要もない。
ただヴォルフに全てを委ねていればいいという絶対的な安心感が、疲弊した身体を心地よく包み込んでいた。
寝室に到着すると、ヴォルフはエリアスをベッドに一度下ろし、バスローブの紐を解いた。
手際よく、かつ丁寧にシルクのナイトウェアへと着せ替えてくれるその手つきは、まるで壊れ物を扱うかのように優しい。
「……エリアス」
着替えを終え、ぼんやりと虚空を見つめているエリアスの頭を、ヴォルフが慈しむように撫でた。
その瞳は、先ほど浴室で見せていた欲情の色とは違う、どこまでも穏やかで深い愛情に満ちている。
エリアスは、吸い寄せられるようにヴォルフへと両手を伸ばした。
「……ヴォルフ」
甘えるようなその仕草に、ヴォルフは目を細め、再びエリアスを抱き上げてくれた。
そのまま、ヴォルフは近くのソファに腰を下ろし、エリアスを膝の上に抱きかかえたまま、そっと唇を重ねた。
「ん……」
先ほどまで、あんなにも激しく胸を虐め、泣かせてきた男と同一人物だとは信じられないほど、優しく甘いキスだった。
触れるだけの、体温を分け合うような口づけ。
(……どちらも、大好きだ)
エリアスはヴォルフの背中に回した手に力を込めた。
自分の痴態を見て興奮しきった、雄々しく支配的な顔。
そして今のように、宝物を見つめるような優しく愛に溢れた顔。
そのどちらもが、自分だけに向けられたヴォルフの愛なのだと思うと、胸がいっぱいになった。
キスを繰り返すうちに、エリアスの意識はまどろみの中へと沈み始めた。
重くなるまぶた、ゆっくりとなる呼吸。
ヴォルフは唇を離すと、エリアスを抱きしめる腕に力を込め、耳元で静かに囁いた。
「眠っていいよ。……君が眠るまで、こうしているから」
「……うん」
「ベッドに寝かせるのは、君が夢の中に行ってからにするよ。だから安心して、離れないから」
トントン、と背中を一定のリズムで叩かれる。
その振動が、エリアスを深い眠りへと誘う子守唄のようだった。
(明日は……休みだ)
ようやく、久しぶりにヴォルフとゆっくり過ごせる一日がやってくる。
そのことが何よりも楽しみで、エリアスは幸せな気持ちで満たされながら、ヴォルフの腕の中で安らかに瞼を閉じた。
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