令嬢は狩人を目指す

みけねこ

文字の大きさ
26 / 43
もうひとつの結末へと

26

しおりを挟む
 しばらく歩みを進めていると貴族の避難経路らしく装飾された通路が徐々に薄暗くなっていく。先生が持っているランタンで壁を照らし、ウィルと一緒にマジマジと見ている。
「術式が施されていますね……」
「これもまた複雑な術式だね。これから先何が起こっても何があってもおかしくないよ」
 ふたりの会話が聞こえていたのか、立ち止まっていた王子がこっちを向いて小さく頷く。そして心配気に見上げていたアリスに視線を向けると安心させるように柔らかく微笑んだ。唐突に自然に惚気けるのはやめてもらいたい。ついでに言うとその近くでルクハルトが複雑そうな顔をしているのが視界に入ってくる。突然の月曜のドラマのような展開もやめてもらいたい。
 普段生活をしているとそう思うわないけれど、あの一行の様子を見ているとやはりこの世界は恋愛シミュレーションゲームなのだなと思えてくる。あそこに乱入できる悪役令嬢なんて果たしているのだろうか。悪役なんて立てずとも立派に育んでいっているのだから不必要な演出は避けるべき。
 だなんて前世の制作会社に文句を言いつつ、どんどん薄暗くなっていく通路をランタンの灯りを頼りに進んでいく。気のせいかもしれないけれど空気も淀んできている気がする。あの日、魔物が襲撃してきた空を思い出させるような雰囲気だ。
 時折出てくるガーゴイルを倒しつつ奥にある扉をくぐれば、一際大きい空間へと出た。本来ならば避難していた貴族たちを集めて王族の誰かが指示を出すような場所だ。そんな空間に、禍々しいモヤがひとつの壁となって更に奥にある扉への道を塞いでいる。
「とんでもなく大きな禁術だね」
「……先生」
 視線を合わせ、先生が小さく首を縦に振る。ここから先生の出番だ。
「僕も手伝おう」
 先生とウィルが王子の通り過ぎ前に立ち並ぶ。解術を使うということは、魔法を発動させるということ。
「これから何が来ようとも、ふたりを守るぞ」
 魔法を発動させれば侵入したのがオスクリタに知られてしまい、侵入者排除のために色んな手を尽くしてくるはず。さっきのガーゴイル然り、もしくはまた別のものが襲い掛かって来るかもしれない。けれど禁術を解かなければオスクリタには辿り着けない。
 魔術師のふたりの背中に私が立ち憚り、その私の前に王子とルクハルトが構える。聖女であるアリスに危害を加えさせるわけにはいかないため先生と私の間に移動してもらった。
「――始めます」
 淡い光と共に一斉に聞こえた雄叫びと地鳴り。現れたのはさっきまでの比ではないほどのおびただしい数のガーゴイルと、そしてまさかのゴーレムだ。どちらも本来ならば退路を守るために配置されたはずのもの。
「来るぞ!」
 ルクハルトが飛び出し王子も応戦する。私は弓矢ということもあってまずは飛んでいるガーゴイルを次々に射落としていく。鈍い音を立てながら崩れ落ちるガーゴイルだけれど何度射っても次から次へと湧いて出てくる。まるであの襲撃があったときのよう。今回もあのときと同じように解術している先生を背で守るのね、と一気に三本引き抜いて放った。
「ルクハルト! 決してエリーの元まで奴らを攻めさせるな!」
「わかっている!」
 私がやられたら最後だものね、と思いつつルクハルトの背後に迫ってきていたガーゴイルを射落とす。ハッとして私に振り向いたけれどディランと違って豪快にお礼を言うことはなかった。まぁわかっていたことだけれど、後々軽くお尻に突き刺そうと思いつつふたりのサポートをしながら蹴散らしていく。
「エリーさん!」
 後ろからアリスの悲鳴が聞こえた。後ろを振り向く、ことはせずにダガーを取り出して飛んできたガーゴイルを力任せに破壊する。先生たちが解術を使ったということは私も強化系の魔法を使ってもいいということだ。
