【R18】会社追い出されたから趣味みたいな仕事始めて住込みメイド雇ってみた

スイ

文字の大きさ
4 / 26

3.これからの住まいについて

しおりを挟む
 実際に如月さんが離れに越してきたのはその二週間後だった。

 荷物はひどく簡素なものだった。手荷物はキャリーケースと小さなリュックサック、送られてきたダンボールはえらく重いのが一つだけ。



「なにか手伝おうか?」



「物だけ運んで頂けたら、それで」



 離れは納屋みたいな建物で、一階はお手洗いと風呂場、それに石畳の倉庫があるけど今は何も置いてなかった。二階への階段は梯子とほとんど変わらないほど急で、登るときは自然と両手が前の段についた。

 僕は運んだダンボールを床に置き、腰に手を当てながら振り返る。



「前見てもらったときよりかは、ましになってると思うんだけど」



 如月さんは何も言わずに部屋の中を見渡す。組み立て式の簡単なベッドに、エアコン、僕が前の家で使っていた小さな冷蔵庫。目につく家具といったらそれだけ。ついこの間急ピッチで業者をいれたおかげで、なんとか人が住める環境には出来たが、最初はかなりひどいもんだった。ホコリや壁の隙間、それに虫。まっくろくろすけが出なかったのは、純粋じゃない僕や業者の目には映らなかっただけなんだろうと思っている。



「他になにか荷物とかは?」



 僕は硝子がはめ込まれた格子窓を開く。眼下には幼稚園のグラウンド程の前庭と本館が見える。如月さんは、備え付けのクローゼットを開けて、



「いえ、これで全部です」



「パソコンとか、テレビとか、あとテーブルとかもいるとは思うんだけど」



「スマホはありますし、それに私は本さえあれば特に退屈はしません。必要なものはまた増やしていきます」



 大きさの割にずいぶん重いダンボールだと思ったら、 本が入っていたのか。



「良かったらこの本出すの手伝おうか?」



「いえそれは」



 早口に言って振り返る。僕とダンボールを交互に見たあと、気まずそうに足元を見て、



「自分でやりますので、どうかお気遣いなく」



 無神経だったか。女性の荷物だし、男には見られたくないものを『本』と誤魔化す事だってあるだろう。



「そっか。また手伝いがあるようだったら、声かけてくれれば」



 如月さんは「はい」と言いキャリーを開け、中の服をしまいこんでいく。出てくるのはカジュアルと呼ぶにもあまりに飾り気のないシンプルな服ばかりだった。

 手持ち無沙汰で声もかけづらく、自然とその簡素な服ばかりに目が行く。そのうち、取り出す服一着一着に今よりもまだ幼い如月さんが見えるような気がした。飾り気がないのはきっと昔からの服を着ているからで、辿れば高校時代の物や、もしかしたら中学時代の物もあるのかもしれない。

 その服を選ぶ時、きっとメイド服を手にとったときの目の輝きは無かったのだろうと思う。



「あの……もし必要な家具とかがあったら揃えるよ」



 少ない洋服をあっという間に仕舞った如月さんが、こちらを振り向いた。僕は言い訳するみたいに、



「いや、仕事の関係上、同業の人から売れ残りを安く仕入れられるし、それにこんな辺鄙なところに来てもらったわけだし。それに服とかも! 衣服専門の人との付き合いは正直無いけど、ちょっとしたビンテージの服ならたまに流れてくるから」



 はいた言葉は嘘ではないが、本当でもなかった。ベッドと小さな冷蔵庫だけの部屋で、ただひたすら本を読み続ける如月さんを美しいと思う半面、恐ろしく、そして悲しいものであるように思えた。こんな場所で雇っておいてなんだけど、できることならこの人には華やかな場所にいてほしかった。



「それは、給料から天引きという事でしょうか」



「いやいやそんな悪どい事は。もちろん、なんでもかんでもって訳にはいかないけど、必要なものは必要だし」



「すぐに辞めてしまうかもしれませんよ?」



「辞めるの?」



 如月さんはクスリと笑った。頬にすっと唇を引き、大きな瞳を柔らかく曲げたその顔を『笑顔』と認識するまで、すこし時間がかかった。一言で言うと、見惚れていた。



「冗談です」



 あ、そうか冗談なのか。と理解する前に、



「もし、わがまま言ってもいいのでしたら、姿見を」



 続けて、



「以前、面接を受けた時に、だいぶ古そうなのが部屋の端に見えたのですが、もし高いものでなかったらそれを頂けたら。もちろん、私のものというわけではなく、この部屋の備品として」



 心当たりがあった。リビングに置いてある黄ばんだクロスを被せた姿見。あれは僕が調達したものでなく、この家に初めから置いてあったものだ。調度品も自由に使って良いと、大家から了解は貰っている。



「あぁ、あれで良ければすぐにでも持ってくるよ」



「私も一緒に行きます。明日からの仕事なので、制服を合わせたかったんです。それも取りに行きたいので」



「制服?」



 また如月さんが笑った。「お忘れですか?」と言って、視線を窓の外に向ける。日の光を真上から受ける本館が目に入った。



「面接の時に許可は頂きましたけど」



 まだラックに下がったままのメイド服が頭に浮かぶ。部屋の準備に気を取られて、運び入れるのを忘れていた。と、同時に本気でそれを着て仕事をするつもりなのだと、嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになる。



「あ、あぁ、じゃあ取りに行こうか」



 如月さんは窓の風景をみたまま頷いた。いつの間にか笑顔はなくなり、いつもの無表情になっていた。きっと日の光に溶けたのだと、そう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...