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もうひとつの結末へと
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一任された王子、そして恐らくすべてを浄化する力を持っているということで呼ばれた聖女。魔法省でも優秀とされ魔物討伐にも何度も赴いている魔術師に、その魔術師から解術を使うならばこの人物とされた元同僚。そしてそんな人物たちを守る腕利きの騎士。
「……私って物凄く場違いじゃない?」
「私も物凄く場違いです」
「いえ先生は必要な人よ」
指定された場所に迎えば揃っていた人たち。アリスは私に気付いて笑顔で軽く手を振りその隣にいる王子は小さく頷いた。少数精鋭、とは聞いたけどこれではまるで別の物語で言う勇者御一行様に見えないこともない。
「えっと、若い人ばかりですね」
コソコソと耳打ちしてきた先生に確かに私も予想していたよりも若いと頷く。ゲームでは後に大きな反乱を起こすとされているオスクリタ、その存在は国としても脅威的にも関わらず若い王子に一任されたということは彼の実績に関わってくるのだろう。
「ここで王子の力を示しておけば今後の後継者問題がスムーズに進むのよ。権力を握りたがる貴族への牽制ね」
「王族も大変ですね……」
「権力争いはいつだって醜いわ」
貴族はもちろん、時には王族だってそうだ。兄弟が多いと尚更面倒なのだけれどこの国で王子はひとり。だからこそ貴族に取って代わられないように思慮深くならなければならない。けれど幸いにもこの王子は賢く思考も柔軟、庶民への知識は少し乏しいけれどそこは元庶民である聖女がこれから教えていくのだろう。
それよりも、とちらりと視線を向ける。今まで一度も会ったことがない人がいる。騎士としてこの場にいるのだけれど、ドミニクでもなければディランでもない。あのふたりよりも若い彼はこっちを見て僅かに顔を歪ませた。
「王子、なぜ庶民の人間が」
「彼女がディランの言っていた人物だ。エリー、彼はルクハルト・オロバス。今回俺たちに同行する騎士だ」
「まぁ。オロバス様のご子息でございましたか」
「……ああ」
ああ思い出した、ルクハルト・オロバス。恋愛シミュレーションゲームの攻略対象のひとりだ。名高い父の元鍛錬するもいつも父と比べられ寡黙になったクールな騎士。そんな彼の凝りに凝り固まった思考と心を柔らかくしたのがヒロインだ。
ということは、今この場には攻略対象が揃い踏みということになる。流石は恋愛シミュレーションゲーム、もしかしてここはゲームにはなかった別ルートの大事な局面になるのだろうか。しかしこうも揃っていると私と先生のモブ感がより一層強く感じる。いや、下手したら別ルートであれば先生も攻略対象のひとりになっていてもおかしくはない。ということは私は引き立て役か。
別に構いはしないけれど。悪役令嬢となって処刑フラグ一直線よりも遥かにマシだ。
「ではこの六人で進むことにする。念のために最奥の部屋の上にある屋敷の人間たちには避難してもらい、代わりに騎士が配属されている。彼らがあまり活躍しないようにしたいところだが」
地上にいる騎士たちが活躍するということは、それだけ騒ぎが大きくなるということ。被害を最小限に留めるためにこの人数で出来うる限るのことをするしかないということだ。
王子からランタンを受け取り、協力してくれた貴族の屋敷から地下通路へと足を踏み入れる。非常事態のときに使う通路なため定期的に点検はされているようだけれど、オスクリタに貴族が関わっているということになればその点検時に別の手を加えられているかもしれない。
ランタンに火を灯し薄暗く通路を照らす。少し頭上に掲げれば前にいる王子たちが見える。いくつにも複雑に絡み合っている通路を歩いて行くこといなり、場所を知っている王子たちの後ろに続いているのだけれど。
「アリス、足元に気を付けて」
「は、はい」
「何か出てきたらすぐに俺の後ろに隠れろ」
「わかりました」
「……ちょっと、レディはこっちにもいるのだけれど」
