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1.僕という人間について
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僕の家はその家系がずっと昔まで遡れる、というのが自慢で、他には何もない。確かに家はでかく、骨董品は転がっているが、それに見合うだけの財産はもう父の代にはほとんどなかった。明治の初めに一気に築いた財産はその後恐慌で一気になくなり、高度成長の頃にまた一気に稼いだけれどバブルが弾けた頃にまた一気になくなった。
だから僕が大学を卒業した直後に父の事業を引き継いだ時、真っ先にやったのは不採算事業の清算だった。中小の規模のくせに昔の名残で色んな分野に手を出して、古い人たちとのしがらみのせいで切るに切れなかった事業から撤退したのだ。今でも自分は正しいことをやったと思っている。だけど世の中、正しさだけではやっていけないと、その時は知らなかった。
利益を出せていた部門、将来的に成長できる分野だけを残し、さぁこれから会社を立て直すぞと言う時になって僕は首になった。もう少しだけ詳しく言うと取締役会で今年度の赤字が問題提起され、その責任の所在をはっきりさせるために解任処分となった。清算に伴うリストラ費やらで赤字になるのは当たり前だったが、僕の味方になってくれる人はもう社内にはいなかった。あまりにも色んな事を足早に進めすぎたせいで、みんなが敵になっていたのだ。そのみんなの中には、僕の父も含まれる。自分が手塩にかけて育てた事業を切られたことが、よっぽど気に食わなかったらしい。
僕は勘当同然で家を出ることになった。手持ちは少なく、職はない。今から就職活動をして普通の会社に、という選択肢ももちろんあったが、この件で会社内の人間関係というものにうんざりしていたのもあって、好きな仕事を好きなようにやりたいという気持ちが強かった。
色々考えた末、僕は輸入雑貨の仕事を始めることにした。学生の頃、貧乏旅行でヨーロッパを回った時に一番心惹かれたのは西洋のアンティークで、それを扱える仕事につければとその時漠然と考えていた。幸い、旅行の時に知り合った西洋人の何人かが西洋雑貨の職人だったり、卸売りをしていたりと人脈はあった。それに、事業の清算で交渉という口喧嘩にも自信があった。
初めはECサイトや知り合いのコネで少しずつ商品を売っていった。やがていくつかの古物商と懇意になり、定期的に物を納められるようになると事業も安定してきた。その頃になると僕も一丁前に店がほしいと思うようになった。人通りの多い場所に構える販売店ではなく、多少辺鄙な所にあっても雰囲気があって、来た人が特別な気持ちになるようなそういう店。一種のモデルルームみたいなものだ。もともと薄利多売で儲けられる商売ではないし、一部の金持ちが特別を求めて買う商品だから、そういう世間とは隔離された世界は売る上で有利になるだろうという打算。何より、僕自身が在庫のダンボールで埋まるワンルームから抜け出したがっていた。
そうやって探し出した物件は、僕の条件にある意味この上なく合致していた。大正時代に建てられ、その後バブル期に別荘として何人かの手に渡った後に二十年近く放置されている洋館。広い敷地には芝生の庭も、使用人が住むための離れもあり、多すぎる部屋は在庫置き場としても、僕の生活の部屋としても使える。そして都心から車で約二時間。最寄り駅は歩いていける距離になく、林の中にあるような家だから小鳥のさえずりが聞こえる。家賃も、一人暮らしの家としては高いが、事業所兼販売店兼倉庫として見れば格安と言っていい。大家には改装の許可も出ているため、客間をいじって販売ルームとしても使える。
僕はその家と契約するのと同時に、求人広告を出した。屋敷の片付け、掃除、それに販売ルームのモデリングなど、やることは山積みだった。離れがあるから住込み可としたものの、場所が場所だけに人は来ないだろうと思っていた。
実際、申込みがあったのは如月さんただ一人だけだった。
だから僕が大学を卒業した直後に父の事業を引き継いだ時、真っ先にやったのは不採算事業の清算だった。中小の規模のくせに昔の名残で色んな分野に手を出して、古い人たちとのしがらみのせいで切るに切れなかった事業から撤退したのだ。今でも自分は正しいことをやったと思っている。だけど世の中、正しさだけではやっていけないと、その時は知らなかった。
利益を出せていた部門、将来的に成長できる分野だけを残し、さぁこれから会社を立て直すぞと言う時になって僕は首になった。もう少しだけ詳しく言うと取締役会で今年度の赤字が問題提起され、その責任の所在をはっきりさせるために解任処分となった。清算に伴うリストラ費やらで赤字になるのは当たり前だったが、僕の味方になってくれる人はもう社内にはいなかった。あまりにも色んな事を足早に進めすぎたせいで、みんなが敵になっていたのだ。そのみんなの中には、僕の父も含まれる。自分が手塩にかけて育てた事業を切られたことが、よっぽど気に食わなかったらしい。
僕は勘当同然で家を出ることになった。手持ちは少なく、職はない。今から就職活動をして普通の会社に、という選択肢ももちろんあったが、この件で会社内の人間関係というものにうんざりしていたのもあって、好きな仕事を好きなようにやりたいという気持ちが強かった。
色々考えた末、僕は輸入雑貨の仕事を始めることにした。学生の頃、貧乏旅行でヨーロッパを回った時に一番心惹かれたのは西洋のアンティークで、それを扱える仕事につければとその時漠然と考えていた。幸い、旅行の時に知り合った西洋人の何人かが西洋雑貨の職人だったり、卸売りをしていたりと人脈はあった。それに、事業の清算で交渉という口喧嘩にも自信があった。
初めはECサイトや知り合いのコネで少しずつ商品を売っていった。やがていくつかの古物商と懇意になり、定期的に物を納められるようになると事業も安定してきた。その頃になると僕も一丁前に店がほしいと思うようになった。人通りの多い場所に構える販売店ではなく、多少辺鄙な所にあっても雰囲気があって、来た人が特別な気持ちになるようなそういう店。一種のモデルルームみたいなものだ。もともと薄利多売で儲けられる商売ではないし、一部の金持ちが特別を求めて買う商品だから、そういう世間とは隔離された世界は売る上で有利になるだろうという打算。何より、僕自身が在庫のダンボールで埋まるワンルームから抜け出したがっていた。
そうやって探し出した物件は、僕の条件にある意味この上なく合致していた。大正時代に建てられ、その後バブル期に別荘として何人かの手に渡った後に二十年近く放置されている洋館。広い敷地には芝生の庭も、使用人が住むための離れもあり、多すぎる部屋は在庫置き場としても、僕の生活の部屋としても使える。そして都心から車で約二時間。最寄り駅は歩いていける距離になく、林の中にあるような家だから小鳥のさえずりが聞こえる。家賃も、一人暮らしの家としては高いが、事業所兼販売店兼倉庫として見れば格安と言っていい。大家には改装の許可も出ているため、客間をいじって販売ルームとしても使える。
僕はその家と契約するのと同時に、求人広告を出した。屋敷の片付け、掃除、それに販売ルームのモデリングなど、やることは山積みだった。離れがあるから住込み可としたものの、場所が場所だけに人は来ないだろうと思っていた。
実際、申込みがあったのは如月さんただ一人だけだった。
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