【R18】会社追い出されたから趣味みたいな仕事始めて住込みメイド雇ってみた

スイ

文字の大きさ
3 / 8

2.二人の関係について

しおりを挟む
「以前はどんな仕事を?」



「貸衣装屋の裏方です。結婚式やイベントでドレスを貸す会社で、業務全般をやっていました。事務、接客、衣装のメンテナンスなどです」



 つややかな黒髪は後ろでまとめて肩に垂れている。大きな黒目をほぼ動かすことなく僕に向けていて、話している内にどっちが面接を受けているのかわからなくなる。耐えきれず視線をそらすとワイシャツを盛り上げる大きな胸に、その下に細くくびれた腰や真っ直ぐに伸びる脚に目がいって、結局はまだ片付いていない部屋のダンボールに目を向ける。



「なんで辞めたの? きっと主力だったろうに」



 経営者としての質問、と言うより単に興味だった。如月さんは淡々と、



「あまりに業務が多くなりすぎたことと、昔からの従業員との間に軋轢が生まれたためです。私なりに効率化を図ったことが面白くなかったみたいで」



 目の前にその光景が浮かぶようだった。神がかった手際の良さで業務を片付ける如月さんと、その仕事を一日がかりでやっていた従業員のやるせない顔が。



 僕はにやけた顔を隠すために履歴書に視線を落とす。如月結衣、22歳。短大を出た後にその会社に勤め、つい一週間前に辞めたようだ。証明写真ですら美人というのは反則だと思う。



「ここでの業務はどんなものですか?」



「え?」



 と間抜けな声を上げてしまう。まっすぐな視線とかちあい、



「あ、あぁ、仕事ね仕事。最初は片付けばっかりになると思う。ここに商品を飾ってお客さんに見せられる状態にすることから始めて、後の実務的なところはおいおい、かな」



「商品、とは?」



「見てみる?」



 と僕は立ち上がり、付いてくるように促す。一階の奥の部屋、元は居間として使っていたであろう広い部屋にはダンボールがあちこちに置かれている。僕はその中の一つを開け、金細工が施された置き時計を取り出す。



「こういうアンティーク品。ここには小物ばかりだけど、そのうちソファとかも運び入れるつもりだから。もちろん重いものは業者にやってもらうけど、その時の指示出しは任せるよ」



 彼女は時計を手に取り、じっと見つめた後、ふと視線を僕の後ろに向ける。つられて僕も振り返る。アルミ製の組み立てラックに釣り下がるのはイギリスから取り寄せたドレスだった。



「あぁ、そっか。元衣装屋さんだし、気になるよね」



 ダンボールの合間を歩いてラックに近づく。ハンガーを滑らせ一つ一つを見せながら、



「コイツらはアンティークって言うわけじゃないけどね。作られたのは割と最近。デザインは19世紀のヴィクトリア朝あたりで、今で言うところのロリータ服とかそのあたりの原型、とも言えるのかな。本物はコルセットでギチギチに絞るみたいだけど、今の人たちでも着れるよう、ある程度ゆとりあるデザインだよ。ほらこのドレスとか」



 僕が手にとった青を基調とするドレスをよそに、如月さんは一番端に掛けられていた黒と白のエプロンドレスを手に取る。フリル付きのカチューシャも付いたその服は、典型的なメイド服だ。意外なものに興味を持つんだなと、僕は少し面食らう。だけど何より、さっきまで感情のなかったその目の中に、ほんのかすかなきらめきがあるような気がして、少し嬉しくなった。



「そいつがこの中では一番新しいものだよ。産業革命の頃に流行ったハウスメイドのデザインなんだけど、たぶん日本のアニメとかゲームの影響も受けているっぽくて。悪くいったら少しチープなんだけど、機能性は良くて生地も悪くない。多分、普段着使いしようと思ったらできるくらいの軽さだとおもう」



「普段着」



 と如月さんはポツリとつぶやき、エプロンドレスに手を触れてはその感触を味わっている。僕は冗談で、



「なんだったらこれを制服にしてもいいよ」



 笑いながらいったのに僕を見る如月さんの目はこの上なく真剣だった。



「本当ですか?」



 淡々とした短い問いかけだというのに、僕は気圧されて「も、もちろん」と答える。再びメイド服に目を向けた如月さんの横顔が、その薄いピンク色をした唇が、すっと笑ったような気がした。



「私、ここで働きたいです」



「あ、え、それはもちろん、ありがたいけれど」



「住み込み」 



「え?」



「求人に住み込み可と書いてありましたけれど」

 如月さんはハンガー毎、メイド服を取り上げて胸に抱く。そして再び僕を見て、

「私はどこで暮せばよいのでしょうか?」



 やっぱり面接されているのはこっちだったのかも、と僕は苦笑した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

処理中です...