黒後家蜘蛛の勇者 

山田ジギタリス

文字の大きさ
7 / 8

勇者登場

しおりを挟む
 商業都市までは案外遠い。ここに来るまでは荷馬車に同乗させてもらえたけれど今度は歩くしかない。人里から離れたあたりでリンがびくっとして俺を木陰に引き込む。
「どうした?」
「来る!」
「だれが?」
「しぃ、黙って」
 その頃には俺にも馬が駆ける足音が聞こえた。そのまま通り過ぎるかと思ったら近くなると速度を落とす。俺たちの近くで馬を止めると、三人の騎士のうち一人が騎乗のまま声を掛けてきた。
「リン、探したぞ、そこにいるんだろ。なんで逃げたんだい。レイカも心配しているぞ。さぁ、戻ろう」
「ユウジ!」
 リンが叫ぶとともに水魔法を馬に向かって放つ。
 バシュ!鈍い音がして水は馬に届かず消える。
「無駄だよ、君の魔法は僕には届かない。怒らないから出ておいで」
 そう言われたリンが出ていく。思わず俺も庇うように前に出る。
「おや、まさか男と一緒だったとはね。まさか、リン、君は」
「この男とは何もないわ。私を汚したのはルーズルの代官……」
 すると男から怒気が溢れ出す。俺も立っているのがようやくなくらいの圧だ。
「おまえ、お前が付いていながら、よくもリンを!」
「落ち着いて。平民が貴族に勝てると思う?それにあの男は天罰が下ったわ。私の上で死んだの」
「くそぉ、殺してやる、殺してやる、殺してやる」
 ユウジから出てくる怒気に俺は立てず膝をつく。
「落ち着いてくださいユウジ様」
 ユウジについてきた女騎士がユウジをいさめる。
「まずは国に戻りましょう。いつもでもここにいるとまずいことになりますし、はやく戻らないと姫も心配されていると思いますし」
 その声を聞いてようやく少し落ち着いたようだ。
「あぁ、すまなかったアテナ。俺としたことが」

 アテナという女騎士に詫びるとリンに向かって言う。

「そうだね国に戻ろうね」

 リンにむけた気持ち悪い猫なで声のあと俺の方をみて尊大に言う。

「いろいろ世話になったようだな。それにお前、傭兵か。よし俺の直属部隊に入れてやろう。光栄に思え」

 ここで断ることもできるだろうがそれは死につながるだろう。なによりもリンが心配だ。

「さぁ、おいで、僕の馬に一緒に乗ろう」

 ユウジが手伝ってリンがユウジの前に乗る。
俺は走って行けと言われるかと思ったらもう一人が載せてくれた。

 しばらく行ったところに馬車がまっていて更に二人の騎士がいる。
そのままどうやって国境を超えるのかと思ったらルーズルの街の南の草原に向かう。 

 そこには魔法陣がありその上に順番に乗ると姿が消えていく。俺もその上に乗ると気持ち悪いゆれのあと見たことのない場所に着いた。

 そこでは更に多くの騎士が待っていてそれとは別に白い僧衣を着た女性がいた。
「ユウジ、リン、よかったぁ」
 そういう彼女の笑顔がなんか嘘くさい。とくにリンを見る目が憎しみがこもっている気がする。彼女が聖女のレイカ様のようだ。

そのまま王都に向かった。リンは馬車に。俺は馬を支給され馬で。

 リンと話ができたのは王都に入ってしばらくしてからだ。
おれは言われた通り勇者直属部隊に配属された。ただし直属と言っても騎士たちの下に着く歩兵で、どうみても肉壁だ。

 それでも前よりは扱いがよく王都にいる間は個室ももらえた。個室で寝ていると耳もとに蜘蛛が来た。そういえばこいつ俺に着いたままだったな。
蜘蛛が糸を出すとそれが耳にはりついた。

「聞こえる?」

 久しぶりのリンの声だ。

「あぁ、大丈夫か、あいつ、勇者にひどい事されていないか?」
「大丈夫、レイカも姫もいるからうかつなことできないと思う。それより、ごめんね大変なことに巻き込んで」
「まぁ、こればかりはリンのせいじゃないよ」
「聞いて、あと10日で魔王国に出兵する。あなたは勇者直属部隊を外されて魔王国に直接向かう囮部隊に配属される」

 あぁ、それって死ねってことね。

「そして私も同じ部隊に配属されるわ」

 そこで周りを気にする気配がする。

「私も、姫とレイカからみて邪魔だから囮部隊に配属される。ユウジには安全な場所にいると思わせるみたい。それに獣人国の王女が美人だと吹き込んでるからユウジもそっちに気を取られている」
「にげだせないのか?」
「無理ね、姫の影が付いている、あなたにもね」
「じゃあどうする」
「魔王国に行く前に逃げるか、ごめんなさいあまり思いつかない……、人が来るまたね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...