【完結】獅子は鳥籠を砕く

真大(mahiro)

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第3章

盤上の駒

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「そして、邪魔者であるレオナルドを消した我々は、ルシエル殿下を次の王にすることに決めた。
理由は簡単だ。……ルシエル殿下の方が、操りやすい馬鹿だからだ。
お前もそれは、薄々感じていただろう?この十年間、誰よりも近くにいたのだからな」

 父は、まるで今日の天気の話でもするかのように、国を揺るがす反逆の理由を口にした。

「そうして、ローゼンタール家、ブラント家、そしてルシエル殿下が共謀し……現国王に毒を盛り、意識不明の重体にした。
そして、我々が王として選ばなかった方、賢く優しい第一王子、カイエン殿下にその罪を着せたのだ。
ローゼンタール家もブラント家も、こうして代々『次の王を選んで』家を存続させてきたのだよ」

 ユリウスは吐き気を堪えるようにシーツを握りしめた。
 正義などどこにもない。あるのは醜い保身と権力欲だけだ。

「ルシエル殿下は共謀の条件として、まず何より先に、お前のことを我々に望んだ。
まさかオメガであることを知らないはずなのに、あんなにもお前に執着するとはな……。
我々としては、次期宰相として、無能なルシエル殿下が自滅しないように上手く支えてくれれば、どういう形でも良かったのだが」

 父はそこで、少しだけ忌々しげに顔を歪めた。

「だが、……まさかその『寵愛』のせいで、ルシエル殿下がこの十年間、カイエン殿下を殺させないとは思わなかった。
我々は、さっさと裁判を終わらせて始末するつもりだったんだ。
だが、お前に対してカイエン殿下の命を天秤にかけて支配しているからという理由だけで、その点だけはルシエル殿下は首を縦に振らなかった」

 ユリウスは目を見開いた。
 ルシエルの狂気的な執着が、皮肉にもカイエンの命を繋いでいたというのか。

「自分にとっても、カイエン殿下が死ねば、あとは意識不明の父王が死ぬのを待つだけで自動的に王になれるというのに。
我々の想像以上に、ルシエル殿下はお前に異常に執着し続けたのだ、この十年もの間」

 父はため息をつき、苛立ちを露わにした。

「だが、そんな十年が経った今……まさか、瀕死の状態で国外に捨てたはずのレオナルド・フォン・ブラントが……国外で力をつけ、仲間とともに国として無視できない功績を上げて凱旋するなんて。
……そんなこと、誰が想像できた?」
「…………」
「実の父親にも殺されかけた事実を知った上で、この国に帰ってきた。その理由は明らかだった。
……お前だ、ユリウス」

 父の指が、ユリウスを指す。

「だが、ルシエル殿下の手中、つまりその裏にいる我々国の中枢にいる存在の手の中にお前がいる限り、あいつは何も出来なかった。
もし真実をお前に伝えて動けば、カイエン殿下を守っているとされている王宮の騎士団……つまり自分たちの敵である第二王子派の者たちに、お前もカイエン殿下も殺される可能性があったからだ。
だから、あの男は何もお前に明かせず、ただ静かに『獅子騎士団』として第一王子派を名乗り、国の表からまず国を建て直そうとしたんだ」

 レオナルドの沈黙の理由。
 それは、ユリウスとカイエンを守るための、苦渋の選択だったのだ。

「だが、その間にルシエル殿下はあの男の存在に対する恐怖を高めていった。
それを煽る形で、我々が、ユリウスに知られない形で病死か事故死としてカイエン殿下を暗殺するということを、ルシエル殿下に選ばせたんだ」
「……ッ」
「まあ、その結果それを奴らに嗅ぎつけられたがな。
ルシエル殿下の帰還を早めさせ、カイエン殿下は奪われたが、お前は取り戻せた」

 父は冷酷に笑った。

「このまま、お前とルシエル殿下を結婚させて……我々両家はカイエン殿下と獅子騎士団を、反逆者として完全に亡き者にするつもりだ。
カイエン殿下の無実をまず奴らは晴らすつもりだろうが、そんな証拠はどこにもない。
ルシエル殿下がいる限り、正当性はこちらにある」

 ユリウスは震える唇を開いた。

「ですが…………そうしたら、私がオメガだと公的に知られることに……」

 名門ローゼンタール家の汚点になるはずだ。父がそれを許すはずがない。
 だが、父は平然と答えた。

「ああ、それは懸念点ではあるが……仕方ない。
王の番となる息子の方が、名前としては利用価値がある。
公的には、お前が私とは血の繋がらない養子だと世間に広めるための証拠も、すでに偽造した」
「……養子……?」
「それによって、『ローゼンタール家の血筋』の名誉も守られる。
お前はただの、運良く拾われた美しいオメガだったことになるのだよ」

 ユリウスは絶句した。
 この男は、家名を守るために、息子の存在そのものを改竄し、切り捨てたのだ。

「何も、抜け道はないんだ、ユリウス。
ルシエル殿下の番となり、逃げられないお前が真実を知ったところで、何も出来ない」

 父は勝ち誇ったように、満足そうに言った。
 その顔には、息子を地獄へ突き落とした罪悪感など微塵もなかった。
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