流石はヒロインと攻略対象、仲睦まじく前を進んでいる。この中に女性はひとりだけだと思っているのかしら前にいる男ふたりは。
まぁ別にいいけれど、と灯りで照らしつつ少し後ろに視線を向ける。
「先生、大丈夫かしら?」
「はい。私は大丈夫ですが……」
「はぁ、はぁ、僕がっ、大丈夫じゃないね……!」
「……ウィルさん」
先生の隣、この場に呼ばれた魔法省の魔術師が物凄い息切れた状態で歩いている。確かに歩きはしたものの先生だってまだ息切れしていないのに、なぜ彼はもう既にこんなにも疲れているのか。
「ウィルさん、討伐にもよく同行しているんでしょう? そのときはどうしているの」
「はぁ、はぁ、自慢じゃないけど、僕は人より魔力が多くてね、移動も魔法でしているんだ」
「体力よりも魔力のほうがあるんですよ、ウィルは」
「……流石魔法省の人間ね」
変人が多いと聞くけれどそれを目の前で証明されてしまっている。というか、騎士たちが歩いて移動している中彼は風の魔法か何かを使ってスイスイ移動していたということだろうか。普段からそういう魔法の使い方をしていると、いざ魔法が使えない場になったらこうなってしまうわけねと納得する。
「ところで、はぁ、はぁ、お嬢さん。僕はセイファーの友達だけど、もっと気楽に話してもらっても、はぁ、はぁ、構わないよ?」
「え? え、ええ……そう、ね」
「またちょっと心の距離が開いた気がする。僕のことは、ウィルと。僕もエリーちゃんと呼ばせてもらうよ、はぁ、はぁ」
この人オスクリタに辿り着く前に力尽きてしまうのでは。先生がそれとなく支えてあげているけれど相変わらず息切れは激しく、ここで体力を使ってしまわないように黙々と歩いたほうが良さそうなのだけれど。
「もし今、敵が出てきたら、はぁ、守ってもらうと、はぁ、ありがたい」
「先生のついでになってしまうけれど、それでもいいのかしら」
「もちろん! ゥエッホゲホ! いきなり大声はよくないね……」
彼も攻略対象のひとりなのだけれど。恋愛シミュレーションゲームになると何か補正でも付くのだろうか。ともあれ先生の隣にいるのであれば四方八方から攻め込まれない限り大丈夫、とは、思うけれど。いざというときは先生を優先してしまうかもしれないからそこは頑張って逃げてもらうしかない。
そんなウィルに合わせて歩いているため前との距離が徐々に広がっていく。一度王子に声掛けをして進む速度を緩めてはもらったものの、その隣にいる騎士に鋭い目つきで見られ軽く肩を上げた。そんな目で見られてもウィルの体力が突然付くわけでもなければ、きっとアリスだってあまりにも長い距離だと疲労が出てくる可能性もあるのだから多少速度を緩めてもいいだろうに。
「待て」
しばらく歩いていれば前から聞こえた声。持っていたランタンを先生に渡し身構える。重々しく羽ばたく羽根音、魔物とはまた少し違ったそれは一斉にこっちに襲いかかってきた。
「ガーゴイルですね」
「禁術で動かされているね。厄払いのつもりで置かれていたのまさかこんなことに使われるなんて。まったく非道だよ」
前のほうでは王子とルクハルトが対応している。王子は主にアリスを守っているけれどやはりディランの息子と言うべきか、無駄のない動きで次々にガーゴイルを壊していく。ただ力強さがややディランよりは劣るかもしれないけれど、それは熟練度の差だろう。
と、前で頑張って戦っているふたりの様子を眺めていたら数体こっちに飛んできた。先生とウィルは魔法を主に使用するため今の段階ではふたりは戦えない。矢筒から二本引き抜き取りあえず飛んできた二体を射抜く。魔物と違って弱点を狙う必要がなくただ壊すだけのようだから、当てさえすればいい。
「流石エリーちゃん、前に襲撃されたときも思ったけど頼りになるね」
「あらそれはどうも。破片が飛んで来ないように少し下がったほうがいいわ。っと」
もう一体突っ込んできてそれを躱しつつ矢で射抜く。ガシャンッと音を立てて崩れ落ちたけれどそこからまた形成されることはない。しかし地下通路を守るために設置されていたとは言え、飛んできた数が多少多いような気がする。オスクリタが多めに設置したのか、それとも。石同然になったそれを眺めつつ、顔を上げ先生に視線を向ける。
