銀色の商人と贋作の妻

真大(mahiro)

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第3章

献身の果実

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エリアスが目覚めてからの回復は、決して劇的なものではなく、薄紙を剥ぐように少しずつ進んでいった。
それでも、いつ目覚めるか分からないという底なしの恐怖から解放されたヴォルフにとって、エリアスの目が開き、意識があるという事実だけで十分すぎるほどの安堵だった。

まだ自力で身を起こすことは出来ないが、数日後には口元を覆っていた呼吸器が外された。
ヴォルフは、エリアスが目を覚ましている間も、無理に話をさせようとはしなかった。
ただ優しく髪を撫で、頬に触れ、今日あったことや天気のことを静かに語りかける。
喉への負担を気遣っての配慮だったが、エリアスもまた、ヴォルフの声を聞いているだけで安心するようだった。

日が経つにつれ、エリアスが目を覚ましている時間が少しずつ長くなってきた。
それが確かな回復の証拠だと感じられ、ヴォルフは胸を撫で下ろす。

ヴォルフが大きな手で頭を撫でてやると、エリアスは猫のように目を細め、嬉しそうな表情を見せる。

「……可愛いな」

その無防備な仕草が愛しくてたまらず、ヴォルフはつい囁いて、痩せてしまった頬にチュッとキスを落とす。
そんな甘い現場を、回診に来た看護師たちに目撃されることも一度や二度ではなかった。

「まあ……ふふっ」
「本当にお仲がよろしくて、拝見しているこちらまで微笑ましいですわ」

看護師たちは呆れるどころか、死の淵から生還した二人を祝福するように、温かい目で見守ってくれた。
やがて、点滴による栄養補給だけでなく、口から摂取する栄養ゼリーなどの流動食が許可された。
すると、そこからはヴォルフの出番だった。

「私がやるよ」

看護師の手からスプーンやパウチを受け取ると、ヴォルフは甲斐甲斐しくエリアスの口元へと運ぶ。

「さあ、エリアス。あーん」
「ん……」

エリアスが小さな口を開けて飲み込むのを、ヴォルフは我が子の成長を見守るかのように満足そうに眺め、口元が汚れるとすぐに指先で拭ってやる。
医療的な処置はプロである看護師に任せるが、それ以外の生活の世話など、自分でやってあげられることは何でもしてあげたかった。

エリアスが生きてここにいる。その世話ができるということが、ヴォルフにとってはこの上ない喜びなのだ。

そうしてしばらく経つと、ついに点滴と輸血の管が全て外された。
まだ起き上がることは出来ず、ベッド上での生活は続くが、身体中に繋がれていた沢山の管から解放されたエリアスは、随分と身軽になったように見える。

「……よかった」

ヴォルフはその平穏な寝顔を見つめ、一日も早い完全な回復を祈りながら、今日も片時も離れずにそのそばに居続けた。
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