せめて 抱きしめて

璃鵺〜RIYA〜

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せめて 抱きしめて〜転〜

せめて 抱きしめて〜転〜 7

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「あ・・・はい」

本当は大丈夫じゃないけど、何となくそう答えてしまった。
サラリーマンはボクをじろじろと舐め回すように見て、にっこり笑った。

「綺麗な顔してるね・・・いくら?」
「・・・いくらでも。寝るとこを提供してくれれば、それでいいです」
「わかった。いいよ」

ボクはゆっくり立ち上がった。
ここは、こうして体を売る子が来る道。
過去に何回かこうしてウリをしていたので、お金がなく、家にも帰れないので、仕方なくここにきた。
こういう時、自分の女みたいな顔が役に立つのが嫌になる。

こんな時に、無料(ただ)で泊めてくれるような友達なんか、一人もいない・・・。
犯らせれば泊めてくれるセフレはいるけど、どうせ犯るんなら、お金になったほうがいい。

声をかけたサラリーマンは、別に不細工でもないし、デブでもない。
正直この人ならましだと思った。
サラリーマンがボクの少し前を歩く。
ボクはただ付いて行く。
繁華街を抜けて静かな住宅街に出る。
こっちの方は来たことがないので、ボクははぐれないように追いかけた。

しばらく歩くとサラリーマンは、10階以上はあるマンションに入って行く。エントランスで鍵を開けて中に入る。
そこからエレベーターに乗り、6階で降りた。
その間も一言も話さなかった。

正直その方がありがたい。
名前とか聞いてくるヤツは、犯る気を失う。
一晩だけなんだから、個人的なことを話す意味がない。
うっかり家を知られて、追いかけられても困るし。

家の前で止まって玄関を開ける。
ボクは廊下や向かいのマンションに誰もいないことを確認する。
そして招き入れられるままに、玄関を潜(くぐ)った。
靴を脱いで部屋に入る。

男の一人暮らしにしては、そこそこ片付けられていた。
あんまり汚いと帰りたくなるから助かった。

「そこらへん適当に座って」

そう言われたので、ボクはテーブルの横に座った。
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