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第4章
守られる日々
しおりを挟む妊娠したことを知った日から、エリアスは医師の言いつけ通り、さらに安静にして過ごすことにした。
ヴォルフはというと、いつも以上に過保護になっていた。
ちょっとした移動でもすぐに手を貸し、重いものは一切持たせず、少しでもエリアスの顔色が優れないと狼狽える。
どうやら、妊娠した番を外敵やストレスから守り抜きたいという、アルファとしての本能が強く働いている様子だった。
ベッドで過ごす時間が増えたエリアスは、早速、ヨハンとジョセヌに手紙を書いた。
第二の故郷である彼らには、誰よりも早く、家族としてこの喜びを知ってほしかったからだ。
お礼の手紙を送ってから一ヶ月、彼らとは何度か手紙のやり取りをしている。ヨハンの恋の進展や、花屋の様子を知ることは、あまり動き回れない今のエリアスにとって一番の楽しみだった。
また、ナンキンス夫人とも、お礼の手紙以降、頻繁に文通を続けていた。
妊娠のことは安定期に入るまで報告を控えているが、夫人の手紙はいつも賑やかだ。
今何が美味しいとか、社交界で流行っているもの、さらには事業のことや国の動きまで細かく教えてくれるので、寝ていても外の様子が手に取るように分かる。
そしてそれと同時に、ロマンス小説好きのナンキンス夫人からは、毎回根掘り葉掘り、ヴォルフとの甘いエピソードを聞かれていた。
『旦那様との再会の夜は、さぞ激しかったのでしょう?』『最近の愛の言葉は?』
などと、結構突っ込んだことまで答えさせられているので、ヴォルフには絶対にこの手紙は見せられないと、エリアスは密かに冷や汗をかいていた。
そのまま屋敷で安静に過ごし、ヴォルフが「妊婦の身体や赤ちゃんに良い」と調べて用意してくれた食事や飲み物を摂る日々。
また、ずっと寝ていると身体が凝るからと、ヴォルフは仕事で疲れているはずなのに、毎晩甲斐甲斐しくエリアスの肩や足をマッサージしてくれた。
「気持ちいいかい?浮腫みも取れるそうだ」
その大きく温かい手の感触に、エリアスは心身ともに解されていった。
しかし、幸福な日々だけではなかった。
やがて、エリアスに酷い「つわり」が訪れた。
何も食べられないどころか、水さえも受け付けず、少しでも口に含むと全部吐いてしまう。
そんな過酷な期間が数日続いた時は、みるみる衰弱していくエリアスを見て、ヴォルフが顔面蒼白になり、なりふり構わず産科医を至急呼び寄せた。
「先生!エリアスが、水も飲めないんです!どうにかしてください!」
医師による点滴でなんとか水分と栄養を補い、ヴォルフに手を握ってもらいながら、その辛い期間をやり過ごした。
永遠に続くかと思われた苦しみだったが、16週を過ぎた頃。
安定期に入ると同時に、酷いつわりはようやく終わりを迎え、エリアスは久しぶりに食事を美味しいと感じることができた。
体調が安定してからも、ヴォルフは安心するどころか、さらに日に日に過保護になっていった。
「エリアス、階段は危ないから抱っこしよう」
「身体を冷やしてはいけない」
甘やかしすぎな気もするが、エリアスはそれが心地よかった。
アルファが番を守りたいと強く思うのが本能なら、守られたい、委ねたいと思うのがオメガの本能なのかもしれない。
エリアスは、どれだけヴォルフに過保護に守られても、「ありがとう」と微笑んで全て受け入れた。
そんな穏やかで満ち足りた日々は着々と過ぎていき、エリアスのお腹は服の上からでも分かるほど、少しずつ、けれど確実にふっくらと大きくなっていった。
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