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第3章
甘い宝石
しおりを挟む「エリアス、何か食べたいものはあるか?私が取ってこよう」
ヴォルフはそう言うと、給仕をしようと動いた使用人たちを手で制した。
「皆は座って楽しんでくれ。エリアスの世話は私がするから、全て任せてほしい」
その言葉には、「今日は気を遣わずに楽しんでほしい」という主としての配慮と、「エリアスのことは全て自分一人でやりたい」という独占欲の両方が込められていた。
長年仕えている使用人たちはすぐにそれを察し、「畏まりました」と微笑んで下がり、自分たちの食事を楽しむことに専念してくれた。
ヴォルフが皿に盛ってきてくれたのは、エリアスが事前にリクエストしていた、家庭的で温かみのある料理ばかりだった。
一口サイズのキッシュや、具沢山の煮込み料理など、どれも親しみやすいメニューだが、さすがは料理長が監修しただけあって、味は絶品だった。
「美味しい……」
エリアスが頬を緩めると、ヴォルフも満足そうに頷き、ナプキンでエリアスの口元を優しく拭った。
歓談が盛り上がり、会場が温かい空気に包まれていた頃。
エントランスの方から、アンナが大きなワゴンを引いて広間へと入ってきた。
ワゴンの上には、中身が見えないように大きな箱が被せられている。
「さあ、旦那様、奥様!こちらへご注目ください!」
アンナが二人の元へワゴンを運んでくると、掛け声を合図に、箱を上へと持ち上げた。
「わあ……っ!」
覆いが外され、中身が現れた瞬間、エリアスは目を見張った。
そこには、見上げるほど立派な、五段重ねのウェディングケーキが鎮座していた。
「これは……!」
ヴォルフとのデートで訪れた、あの高級ケーキ店へ特注したものだ。
デザインは全て、使用人たちが二人へのサプライズとして、店と相談してオーダーしてくれたものらしい。
土台の色は、今日のエリアスの衣装と同じ、透き通るような淡い水色で統一されている。
そしてその周りには、まるで本物のレースと見紛うほど繊細な飴細工や砂糖菓子がキラキラと飾り付けられ、照明を浴びて宝石のように輝いていた。
(こんなに大きくて、しかもあの高級店の特注なんて……一体いくらかかるんだろう)
一瞬、下世話な思考が頭をよぎりかけたが、エリアスはすぐにそれを打ち消した。
『金は気にしなくていい』
欲張ってもいい。ヴォルフがそう言ってくれたのだ。今はただ、この美しい贈り物と、皆の気持ちを素直に受け取ろう。
「よいしょ、っと!」
ワゴンから、力自慢の使用人数人がかりで、ケーキを慎重にメインテーブルへと移した。
「エリアス、行こうか」
ヴォルフが手を差し出し、エリアスを優しく支えながら立ち上がらせる。
二人はケーキの前へと進み、アンナから渡された大きな柄のついた入刀用のナイフを手に取った。
「せーの、でいきますよ!」
エリアスがナイフを握り、その上からヴォルフが大きな手を重ねる。
ヴォルフの体温に包まれながら、二人は呼吸を合わせた。
「……せーの」
ナイフが、一番下の段のスポンジへとゆっくり沈んでいく。
「おめでとうございます!!」
カットされた瞬間、広間にいた使用人たちから、ワッと割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
「改めて、おめでとうございます!」
口々に祝福の言葉を投げかけられ、エリアスはヴォルフに寄り添いながら、幸せを噛み締めるように微笑んだ。
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