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第4章
嵐の後の祈り
しおりを挟むエリアスが再び重い瞼を持ち上げ、目を覚ました時、そこは見慣れたいつもの寝室だった。
七日間を過ごした、あの閉ざされたヒート期間専用の部屋ではない。
身体には清潔で肌触りの良い寝巻きが着せられており、肌のベタつきもなく、綺麗に整えられている。
だが、指先一つ動かそうとしても、まるで石になったかのように身体はまともに動かなかった。
ふと横を見ると、全く同じ状況で、ヴォルフが泥のように眠っている。
しばらくその寝顔を見つめていると、ヴォルフの長い睫毛が震え、ゆっくりとアイスブルーの瞳が開かれた。
そして、エリアスと同じように、あまり自由の利かなそうな緩慢な動きでこちらを向き、酷く枯れた声でエリアスを呼んだ。
「……エリアス…………大丈夫か……?」
喉が潰れているかのようなその声に、エリアスはかろうじて、「はい……」とだけ答えることができた。
ヴォルフは辛そうに顔をしかめ、記憶を辿るように説明を始めた。
「……私が先に目覚めた時、部屋も身体も……二人とも、目も当てられないほど壮絶な状況だった。だから、なんとか君の身体だけは蒸しタオルで綺麗にしてから、シーツで包んで隠し……アンナを呼んだんだ」
ヴォルフはそこで一度、息を整えた。
「それから、なんとかアンナと二人で君をここまで運び、着替えさせて…………それから、私もまた気絶してしまったようだ」
(……アンナに)
綺麗にしてもらった後だとしても、あの部屋の空気や惨状をアンナに見られたのか。
エリアスはぼんやりと、羞恥を感じた。けれど思考もまだ鈍く、恥ずかしがる気力さえ湧いてこない。
「……かろうじて私が覚えている範囲では……ヒート期間中、なんとか私の理性が残っている瞬間に、君と自分に水分補給と、ゼリーでの最低限の栄養補給はしたはずだ」
ヴォルフが掠れた声で続ける。
「だが……誘発剤の影響か、君のとんでもないフェロモンにあてられて……私もほとんど記憶がないくらい理性を失って、君を貪ったこと……そして、君にも獣のように貪られたこと……それくらいしか覚えていない」
そう言われると、エリアスもなんとなく記憶の断片が蘇ってきた。
激しいセックスの合間に、ヴォルフが口移しで、甘い何かを必死に飲ませてくれたこと。
ヴォルフの首筋に噛み付き、離さなかったこと。
その他はやはり、靄がかかったようにはっきりとは思い出せない。
部屋の惨状もぼんやりとしか見ていなかったが、ふと「七日間、お互いの排泄はどうしたのか」という現実的な疑問が浮かびかけ――エリアスは即座に思考を遮断した。
あまり考えないほうがいいこともある。なかったことにしよう。
エリアスは動けない身体を引きずるようにして、懸命にヴォルフに身を寄せた。
「……ヴォルフ」
エリアスは自分の下腹部に手を当てた。
「……普段よりも、お腹がなんだか……芯から熱いんです」
誘発剤と、注がれた熱のせいかもしれない。けれど、そこに確かな希望を感じていた。
「……ヴォルフの赤ちゃん、このまま……授かりたい……」
そう呟くと、ヴォルフはエリアスを抱き寄せ、動くのも辛そうな腕を持ち上げて、優しい手つきでエリアスのお腹を撫でてくれた。
「……ああ。私も、心から祈るよ」
ヴォルフの手の温もりが、お腹に伝わる。
「だが、エリアス。……もし、一度で妊娠できなくても、落ち込まないでくれ」
ヴォルフは枯れた声で、けれどエリアスの瞳を見つめてはっきりと言った。
「私と君は、これから一生一緒にいるんだから。……チャンスは、何度でもあるよ」
焦らなくていい。
もし今回が駄目でも、私たちには明日も、明後日も、続く未来があるのだから。
その言葉に含まれた深い愛情と、永遠の約束。
エリアスは嬉しくて、こくりと頷くと、じわりと瞳に涙を滲ませた。
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