「これくらいなら大丈夫よ」
「エリーさん……」
 トゥクンッ……という効果音がどこからともなく聞こえたような気がしたのだけれど。
「え? 一体何さっきのは」
「エリー! また行ったぞ!」
 キョロキョロと音が鳴った場所を探していたけれど、なんだかやや八つ当たりのような声が聞こえて弓矢を構えた。また行ったぞ、じゃなくて来ないようにそっちで対処するんじゃなかったの。
 飛んでいるものは矢で、近付かれたらダガーで。ただルクハルトとは違い強化はしているとはいえゴーレムを一撃で破壊できる力はない。ふたりにはできることならゴーレムを引き寄せてもらい、その間に飛んでいるガーゴイルは私が仕留めるというように動くのが一番の理想だろう。
 王子はともかくルクハルトは騎士なためいち早くそれに気付いてくれた。ゴーレム中心に攻撃してくれるようになり、それによって私もより集中的に飛んでいるものだけを狙って攻撃できるようになる。一度王子からの意味深な視線をもらったけれどこんな状況で不必要な言い争いをすることはない、ルクハルトも私も流石にそれはお互いわかっている。
 どれほど戦っただろうか、後ろからカチカチという音が聞こえて最後にカチンッと一際大きく音が響いた。
「解けました!」
「奥へ進め!」
 通路を塞いでいた禁術が解け先生とウィルは奥にある扉を急いで開ける。後ろからまだガーゴイルとゴーレムが襲いかかってきていたため、私たちも急いで扉をくぐりバタンと急いで閉じる。
「おっとおっと、前からも来ているよ」
「これからも容赦なく襲いかかってくるはずだ。構わず前に向かって走れ」
 後ろから迫ってきていたガーゴイルたちは扉で塞ぐことはできたというのに、目の前にはまた奥から次から次へと溢れてくる。まぁ本拠地に攻め込まれないために色々と配置するのは当たり前のことだけれど。
「なぁに、魔法が使えるようになったのなら僕の出番さ――ロックグレイブ!」
 ウィルが手を掲げたと思った瞬間目の前にいたガーゴイルが一斉に破壊された。ガラガラと崩れ落ち下にはあっという間に瓦礫の山。あまりの迫力につい目を見張り私たちの前にいるウィルの背中に視線を向ける。
「岩は岩で破壊したほうが早いからね」
「まるで水を得た魚ね……」
「元気になりましたね」
 事もなさげにやってみせたウィルはそのまま活き活きと前に進んでは魔法を使って破壊しそして前に進む、ということを繰り返している。さっきまで私たちの後ろでゼェゼェ息切れをしていた人とはまるで別人のよう。魔法が使えなかったことが余程ストレスだったのかと言いたくなるほどの暴れっぷりだ。けれど一応地上に影響が出ないよう配慮もしているようで、使っている魔法はすべてガーゴイルを破壊するものだけだ。この狭い空間で炎を使うこともなければ水を使うこともない。
 そうして道を作ってくれているウィルの後ろに続いていたのだけれど、彼の足がピタッと止まる。道に迷う、なんてことはなさそうなのだけれど。今のところ一本道なのだし。そしたらなんだろう、と首を傾げると彼は苦笑を浮かべて振り返った。
「参った、なまものだ」
「なまもの?」
「一気に燃やすわけにはいかないだろう?」
 指差す方向に目を向けて、ああ、と納得する。
「エリーさん」
「ええ。私たちの出番ね」
「あ、おい! 前に出るな!」
 ルクハルトの忠告を無視してウィルの横を通り過ぎ前に出る。ガーゴイルの次に出てきたものは『核』がはめ込まれている魔物の数々。
「先生、弱点は?」
「右から腹、右足、喉、目、ですね」
 弓矢を構え先生が言っていた弱点の箇所を狙いをつけ、一斉に放つ。
「命中率は下がるけれど、数射てば当たるわよね」
 あらゆる魔物に矢は刺さり、弱点が外れた魔物にはもう一発見舞う。数体そのまま『核』に当たったけれどそれは動くことなく音を立てて倒れた。そしてガーゴイルと同様に次から次へと出てきて恐らくこれもコピーなのだと先生のサポートを受けつつ構わず倒していく。これだけの魔物がいたら当分お肉には困らなさそうなのだけれど。
