普通の会社員の異世界冒険物語〜程々に強いがちやほやされる訳でもなく、悪い奴もそんないない異世界で必死に生きる〜

ときすでにおすし(サビ抜き)

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第1章 カルディアの弟子編

06.カルディアとの突然の別れと旅立ち

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 しばらく修行に明け暮れる日々が続く。

 修行は、午前中はひたすら走り、午後は魔法をひたすら発動させる。
 フラフラになりながら、ぶっ倒れるように寝て朝を迎える。

 もちろん都度、飯はくっている。最近は、俺が走り込みの帰りに魚や木の実をとり、カルディアが森の魔物や動物を狩ってくる分担になっていた。

 着替え問題は、走り込みが終わったら水浴びを兼ねて洗って干して、午後はあの革の鎧と荒い麻ズボンで過ごし、朝方、革の鎧と麻ズボンを洗って干す。
 ちなみに、驚くほどすぐに乾く。半乾きの時は、魔法で熱風を出して乾かす。


 ある日、ランニングから帰ってくると、リュックを背負った直立猫とカルディアが話をしていた。
 久々に、ファンタジーだなって感じる。語尾が気になる。

 そういえば、昨日行商人がくるって言ってな。たぶん、この猫がそうだろう。
 カルディア以外の現地人と会うのは、はじめてだ。緊張しながら挨拶をした。


「はじめまして、カルディアさんに弟子入りしました、タケシと申します。今後ともよろしくお願いします。」

「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。私は、ケットシーのミケと申しまして、行商人をやっております。」

 ニャとは言わないようだ。

「タケシ、服とか見せてもらえ。支払いは魔石だ。これを使え」

 といって、大量の魔石を渡してきた。

「え、いいんですが?ありがとうございます。ミケさん、服とか見せてもらえますか?なければ生地などがあればそちらを見せてください」

「タケシさん、こちらなんてどうでしょうか」


 といいながら、かなりの量の服をだしてくれた、大きいリュックとはいえ、こんなにはいるのだろうか?
 疑問に思っていると、カルディアが教えてくれた。

「ミケが持ってるのは、魔法のリュックだ。見た目よりも多くの物をしまうことができる。ちなみに、私が作った」

「え、すごいじゃないですか!?俺もつくれますか!?」

「これは、単純な魔法じゃ作れない。錬金術という魔術に近いものも使ってるから、たぶんお前には無理だ」

 ショックを受けたが、まぁカルディアに作ってもらえば良いやと気持ちを切り替え服を選ぶ。


 結構な量の買い物となってしまったが、カルディアから受け取った魔石で問題なく決済が完了した。
 そのほかにも、調味料や食料など、生活に必要なものも買った。

 そして、俺の買い物が終わると、カルディアが頼まれていたものができたぞとネックレスのような物をミケに渡し、ミケから金色の硬貨を受け取っていた。
 硬貨があるのか。あとで種類とか教えてもらおう。


 ミケを見送り、大量の服をもっていると、カルディアがリュックを渡してきた。

「タケシ用に、魔法のリュックをつくっておいた。好きに使ってくれ」

「ありがとうございます。代金まで払ってもらった上に、こんな貴重なものまで・・・」

 泣きそうになる俺。

「いつも美味しいご飯つくってくれてるから、そのお礼だ。」


 そう、実は最近、俺が炊事を担当している。
 カルディアの料理は、決して悪くはない。悪くはないが、なんというか素材の味を活かし過ぎているというかそのまま焼いただけというか。
 最初はワイルドな感じがして良かったが、数日続くと・・・やっぱりね。

 調味料は豊富にあった。ソースのような濃い味の調味料もあり、非常に美味しい料理が作れた。
 32で一人暮らししていて、自炊もしてたし、動画サイトなどで魚の捌き方や料理の動画をみて実践していた経験が役に立った。

 荷物をしまい、軽く昼食をたべ、夕食の仕込みをしたら午後の修行を開始する。
 さぁ、頑張ろう。




☆ ☆ ☆

 そして、月日は流れ、地獄のような修行の日々は過ぎ去り、かれこれ――何年たった?
 もう4年ぐらいは軽くたってるはず。

 修行の結果、衝撃的なことがわかった。
 カルディア曰く、俺に魔法の適正はないらしい。

 ただ、体力もついたし精神力もつき、魔法を普通に使う分には問題ないところまで、俺の魔法は研ぎ澄まされてはいる。
 しかし、魔素の集まりが悪いらしく、カルディアのようには、なれないそうだ。といっても、魔素の集まる量が少ないってだけで、時間かけてゆっくり貯めれば、ある程度の大きな魔法も使えるそうだ。
 カルディアは、その時間が命取りになるんだよと真顔で言う。


 そういえば、最初の頃にカルディアが見せてくれた、スイカ大のファイヤーボールも打てるようになった。これだけでも、だいぶ実戦で使える。

 魔法がある程度使えるようになると、通称魔除けの水晶を持たずに森に放り込まれ、魔物に襲われながら実戦を繰り返すという、悪夢のような経験をさせられた。


 そのほかにも、カルディアとカルディアの従属ドラゴンと、何度もじゃれあいという名のシゴキを繰り返されたため、体術もそれなりに身につけた。


 そういえば、カルディア流剣術も教わった。
 内容は、剣を縦と横に振り回すか、突き刺すだけだった。剣の素人の俺でも、彼女に剣の才能はないと思った。
 ただ、もともと身体能力の高いカルディアが、さらに身体能力をあげる補助魔法と重量を操作する魔法を組み合わせているので全ての剣の動作が早く、また一振り一振りが重い。

 これが、カルディア流剣術の奥義なんだろう。本人は気がついてないが。
 ボコボコにされる日々のうちに、魔法を組み合わせた剣術の真似事程度はできるようになった。


 カルディアへの印象も、最初のころの天使から悪魔にかわっている。
 数年一緒に過ごしてわかったが、あの申し訳なさそうな顔は、ぜんぜん申し訳ないと思っていない。
 ただ、眉毛をハの字にしてるだけだ。



 そんなある日、カルディアは突然、武者修行に行くと言い残し旅にでてしまった。
 なんて自由な・・・俺はどうしたらいいんだ。

 見送って小屋に戻ると、剣とマントと硬貨がつまった袋を俺のために用意してくれていた。
 そして、すごくわかりにくい手書きの地図があった。とりあえず、道なりに進み森を抜けると、街が見えるようだ。


 旅人なんだから旅してこいというメモも添えてあった。


 と言うわけで、カルディアがいなくなったことだし、俺も自由に生きるか。
 しかし、結構長い間一緒にいたのに、あいつはあっさり旅に出てしまったのが、すげーショックだった。


 翌日、旅支度を整える。
 ミケから買った服の上に、お世話になっていた革の鎧をつけ、カルディアがくれた剣を腰に差し、マントをはおり、食料ともろもろを詰めたリュックを背負った。


 小屋の鍵は、魔法で閉める。この小屋の周りは結界がはってあって、外敵は侵入しにくく安全な場所となっている。ここにとどまって、暮らしてもいいかもしれない。

 でも、俺はカルディアのメモにあるように、旅がしたくなった。

「では、いってきます。」

 だれもいない、小屋に向かって言う。見送りはいない。

「いってきます」
 水の精霊の岩を思い出して、挨拶する。
 心なしか、岩から出る水の量がいつもよりも少ない気がする。

「さて、この道をまーっすぐいけば、街につくんだったかな。」

 大切な見づらい地図を見ながら、街に向かって歩き出した。
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