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第4章
奇跡の芽吹き
しおりを挟むその日から、エリアスは身体が思うように動かないこともあったが、何より新しい命を授かっているかもしれないという希望があったため、基本的にベッドの上で安静に過ごした。
ヴォルフは仕事があるので、もう一日だけ休息を取ってから、すぐに仕事へと復帰した。
やはりアルファの身体は一般人よりも遥かに頑丈で回復が早いらしく、エリアスよりもずっと早く元通りになり、精力的に動き回っていた。
一方、エリアスは数日が経ってもまだ喉は枯れているし、激しい運動をした後のように身体の節々が痛んだ。
アンナに手伝ってもらって行う湯浴みの時も、あまりに全身の痕跡が酷く、未だに赤みが引かないため、以前アルシードにもらった「傷を消す魔力が込められたジェル」を塗ってもらったほどだ。
「あらあら、旦那様も張り切りすぎです……」
アンナに呆れられながら丁寧に薬を塗ってもらったおかげで、なんとか数日で肌は元の白く綺麗な状態に戻った。
身体が楽な時は、ベッドの上にサイドテーブルを近づけてもらい、エリアスは手紙を書いた。
宛先は、第二の故郷となった街の人々。
弟のヨハンと、祖母のように接してくれたジョセヌ、そして最初に助けてくれた民宿のヘレンへ。
また、情報を繋いでくれたナンキンス夫人と、ジョセヌの息子である執事の方へ。
それぞれに、心からの感謝と、無事にヴォルフと再会し、屋敷へと帰還できたことを報告する手紙を丁寧に認めた。
本当ならナンキンス夫人の屋敷へ直接出向いてお礼を言いたかったが、今の体調では今すぐには行けない。それでも、一刻も早く感謝を伝えたかったのだ。
そうして、手紙を出し、そのまま穏やかに安静に過ごし、ヴォルフの帰りを待つ日々が続いた。
そしてついに、あの激動のヒート期間から一ヶ月が経った頃。
エリアスの身体に、明らかな変化が訪れた。
朝起きると、ヒート期間の高揚した熱とは違う、芯が揺らぐような微熱と、得体の知れない不調を感じた。
「う……っ」
胃のあたりがなんだか気持ち悪かったり、立ち上がろうとすると世界が回るような貧血状態になったりする。
ただ事ではないと察したアンナからの連絡を受け、ヴォルフは重要な会議を中断して仕事を切り上げ、顔色を変えて駆けつけてきた。
「エリアス!」
そして、急いで手配したかかりつけの医師が到着し、診察が始まった。
医師は慎重に、エリアスの脈を取り、触診し、隅々まで診察を行った。
部屋には、緊張した空気が張り詰める。
やがて、医師は聴診器を外し、ゆっくりと振り返った。
その表情は、柔らかく綻んでいた。
「……おめでとうございます、ハルトマン卿、奥様」
医師は、はっきりと告げた。
「ご懐妊でございます」
「…………え」
エリアスとヴォルフは、顔を見合わせ、少しの間、その言葉の意味を理解できずに呆然とした。
時が止まったような静寂の後、じわじわと歓喜が胸の奥から湧き上がってくる。
「……妊娠、して……」
「ああ、エリアス……ッ!」
どちらからともなく涙が溢れ出した。
二人はお互いの名前を呼び合い、強く、壊れ物を扱うように大切に抱きしめ合った。
ヴォルフは震える手でエリアスの背中を撫で、涙声で言った。
「エリアス……ありがとう、ありがとう……」
ヴォルフは身体を離し、エリアスの瞳を見つめた。
「これから、もっと大変なことが待っているだろうが……オメガの出産は命がけだ。……だが、必ず君を支えるよ。何があっても、私が守る」
その力強い言葉に、エリアスは何度も、何度も深く頷いた。
「はい……っ、はい……!」
言葉にならず、エリアスはただ泣き続けた。
絶望の淵から這い上がり、離れ離れになり、それでも愛し合った二人に、ついに奇跡が舞い降りたのだ。
温かな涙が、二人の頬を伝い続けていた。
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◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
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