「エリーさん、食べられませんからね」
「……そうよね」
 コピーは禁術で手が加えられているため口にするわけにはいかない。ただただ襲いかかってくる魔物を倒すだけなんてあの日以来、材料も取れなければお肉にもならない魔物を倒すなんてこれほど無駄な時間はない。
「魔物はあとで処理をする。構わず進め!」
 確かにこれだけの魔物を燃やしていたら吸える空気がなくなってしまう。すべてが終わったあとに処理したほうがいいと王子の言葉に頷き倒れている魔物の隣を走り抜ける。ただ、私はその間魔物に突き刺さった矢を引き抜くけれど。
「私学習したのよ。矢は使い回すわ」
「ケビンさんがいるわけではないですからね」
「そうなのよ」
 これだけの量の魔物を射っていればそのうちまた矢が尽きてしまう。あのときのように矢筒を投げてくれる人がいないのだから使えるものは使わなければ。
 魔物に矢を射って倒したらその魔物から矢を引き抜いてまた次の魔物に放つ。ちょっとグロい気もしないわけでもないけれど数の制限があるのだから仕方がない。そうしながら矢を射っているといつの間にか後ろにいたウィルから「ふむ」だなんて声が聞こえて、あまりの距離の近さに思わず驚いて少しだけ振り返った。
「エリーちゃん、一度矢を射ってみて」
「え? 言われなくても射るけれど……」
 目の前にはまだまだ魔物がいて、いつものように構えてそして放つ。
「インクリースアロー」
 ただ、一本だけだった矢がウィルの声で数本に増えそれが雨のように魔物に降り注いだ。威力もそうだけれど突然増えた矢に驚くなというのは無理な話しだ。ハリネズミのようになったかと思えば数本あった矢はパッと光が散るように消え、残ったのは私が放った一本だけ。
「うんうん、いい感じだ」
「ちょ、ちょっと突然やめてくれる? なんだか衝撃映像だったんだけれど」
「ん? 言ったじゃないか、君を必ず助けるって」
 それは、確かにそう言ってはいたけれど。でもあのセリフといい今のこの状況であればピンチになったときに魔法で助けてくれる、という意味に捉えていたのだけれど。助けるって、そういう助けるではなく「手助け」のほうだったのねと軽く息を吐いた。
 別にいいけれど、ここでのヒロインは聖女であって私ではないのだから。でもあまりにも唐突の衝撃映像だったため後ろでも驚いているし王子はちゃっかりアリスの目を手で覆い隠していた。
「次やるなら一言もらってもいいかしら」
「おっとこれは失礼」
 にこっと笑う顔にこっちの顔が引き攣る。今少しだけドミニクの気持ちがわかったような気がした。
「先生、進みましょ」
「そうですね」
「セイファー、君体力ついたね~。羨ましいよ」
 あなたがなさすぎなのよ、と思ったけれどきっと先生も同じことを思ったはず。お互い顔を見合わせてにこにこ顔のウィルに視線を向け、そしてもう一度目を合わせて走り出した。
 ガーゴイルはウィルが、魔物は私と先生が、そして聖女のお守りは王子とルクハルトがという配役が自然と決まりそのまま奥へと突き進む。進めば進むほど敵の数も増えていったけれど地上に比べて通路が狭いことが幸いした。四方を囲まれることなく前からやってくる敵に対応すればいいのだから。
「あの三人……さっきまでは後ろをゆっくり歩いていたくせに」
「彼らの本領だからな、任せておこう」
「……私も剣か何か学んだほうがいいでしょうか」
「やめておけ」
 後ろから聞こえる会話に聞こえているわよ、と内心思いつつやっぱり一度矢を放っておこうとひっそりと誓った私は最奥だと思われる扉を開け放った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...