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第3章
止まった時計と動き出す世界
しおりを挟む祈りの時間が続き、ついにあの日――鮮血に染まった結婚式の日から、一ヶ月が経過した。
ユリウスの状態は、全く変わらなかった。
一命を取り留めたとはいえ、意識は戻らず、自発呼吸もままならないため、人工呼吸器の規則的な音が部屋に響くだけだ。
良化も悪化もしない。進退がないまま、ただ無慈悲に時間だけが過ぎていった。
レオナルドはそれでも、毎日欠かさず病室を訪れていた。
当初は憔悴しきって見るに堪えない姿だったが、あまりに酷い状態を見かねた獅子騎士団の団員たちが、「団長が倒れたら、誰がユリウス様を待つのですか」と諭し、無理やり髭を剃らせ、食事や睡眠を取らせた。
おかげで、今のレオナルドは以前のような精悍な外見を取り戻していたが、その瞳の奥には常に深い憂いが宿っていた。
そんな中……ついに、十年もの間意識不明だった国王が崩御した。
国王がこの十年、意識不明のまま耐え続けた事により、黒幕たちは正式に王位を奪うところまでは到達していなかった。
そして、真の王であるカイエンが帰還するを待っていたかのように、その命を終えた。
カイエンは、その事実に涙した。
そして、国中が喪に服す中、厳かに国葬が執り行われ、名実ともにカイエンがその後を継ぎ、新たな王となる準備が動き始めていた。
そして、そのタイミングでカイエンの勅命により、王宮騎士団の内部調査が行われることになった。
中立の立場を絶対とする王宮騎士団が、なぜあれほど簡単にルシエル個人の私兵となり、カイエンやレオナルドに刃を向けたのか。
騎士団長であったブラント卿――レオナルドの父の独断や強権だけでは説明がつかないほど、腐敗が根深かったからだ。
組織全体がどこかで暗躍し、歪められていた可能性が高い。
騎士団長を失い、指揮系統が崩壊して荒れている王宮騎士団の内情を調査し、統括する人間として、レオナルドが派遣されることになった。
ゆくゆくは、調査による粛清と再編を経て、獅子騎士団と王宮騎士団、その両方の騎士団長にレオナルドが就く予定となっている。
ただし、二つの騎士団を統合することはしない。あくまで獅子騎士団は、瀕死のレオナルドを助け、国籍を超えて集まってくれた他国の騎士たちの集まりだ。
彼らの誇りとアイデンティティを守るためにも、既存の組織とごちゃ混ぜにするよりも、独立した精鋭部隊として残した方がいいとレオナルドが判断し、それをカイエンも認めたのだ。
その激務と調査に時間を割いたとしても、レオナルドは一日の終わりに必ず、ユリウスに会いに来た。
夜の病室。
一ヶ月経っても、ぴくりとも動くことのない愛しい人。
蒼白な肌のまま、固く目を閉じたユリウスは、まるで時が止まった眠り姫のようだった。
レオナルドは、冷たくなったその手を両手で包み込み、温めるように擦りながら、優しく語りかけた。
「……ユーリ。今日も、外は騒がしかったよ」
返事はない。それでも、レオナルドは微笑んだ。
焦りはもう、捨てた。
「君が目覚めたい時に、目を開けてくれたらいい。たとえ何年、何十年かかっても……俺は一生、待っている。君を守り続けるから」
それは、嘆願ではなく、揺るぎない決意だった。
「早く目覚めてくれ」と願ったが、今は違う。
彼がどれだけ深い傷を癒やすために眠っていても、その還る場所として自分がここに在り続けること。
それが今の自分にできる唯一の愛だと悟ったからだ。
レオナルドの静かなる誓いは、機械音だけが響く病室に、確かに染み渡った。
深い闇の底にいるユリウスが、意識のないままそれを聞いていたかどうかは、誰にも分からなかった。
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