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第3章
生存本能の渇愛
しおりを挟む新しい包帯が巻かれ、看護師が一礼して病室を出て行くと、室内には再び二人きりの静寂が戻った。
エリアスはまだベッドの端に腰掛けたまま、ぼんやりとヴォルフを見つめている。
「……さあ、疲れただろう。横になろうか」
ヴォルフが寝かせようとして、その肩にそっと触れると、エリアスは予想に反してその大きな手をぎゅっと掴んで引き留めた。
「……エリアス?」
「ヴォルフ……キス、したいです」
エリアスは潤んだ瞳で見上げ、懇願するように言った。
「それ以上のことは……まだ身体が動きませんけど、もう我慢できなくて……」
甘く、熱のこもったその声は、ヴォルフの理性を揺さぶるのに十分すぎた。
ヴォルフとて、ずっと我慢してきたのだ。
傷ついたエリアスの身体を一番に考え、どこまでも慈しむように、壊れ物を扱うように触れ、撫でるだけ。
せいぜい、頬やおでこに軽いキスをしてあげるくらいが関の山だった。
けれど本音を言えば、生きて戻ってきてくれたエリアスをこの手で確かめたくて、その唇を塞ぎたくて、ずっと狂いそうだった。
「……エリアス、私もだよ」
ヴォルフはエリアスの手を握り返し、低く囁いた。
「本当は、ずっと我慢の限界だったんだ」
ヴォルフはベッドに腰掛けているエリアスの後頭部にそっと手を回し、ゆっくりと顔を近づけた。
エリアスは待っていましたとばかりに目を閉じ、ヴォルフの唇を受け入れた。
最初は、唇を重ねるだけの、互いの体温と柔らかさを確かめ合うような優しい口づけだった。
チュ、と軽い音がして離れようとした時。
エリアスがヴォルフを誘うように、ちろりと舌を出し、ヴォルフの唇をペロリと舐めた。
「ッ……」
その挑発に、ヴォルフの理性の箍が外れた。
「……我慢できないな」
ヴォルフは後頭部を支える手に力を入れてグッと引き寄せると、角度を変え、深く、貪るように唇を塞いだ。
「んっ……!」
こじ開けられた唇の隙間から舌が侵入し、絡み合い、口腔内を蹂躙する。
エリアスもまた、ヴォルフの舌を迎え入れ、その唾液をむさぼるように飲み下し、恍惚とした表情を浮かべた。
(ヴォルフの味だ……)
何よりも美味しい、生命の源を注がれているような感覚に、エリアスの喉が鳴る。
「ん、ぁ、ちゅ……は、ッ」
互いの舌を舐め合い、吸い合うような濃厚なキスになり、飲み干せなかった唾液がエリアスの口角から溢れ、顎を伝って、白い包帯が巻かれた首筋へと垂れていく。
けれど、そんなことなど構っていられない。
エリアスはヴォルフの首に両腕を回してしがみつき、もっと、と身を乗り出してさらなる愛撫をおねだりした。
薬品と消毒液の匂いが漂う、無機質な病室。
そんな場所で、ただ触れ合うだけのキスではなく、クチュクチュと卑猥な水音を立てて激しく求め合う背徳的な状況に、エリアスの脳髄は興奮で痺れていた。
何よりも、久しぶりのキスだ。
そして、二度と会えないかもしれなかった、愛する人とのキスだ。
死の淵から生還した生存本能が、互いの存在を貪るように求めさせる。
それに酔いしれるのは、あまりに当然のことだった。
二人はそのまま、時間を忘れて、息継ぎの間も惜しむように夢中でキスを続けた。
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