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抱いて ちゃんと 抱いて

抱いて ちゃんと 抱いて 5

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「ただいまー」

オレは大晦日の夕方に、実家の玄関に立っていた。
昨日雪に言われたことを無視して、実家に帰る旨(むね)を伝えて、実際に帰ってきた。
横浜にあるので、いつでも帰ろうと思えば帰れるのに、なかなか帰ってこれずに、実に5年振りとなってしまった。

横浜は東京よりかはいくらか暖かく、刺すような空気が少し和らぐ。海が近いのでかすかに潮の匂いがする。

オレは玄関にスーツケースを置いて、履いているロングブーツを脱ごうとジッパーを下げる。
ごそごそとやっていると、奥のほうから人が出てきてこちらへ向かってきた。

「本当に帰ってきたんだ・・・お帰り」
「昨日電話しただろ。ただいま」
「だってお兄ちゃん、そう言っていっつもドタキャンするから」
「・・・悪かったって」

出てきたのは、妹の弥生(やよい)だった。夕飯の準備をしていたのか、エプロンをしたまま出迎えにきてくれた。
昨日帰省の電話をしたのに来ないと思われていたのはちょっとショックだが、今までを振り返ると仕方ないと反省する。

なんせ、急な打ち合わせだの、先輩の飲み会だので、ドタキャンしてばかりだったからな・・・。

オレはブーツを脱ぐと、スーツケースを持ちあげて、二階にある自分の部屋へと向かう。

懐かしさを感じながらドアを開けると、昼間に掃除してくれたのか、ホコリっぽさは全く感じず、ベットもクローゼットもすぐ使える状態だった。

スーツケースを床の上で広げると、とりあえず生活に必要なものを取り出す。
そろそろ充電しようかと、ケーブルを探すために、学生の時から使っているローテーブルにスマホを置く。
その途端、スマホが震えた。

ビクッと体が震える。

もしかして・・・珀英?!

慌ててスマホを取る。画面をタップする。
何てことない、ただのニュース通知だった。

緊張が解けて、思わず肩を落とす。がっかりしつつも、別れの言葉じゃなかったことに、ほっとしている。
ほっとした直後に、一気にイライラしてきた。

オレは思わずスマホをベットに投げつける。

あの日から、珀英は全然連絡をくれなくなった。
おはようも、お帰りも、お休みも・・・好きだと、愛していると。

毎日毎日毎日毎日毎日毎日送りつけてきたのに・・・うざかった。うるさかった。
でも・・・嬉しかった。心地よかった。

珀英に必要とされていると、愛されていると、実感できた。
毎日言って欲しかった。
毎日抱きしめて欲しかった。
毎日一緒に寝て欲しかった。
毎日キスして欲しかった舐めて欲しかった入れて欲しかった抱いて欲しかった。

毎日、愛して、欲しかった。

声が聞きたい。
顔が見たい。
触れたい。

ただ、それだけだった。

なんで、なんでもっと言い訳しない?
なんでもっとすがりついてこない?
なんでもっと否定しない?
なんで好きなのはオレだけだって言ってくれない?
なんでオレしか抱きたくないって言わない?

なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?

あの日からずーーーっと頭の中で問いかけている。

答えなんか出ないのに、ずっと、ずっと。

心が叫んでいた。
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