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第2章 駆け出し冒険者編

03.良い人

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 草原で、これからどうしたものかと、しばらく座って考えていると、体調がよくなってきたのがわかる。

 俺は、魔素に依存した生活をしていたようだ。体調維持のために意識せず魔素を消費していたのだと思う。修行中は体調を崩すこともなく、寝て起きればすぐに動けたのはそのためか。


 しかし、体術主体の剣術か・・・。
 そもそも俺の体術も、身体強化があって初めて大型のドラゴン(カルディアの従属ドラゴン)にも通用するんだが、それがなければ本当に並みの体術でしかない。
 そんな状態で、冒険者なんてできるのだろうか。

 まぁ、適正試験通ったし、とりあえず、やってみるかぁ。そこまで深く考えず。

 あぁ、魔素いいわぁー。じわーって体のなかに染みていってる気がする。


 しばらく、ぼーっとして、なんの気なしに、探知の魔法をつかってみた。
 やはり探知範囲が狭くなっている。それよりも、近くで誰かが戦闘しているようだ。たぶん冒険者だろう。
 せっかくなので、冒険者がどういうものか見学してみようと思う。というわけで、現場に向かう。

 5分ぐらい離れた場所で、棍棒を持ったゴブリン2体と、剣と盾をもった冒険者の男性と、その後ろに杖をもった女性がいた。危機的な雰囲気ではないので、とりあえずお手並み拝見とする。


 突然、男性が大声をあげ盾を叩いた、その瞬間に、ゴブリン2体が男性にむかって攻撃をはじめた。

 あれは、自分をターゲットにさせる魔法か?ただ、無駄な動きがあるので魔法という感じではないな。
 まさか、スキルってやつか!?それに、男性の後ろにいる女性が、杖を前に出して目をつぶっているのが気になる。

 きっと、彼女も魔素をためているのだろう。しかし、戦闘中にためるのはまずくないか?
 ん?口元が動いている?何か言っているようだ。なにしてるんだ?戦闘指示か?耳をすますと、なにか呪文のような物を唱えている。

 次の瞬間、杖の周りに光り輝く魔法陣が浮かんだ。それと同時に男性が横にとび、女性の杖の先からファイヤーボールが飛び出した。ゴブリン2体に命中し爆発した。なにそのエフェクト、すげえかっこいいんですけど!

 どうやら、今の一撃でゴブリン2体をやっつけたようだ。たった2体に時間かかりすぎる気がするが、連携できていることがすごい。そしてエフェクトがかっこいい。


「よし、順調だな。エリサの魔術はいつ見てもすごいな」
「別に大したことじゃないわ。それよりマーク怪我は?」
「俺は大丈夫だ!どんどん行こう!だが、無茶はするなよ」
「あなたこそ」


 声をかけづらい。結構二人の世界が広がってしまっているので、非常に声かけづらい。
 でもすごい気になる。エリサが使っているイカしたエフェクトのが魔術ってやつなのか?あと、マークのスキルっぽいやつ。あぁ、気になる。声をかけてしまおうか、どうしようか。



 そして、勇気を振り絞り、声をかけようとしたら、すでに離れたところで、また戦闘を初めていた。
 すごい良い連携だよ。あんたら。イチャイチャしやがって・・・とりあえず、帰ろう。
 あとで、ギルドの人に訊いてみよう。特に何事もなく、街につく。入場門で冒険者証を提示して、街に入る。


 とぼとぼと歩きながら、良い匂いにつられて串焼き屋に吸い込まれて行く。

「オススメの串を適当に、あと、ビ、いや、エールをくれ。」

 ほどなくして、大きめの肉が刺さった串が5本ぐらいとエールがきた。ゴクゴク飲み、ガツガツ食う。あぁ、うまいなぁ。こういう日って、日本にいた時とかわらないなぁ。

 そして、宿に帰り、そのまま寝た。


 翌朝、魔素が残っていたのかスッキリ目が覚めた。
 湯をもらい体を洗って、支度を整える。洗濯物を受付に預け、そのまま食堂にむかう。

 今日の朝食は、ハンバーガーのような見ための肉が挟まったパンだ。一口かじると肉汁がでてくる。うまい。味わって食べた。
 あまりに美味かったので、昼用にお弁当をお願いした。そして、ギルドに向かう。

 ギルドにつくと、まぁいつものように柄の悪いのが酒場のテーブルに陣取ってる。
 こいつらは、いつ働いてるんだ?


