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第3章
揺れる密室
誓いのキスを終えた後も、二人は離れがたい気持ちで、互いの額を合わせたまま、しばらくその場で見つめ合っていた。
言葉はなくとも、通じ合う体温だけで十分だった。
やがてヴォルフが優しくエリアスを抱き上げる。
名残惜しさを噛み締めるようなゆっくりとした足取りで馬車へと戻ると、二人は行きよりもさらに密着し、身体の隙間を埋めるように寄り添って座った。
馬車が動き出す。
エリアスもまた、ヴォルフから片時も離れたくないという想いが溢れ、その逞しい腕にピッタリとしがみついた。
(このまま、屋敷に着くまでこうしていよう……)
そう思って目を閉じた時、そっと横からヴォルフの手が伸びてきた。
「……ん?」
ヴォルフの長い指がエリアスの顎をすくい上げ、上向かせる。
そのまま、角度を変えて再び唇が重ねられた。
教会であれほど愛を確かめ合ったのに、まだ足りない、もっと欲しいと言わんばかりの情熱的なキスだ。
エリアスは驚いたが、すぐに胸が高鳴った。
エリアスだって、もっとキスをしていたかったから。
目を閉じてそれを受け入れると、ヴォルフは待っていましたとばかりに、そっと舌を割り入れてきた。
「ん、ぁ……っ」
クチュ、と互いの唾液が混ざり合う水音が、狭い馬車の中に響く。
先ほどまでの神聖な誓いとはまた違う、本能を刺激する粘着質な音に、エリアスの腰の奥が疼き、興奮で身体が熱くなる。
ガタゴトと馬が歩く蹄の音や、車輪が石畳を転がる音も、今の二人には遠い世界の出来事のようだ。
揺れる密室。
屋敷に着くまでの短い時間だけ、という制限の中で貪り合うキスは、どこか背徳的で、甘美な味がした。
「んぅ……ふ、ぁ……」
夢中で求め合い、どれくらいの時間が経っただろうか。
馬車の速度が緩み、砂利を踏む音がして停止したことで、二人はようやく、名残惜しそうに唇を離した。
荒い息遣いが重なる至近距離。
ヴォルフは、自身の唾液で濡れて艶やかに光るエリアスの唇を、親指の腹で色っぽくなぞった。
「……エリアス」
熱を帯びた声で名前を呼ばれ、もう一度だけ、チュッとついばむようなキスが落とされた。
「……着いたな」
ヴォルフは名残惜しさを断ち切るように微笑むと、エリアスを抱き上げ、馬車の扉を開けて降り立った。
「あっ……」
屋敷の玄関へと続くアプローチを見た瞬間、エリアスは声を上げた。
馬車止めから玄関の扉まで、いつもはない真紅の絨毯が真っ直ぐに敷かれていたのだ。
それはまるで、バージンロードのようだった。
「……使用人たちが、やってくれたんだな」
ヴォルフが優しく言うと、エリアスも「はい……」と潤んだ瞳で頷いた。
二人は穏やかに笑い合い、ヴォルフの腕の中で揺れる水色の衣と、赤い絨毯のコントラストを楽しみながら、愛と祝福に満ちた我が家へとゆっくりと進んでいった。
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