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第4章
2つの鼓動
しおりを挟む安定期を過ぎてから、エリアスのお腹は予想以上のスピードで大きくなっていった。
まだそこまで週数が経っていないにもかかわらず、明らかに一人の赤ん坊がいるにしては、ふっくらとしすぎている。
定期検診に訪れた産科医は、大きく膨らんだエリアスのお腹を丁寧に触診し、聴診器を当てて長い時間をかけて音を確認していたが、やがて顔を上げ、静かに告げた。
「……もしかすると、双子かもしれません」
「えっ……?」
エリアスとヴォルフは同時に声を上げ、目を丸くした。
腹部の中を透視して見ることはできないが、医師は触診の感触と、聴診器から聞こえる微かな音の重なり、そして明らかに週数にしては大きいお腹の張り具合を見て、そう判断したのだ。
驚きで言葉を失っている二人に、産科医は真剣な表情で続けた。
「あまり今の時点から不安になってほしくはありませんが……。オメガの出産は、それだけで一般的な女性よりも危険が伴います。それが双子となると、どうしても母体への負担とリスクは高まってしまいます」
「ッ……」
隣に座っていたヴォルフが息を呑む気配がした。
ヴォルフの手が、エリアスの手をきつく握りしめる。その手が微かに震えているのが分かった。
最愛の妻を失うかもしれないという恐怖が、彼を襲っているのだ。
けれど、エリアスは動じなかった。
もう、覚悟はできていたからだ。
それはかつてのような「ヴォルフのために死んでもいい」という悲壮な覚悟ではない。
ヴォルフに告げた通り、「絶対にやり遂げる」という、生への執着に基づいた強い覚悟だ。
お腹の子どものためにも、そして何よりエリアスを愛してくれているヴォルフのためにも、絶対に生きて、元気な赤ちゃんを産む。
エリアスは医師を真っ直ぐに見つめ、凛とした声で言った。
「先生。……覚悟は、出来ています」
「奥様……」
「たとえ双子でも、私の決意は変わりません。この子たちを、必ず無事に産みます」
その迷いのない言葉に、産科医も深く頷いた。
「……分かりました。妊娠、出産は誰にとってもリスクがある命がけの行為です。ですから、お二人とも気負いすぎないでください。そして、私も医師として、母子ともに無事であるよう、必ず全力を尽くすことを誓います」
医師は力強くそう言うと、一礼して静かに部屋を退出していった。
部屋には二人だけが残された。
ヴォルフは、震える手でエリアスの手を握りしめたままだ。
俯いている彼の横顔には、隠しきれない不安と恐怖が滲んでいる。
エリアスは握られた手に力を込め、優しく語りかけた。
「……ヴォルフ。これからも、貴方に怖い思いをさせてしまうでしょう。でも……私を、信じてくれますか?」
ヴォルフが顔を上げ、アイスブルーの瞳で真っ直ぐにエリアスを見つめた。
そこには、恐怖を乗り越えようとする強い意志があった。
「……ああ。情けないところを見せてすまない」
ヴォルフはエリアスの手を両手で包み込み、額に押し当てた。
「私は……君を信じる。君なら、必ずやり遂げる」
「はい。……信じていてください」
そう強く言ってくれた夫に、エリアスは大きく頷いて微笑んだ。
そして、二つの命が宿る大きなお腹を、愛おしそうにゆっくりと撫でた。
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