 目を合わせないように、受付に向かう。いつものお姉さんだ。

「おはようございます、タケシさん。依頼を受けますか?」

「おはようございます。いえ、ちょっと教えていただきたいことがありまして、ガイさんはいますか?」

「ガイさんですか?何か適正試験に問題でもありましたか?」

「いえ、そういうわけではないのですが、疑問がありまして」

「ガイさんなら、闘技場にいるはずですよ。今日も適正試験がありますので」

「ありがとうございます」


 受付から離れ奥の闘技場に向かう。
 今まさに、試験中のようで、剣を持ったガイさんと若い冒険者が対峙している。

 何度かの攻防の末に、冒険者の剣が飛んだ。

「ここまでだな。悪くはない。だが、実戦に出るにはまだまだだ。回避することを覚えろ。生き残ることが一番大切だ。」

 しょぼんとしながら受付に向かう若い冒険者。落ちたのだろうか。

「あ、ガイさん!今お時間よろしいですか!?」

「お前は、タケシだったな。どうした?何か問題でもあったか?」

「いえ、ちょっと教えていただきたいことがありまして」

「わかった、ちょっと待ってろ」


 闘技場の脇にある、ベンチに並んで座る。

「で、なんだ」

「魔術とスキルって、どうやって覚えるんですか!?」

ガイさんは、驚いた顔をしたが、答えてくれた。

「いきなり、随分と私的な質問だな。まぁいい、ちょうど予定が終わったところだ。それに一応、俺は初心者の指南役でもあるんだ。」

そうだったのか。

「先ほどの人ですか?」

「あぁ、そうだ、あいつは、お前と逆で若すぎてな。悪くはないんだが、体が出来上がってないから、実戦にでるとすぐに怪我をするだろう。だから今回は見送った。次ぐらいには登録できるだろう。」


なるほど。やっぱり、ガイさんは良い人だ。間違いない。


「で、魔術とスキルだったな。」

「そうです!」

「まず、魔術っていうのは、魔術師という奴らが使うものだな。魔術の才能がないと使えないそうだ。俺にはその才能はない。」

「杖とか、呪文とか必要なんですか?」

「よく知っているな。杖がないと魔術は使えない。特殊な魔石がはいってるらしい。あと、呪文だが、あれを唱えると、魔石が反応して自分の魔力を魔石が吸って魔術が発動するそうだ。」

「魔法とは違うんですか?」

「魔法と魔術は別だな。普通のやつが使うのが魔法というか生活魔法だな。魔術師が使うのが魔術。まぁでも生活魔法で火をつけるときに火の魔石つかうから、魔法と魔術も魔石を使うってところで根本は同じなのかもなって俺は思うんだ。まぁ、あくまで私見だな。」

「火の魔石?えっ?」

「どした?」

「いえなんでもないです。ガイさんは、生活魔法つかえますか?」

「当たり前だろ?」

 といって、ポケットから小型の石を取り出し指に挟んでいると、火がついた。
 俺は、根本から勘違いをしている気がする。

「例えばですが、もっとこうすごい火がでるような魔法とかってあるんですか?」

「それはもう生活魔法じゃねーな。魔術の領域だな。あぁ、でも馬鹿でかい魔石があったらできるかもな」

「魔石を使わない魔法ってあるんですか?」

「んーん、そうなると、エルフとかが使う精霊魔法とか地力魔法の話だな。でも、そいつらしか使えないものだ。昔は俺たちにも使えたそうだが、それこそ勇者様とかがいた頃だな。今はその魔法を引き継ぐ者はいないらしい」