「先生、これってコピーできるのかしら」
「本来ならばできませんが……」
「無機質な物を動かすぐらいの禁術だからね、材料さえあればできないこともないかも」
「……本当に禁術ってなんでもありなのね」
魔法を使うにはその人の才能も必要だしそもそも魔力がなければ使えない。先生が強力な攻撃魔法を使えないように、私が強化系の魔法しか使えないように。けれど禁術は贄さえあればそれを覆して色んな術が使えてしまう。
なぜ反乱を起こそうと企てている組織のほうがチートを扱えるのか、普通のゲームならばバランスが悪くてやりたくないわとひとりごちりつつ前で待っている王子たちの元へ急ぐ。
「大丈夫だったか」
「ええ。こちらに怪我はないわ」
「そうか。これから進むに連れて恐らく敵の出現も多くなる。そっちは任せたぞ」
任せた、とは先生とウィルのことかしら。そっちは戦えない人ひとりにふたりの護衛がついているのにこっちは戦えない人ふたりに対処できる人間がひとりなのだけれど。さっきからバランスの悪さだけが際立ってほんの少し腹が立ってくる。せめて女性ふたりに王子、魔術師のふたりに騎士ひとりでしょうが。
一応、笑顔で承諾しつつ先生とウィルと私で固まる。先行する前の様子は相変わらず男ふたりで聖女に気を遣って歩いている。手元が狂ったと言ってお尻に矢が突き刺さっても仕方のないことよね。
「こうなったら意地でも先生とウィルさんは私が守るわ」
「頼もしい限りだよ。エリーちゃん、魔法が使えるようになったらお礼に君のこと必ず助けるから」
ウィルの言葉にどこか既視感、というか聞き覚えがあるのは当たり前だろう。ゲーム内にヒロインに「君のこと必ず助ける」というセリフがあった。ここでヒロインである聖女ではなく私に言うの? と思わず首を傾げる。
「そういえばウィルさんはアリスさんと仲良くないのかしら?」
好感度がどこまで上がっているのかはわからないけれど、王子とルクハルトはそこそこ好感度が上がっている様子だ。ふたりがあの状態なのだから正規ルートで行ったらウィルもそれなりに上がっているはず。
なのに体力がない、という理由だけでアリスから離れるのだろうか。私はてっきりウィルもアリスについて私と先生がモブ同士仲良く後ろをついていくという形になると思っていたのだけれど。そんな彼は前にいる三人に視線を向け「ああ」と相槌を打った。
「彼女は優しいんだけどね。今この場で魔法を使えない僕を守ってくれるのはエリーちゃんだろうし」
「清々しいまでの開き直りね」
男性が女性に「守ってくれ」だなんてそう簡単に言えないような気がする。やはりこの世界でも女性を守るのは男性、とどことなく決まっている。よって女性騎士が極端に少ないのだ。そんな貴重な女性騎士は男性を苦手としている令嬢についていることが多い。
「それにあのセイファーが女性と暮らしているだなんて最初聞いたとき僕はびっくりしたんだよ! セイファーも研究者だからね、まず寝食忘れて没頭するから規則正しい生活から一番にかけ離れていたんだよ」
「え?」
二年以上も先生と一緒に暮らしているけれど、確かに部屋にこもっているときはあるけれど朝は必ず一緒に畑仕事をしているし食事も三食きっちりと取っている。夜は部屋の明かりが消えているから睡眠も取れているはずだけれど。
「……ウィル、余計なことは言わない」
「一緒に暮らして生活も改善されたようだね。研究一筋だったセイファーを変えたエリーちゃんが一体どういう人なのか、友人として純粋に気になるんだ」
「そ、そうなの」
「ほらウィル。喋ると疲れるよ」
「言葉遣いも気を付けているんだねーセイファー。そうだね、女性には優しくしないと。うんうん」
「ウィル!」
先生はハッとしたあと手で軽く口元を塞いで気まずそうに視線を逸らした。先生が友人と普通に会話していることに私も新鮮さを感じているし、こんな感じなんだと初めて見る姿に楽しくなってくる。きっとこの気持ちはウィルも同じなのだろう。
