括り紮げる

璃鵺〜RIYA〜

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ターミナル駅だけあって人の往来(おうらい)が激しい。
オレと珀英のすぐ脇を人が通り過ぎていく。

オレは手を離すと、ギターを背負い直したりして淋しさを誤魔化して、珀英に笑いかけた。

「気を付けろよ」
「はい・・・緋音さんも体に気をつけて下さいね。ご飯ちゃんと食べて、ちゃんと寝て下さい。あと・・・」
「あ~もう、うるさい!わかってるっての!」

こんな所まで来ても珀英は小姑状態で、うるさいけど、オレの心配してくれているのが嬉しくて、でも恥ずかしい。

オレは顔をしかめた状態で、珀英にうるさいというジェスチャーをする。珀英は苦笑した表情で諦めたように笑うと、

「じゃあ・・・いいアルバム出来るの、楽しみにしてますね」
「あ・・ああ・・・待ってて」
「ええ、待ってます。ずっと」

珀英はそう言って、不意に一歩オレに近づくと、避ける間も無く。

そっと、額(ひたい)にキスをする。
暖かい口唇が額に触れて、ゆっくりと離れる。

「早く帰ってきて」

聞き取れないくらいの小さな、小さな声で珀英が、耳元で囁いた。

そして珀英は荷物をつめたキャリーバックを引きながら、何度もオレを振り返っては手を振って、駅に吸い込まれて行った。

オレは軽く手を振りながら、その後ろ姿を、珀英の何度も振り返ってくれる姿を、揺れる金髪を眺めていた。

帰りたい・・・珀英と一緒にいたい・・・このままずっと珀英と一緒にロンドンで暮らしたい・・・。

そんな欲望が頭をもたげている。でもそんなこと言えなくて。

オレには珀英の後ろ姿を見送ることしかできなかった。



珀英を見送った後、オレは一人ギターを背負ったままスタジオへの道を歩いていた。
太陽が少しずつ落ちていくのが、少しずつ暗くなっていくのを見ながら感じていた。
同時に少しずつ、淋しさが、切なさが蓄積(ちくせき)されていく。

家族連れや、恋人同士がやたらを目についてしまう。
昨日まで全く気にしなかったのに、今は、珀英が帰ってしまった今は、やたらと目についてしまう。

近代的でもあり、歴史的な街でもあるロンドンを一人歩く。
スタジオが近くなる。
またギターと編集の作業に追われる。

疲れて帰っても、珀英はいない。

珀英は、いない。
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