「そ、そうなんですか」


 魔法は慎重に使った方がいいな。
 よかった、最初の受付の時に、火を出さなくて。
 大騒ぎになっていただろう。

 しかし、なんで俺は魔法が使えるんだ?なぞだな。まあカルディアに弟子入りして修行したからだろうな。きっと。


「後はなんだったか、スキルか。スキルは、気力とか体力を使って使う技だな。訓練を繰り返し身につけられるものもあるが、ある日、突然使えるようになるものもある。そして、生まれつき使えるものもある。」

「そうなんですね、私もスキルを覚えることができますか?」

「ん?お前は何かしらのスキルをもってるだろう?随分と良い動きをしていたからな」

「いえ、それがわからなくて」

「そうか、まぁ意識して、その通りに動いたりすると、それはスキルだな。俺が使っていた突っ込むのもスキルだ。ただ突っ込むだけじゃない、本気になるとすごい速さで突っ込むことができる。」

「すごいスキルじゃないですか!!そんなことを、教えてしまっていいんですか?」

「別に構わない。というよりも、あのスキルは、普通のスキルだぞ?大体の戦闘職の人間が持ってるはずだ。」

「そうなんですね」

「しかし、お前、どんな田舎からきたんだ、むしろ今まで知らないで、よく冒険者になろうとしたな。」

 笑ってごまかした。
 他にも雑談していると、別の適正試験を受ける冒険者候補が訪ねてきて、お開きとなった。
 
 あとで、ガイさんには何か奢ろう。非常に重要な情報が手に入った。


 空いている酒場のテーブル席で、エールを飲みながら、お弁当のパンを食う。酒を頼むなら持ち込みは大丈夫だそうだ。
 お約束のここは俺の席だうんぬんとかのいちゃもんをつけてくるやつはいなかった。そのままのんびりと味わって食べた。


 のんびり食べていると。

「うまそうなもの食ってるな」

 と、突然声をかけられた。
 ついにテンプレ的なイベント発生と思って振り返ると、ガイさんだった。

 ガイさんも、ここで昼を食うようだ。俺のパンが持ち込みだとわかると残念そうだった。今度買ってきてあげよう。

 昼間からエールのむなんて、もうベテラン冒険者だなと笑いながらいう。ガイさんはまだ仕事があるそうで飲まない。
 そして、また雑談を再開した。あと、今後どうやって冒険者を続けようかも相談することができた。


「前も言ったが、お前は目がいいし、体術がいい。剣術に関しては、まったくだめだがな。」

 わかっていたが、剣術を否定されて若干ショックをうける。ガイさん違うんすよ、完成形だと違うんすよ。

「最終的には斥候とかもいいかもしれないな。でも冒険者経験が浅いから今は無理だ。だから当面は、前衛の戦士ポジションで、経験をつむんだな。装備に関しては、そのままでも良いと思うぞ、急所さえ守れれば。いろいろ装備しても動きが悪くなるだろうしな」


 すごくためになります。本当にありがとうございます。

「まぁ、最初は素材収集をこなしてエリアの地形を覚えるんだな。それができたら、そのエリアの討伐依頼をこなすことだ。そして、何をするにも生き抜くことが大切だ。無理はするなよ。そうすりゃ、そのうちEとかDにあがれる。」

 あぁ、ガイさんまじ良い人だ。
 飯を食い終わったガイさんは、じゃあなといって、闘技場の方にいってしまった。酒飲んだら依頼うけるなよと釘をさされた。


 もちろん依頼はうけないけど、明日の為に目星をつけておこう。

 というわけで、依頼ボードの前にたって、依頼を読む。
 薬草採取があった。しかも、街をでてすぐの草原で。これだな。目星がついたので帰ろう。受付のお姉さんに挨拶して帰る。


 夕飯は、串焼き屋で軽くすませて、宿に帰る。今日も1日、何事もなく無事に過ごせた。
 明日からは、本格的に冒険者をやっていこうと思う。できれば、スキルを覚えてみたい。
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