でも言葉遣いに関しては相手が女性だから、というよりも最初出会ったとき私が令嬢で先生が魔法省の人間というお互い立場があったからきちんと畏まった言い方になっているのだろう。それに慣れてしまっているだけでそこはウィルが想像しているようなことはない。
「おい、無駄話してないでしっかりついてこい」
そんな楽しく会話をしていた中聞こえてきた言葉、前を見てみればさっきよりも吊り上がった目がこっちをジトッと見ている。ともあれ、あれなのよ。
「私は彼と根本的に合わないわ。相性がよくない」
ルクハルトと仲良くお喋りする想像がまったくと言っていいほどできない。彼はまさに社交界でも幾度も目にしてきた固定概念の塊で物事を見てくる人間そのもの。ディランとはわりと仲良くお喋りできるのに不思議なものだ。
「まぁまぁ、彼もエリーちゃんの魅力に気付いたらきっと態度も柔らかくなるさ」
「……どちらかと言うともっと意固地になりそうですが」
「私もそう思う」
仲良くお喋りの想像もそうだけれど態度が柔らかくなる彼もびっくりするほど想像できない。
「……私って物凄く場違いじゃない?」
「私も物凄く場違いです」
「いえ先生は必要な人よ」
指定された場所に迎えば揃っていた人たち。アリスは私に気付いて笑顔で軽く手を振りその隣にいる王子は小さく頷いた。少数精鋭、とは聞いたけどこれではまるで別の物語で言う勇者御一行様に見えないこともない。
「えっと、若い人ばかりですね」
コソコソと耳打ちしてきた先生に確かに私も予想していたよりも若いと頷く。ゲームでは後に大きな反乱を起こすとされているオスクリタ、その存在は国としても脅威的にも関わらず若い王子に一任されたということは彼の実績に関わってくるのだろう。
「ここで王子の力を示しておけば今後の後継者問題がスムーズに進むのよ。権力を握りたがる貴族への牽制ね」
「王族も大変ですね……」
「権力争いはいつだって醜いわ」
貴族はもちろん、時には王族だってそうだ。兄弟が多いと尚更面倒なのだけれどこの国で王子はひとり。だからこそ貴族に取って代わられないように思慮深くならなければならない。けれど幸いにもこの王子は賢く思考も柔軟、庶民への知識は少し乏しいけれどそこは元庶民である聖女がこれから教えていくのだろう。
それよりも、とちらりと視線を向ける。今まで一度も会ったことがない人がいる。騎士としてこの場にいるのだけれど、ドミニクでもなければディランでもない。あのふたりよりも若い彼はこっちを見て僅かに顔を歪ませた。
「王子、なぜ庶民の人間が」
「彼女がディランの言っていた人物だ。エリー、彼はルクハルト・オロバス。今回俺たちに同行する騎士だ」
「まぁ。オロバス様のご子息でございましたか」
「……ああ」
ああ思い出した、ルクハルト・オロバス。恋愛シミュレーションゲームの攻略対象のひとりだ。名高い父の元鍛錬するもいつも父と比べられ寡黙になったクールな騎士。そんな彼の凝りに凝り固まった思考と心を柔らかくしたのがヒロインだ。
ということは、今この場には攻略対象が揃い踏みということになる。流石は恋愛シミュレーションゲーム、もしかしてここはゲームにはなかった別ルートの大事な局面になるのだろうか。しかしこうも揃っていると私と先生のモブ感がより一層強く感じる。いや、下手したら別ルートであれば先生も攻略対象のひとりになっていてもおかしくはない。ということは私は引き立て役か。
別に構いはしないけれど。悪役令嬢となって処刑フラグ一直線よりも遥かにマシだ。
「ではこの六人で進むことにする。念のために最奥の部屋の上にある屋敷の人間たちには避難してもらい、代わりに騎士が配属されている。彼らがあまり活躍しないようにしたいところだが」
地上にいる騎士たちが活躍するということは、それだけ騒ぎが大きくなるということ。被害を最小限に留めるためにこの人数で出来うる限るのことをするしかないということだ。
王子からランタンを受け取り、協力してくれた貴族の屋敷から地下通路へと足を踏み入れる。非常事態のときに使う通路なため定期的に点検はされているようだけれど、オスクリタに貴族が関わっているということになればその点検時に別の手を加えられているかもしれない。
