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第3章
理性の証
しおりを挟む互いの息も絶え絶えになるほど、時間を忘れて貪るようにキスをし続けていた二人がようやく唇を離した時、窓の外はすでに薄暗くなり始めていた。
「はぁ、ぅ……」
張り詰めていた糸が切れたのか、エリアスはぐったりと力なく背中を丸めた。
ヴォルフは慌ててその身体を支え、胸に抱き留める。
「すまない、少し長すぎたか……?」
ヴォルフが心配そうに覗き込むと、エリアスはヴォルフの胸に頬を寄せたまま、ふにゃりと幸せそうに笑った。
「……すごく、気持ちよかったです」
その蕩けたような笑顔に、ヴォルフの胸が温かくなる。
ヴォルフは愛おしげにエリアスの頭を撫でると、優しくベッドに寝かせた。
そして、互いの唾液で濡れてしまった口元や首筋、そして包帯の縁のあたりを、湿らせた布で丁寧に拭ってやり、風邪を引かないようにしっかりと布団をかけ直した。
一通りの世話を終えると、ヴォルフは近くの椅子を引き寄せて座り、エリアスの手をそっと包み込んだ。
「眠るまで、こうしていてあげる。……疲れただろうから、しっかりおやすみ」
「……はい」
エリアスは素直に頷いた。
病み上がりの身体に、あれほどの激しい口づけは相当な負担だったのだろう。エリアスは数回ゆっくりと瞬きをしたかと思うと、すぐに深い眠りへと落ちていった。
規則正しい寝息を確認し、ヴォルフはエリアスの唇に指先で触れた。
夢中になりすぎて貪りすぎたせいで、その唇は赤く、少し腫れているように見える。
自分の唇も、おそらく同じようになっているのだろう。
(……また、無理をさせてしまったな)
怪我人相手に何をしているんだと、ヴォルフの中に小さな自己嫌悪が湧き上がる。
だが、その反省も、きっとエリアスは許さないだろう。
かつてヒート期間中、フェロモンに当てられて理性を失い、エリアスの身体を気遣えずに獣のように貪り尽くしてしまった時も。
我に返って落ち込むヴォルフに対し、エリアスは毅然として「これは二人の行為の結果だ」と断言した。
その上で、ヴォルフになら何をされてもいい、すべて受け入れると微笑んだのだ。
(……その気持ちに甘えてばかりではいけないが、私が勝手に反省して落ち込むのも、エリアスは望まないな)
二人が求め合い、愛し合った結果なのだ。エリアスならきっとそう言うだろう。
だから、ヴォルフもそう思うことにした。
それに、本当に理性がなければ、今頃は怪我人であるエリアスを裸に剥き、無理やりにでも最後まで貪っていたはずだ。
キスだけで踏みとどまり、こうして寝かしつけることができたのは、理性が欲望に打ち勝った証拠だと思えばいい。
「……おやすみ、エリアス」
静かな病室に響く、エリアスの穏やかな寝息。
それを子守唄のように聞いているうちに、ヴォルフもまた、急激な眠気に襲われた。
仕事の疲れと、エリアスとの濃密な時間による心地よい疲労だ。
ヴォルフはエリアスの手を布団の中に入れてやると、自身も隣に設置された簡易ベッドへと潜り込んだ。
枕に頭を沈め、すぐそばで眠るエリアスの寝顔を見つめる。
生きて、そばにいてくれる。
その幸福を噛み締めながら、ヴォルフもまた深い夢の中へと落ちていった。
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