ランタンに火を灯し薄暗く通路を照らす。少し頭上に掲げれば前にいる王子たちが見える。いくつにも複雑に絡み合っている通路を歩いて行くこといなり、場所を知っている王子たちの後ろに続いているのだけれど。
「アリス、足元に気を付けて」
「は、はい」
「何か出てきたらすぐに俺の後ろに隠れろ」
「わかりました」
「……ちょっと、レディはこっちにもいるのだけれど」
流石はヒロインと攻略対象、仲睦まじく前を進んでいる。この中に女性はひとりだけだと思っているのかしら前にいる男ふたりは。
まぁ別にいいけれど、と灯りで照らしつつ少し後ろに視線を向ける。
「先生、大丈夫かしら?」
「はい。私は大丈夫ですが……」
「はぁ、はぁ、僕がっ、大丈夫じゃないね……!」
「……ウィルさん」
先生の隣、この場に呼ばれた魔法省の魔術師が物凄い息切れた状態で歩いている。確かに歩きはしたものの先生だってまだ息切れしていないのに、なぜ彼はもう既にこんなにも疲れているのか。
「ウィルさん、討伐にもよく同行しているんでしょう? そのときはどうしているの」
「はぁ、はぁ、自慢じゃないけど、僕は人より魔力が多くてね、移動も魔法でしているんだ」
「体力よりも魔力のほうがあるんですよ、ウィルは」
「……流石魔法省の人間ね」
変人が多いと聞くけれどそれを目の前で証明されてしまっている。というか、騎士たちが歩いて移動している中彼は風の魔法か何かを使ってスイスイ移動していたということだろうか。普段からそういう魔法の使い方をしていると、いざ魔法が使えない場になったらこうなってしまうわけねと納得する。
「ところで、はぁ、はぁ、お嬢さん。僕はセイファーの友達だけど、もっと気楽に話してもらっても、はぁ、はぁ、構わないよ?」
「え? え、ええ……そう、ね」
「またちょっと心の距離が開いた気がする。僕のことは、ウィルと。僕もエリーちゃんと呼ばせてもらうよ、はぁ、はぁ」
この人オスクリタに辿り着く前に力尽きてしまうのでは。先生がそれとなく支えてあげているけれど相変わらず息切れは激しく、ここで体力を使ってしまわないように黙々と歩いたほうが良さそうなのだけれど。
「もし今、敵が出てきたら、はぁ、守ってもらうと、はぁ、ありがたい」
「先生のついでになってしまうけれど、それでもいいのかしら」
「もちろん! ゥエッホゲホ! いきなり大声はよくないね……」
彼も攻略対象のひとりなのだけれど。恋愛シミュレーションゲームになると何か補正でも付くのだろうか。ともあれ先生の隣にいるのであれば四方八方から攻め込まれない限り大丈夫、とは、思うけれど。いざというときは先生を優先してしまうかもしれないからそこは頑張って逃げてもらうしかない。
そんなウィルに合わせて歩いているため前との距離が徐々に広がっていく。一度王子に声掛けをして進む速度を緩めてはもらったものの、その隣にいる騎士に鋭い目つきで見られ軽く肩を上げた。そんな目で見られてもウィルの体力が突然付くわけでもなければ、きっとアリスだってあまりにも長い距離だと疲労が出てくる可能性もあるのだから多少速度を緩めてもいいだろうに。
「待て」
しばらく歩いていれば前から聞こえた声。持っていたランタンを先生に渡し身構える。重々しく羽ばたく羽根音、魔物とはまた少し違ったそれは一斉にこっちに襲いかかってきた。
「ガーゴイルですね」
「禁術で動かされているね。厄払いのつもりで置かれていたのまさかこんなことに使われるなんて。まったく非道だよ」
前のほうでは王子とルクハルトが対応している。王子は主にアリスを守っているけれどやはりディランの息子と言うべきか、無駄のない動きで次々にガーゴイルを壊していく。ただ力強さがややディランよりは劣るかもしれないけれど、それは熟練度の差だろう。
と、前で頑張って戦っているふたりの様子を眺めていたら数体こっちに飛んできた。先生とウィルは魔法を主に使用するため今の段階ではふたりは戦えない。矢筒から二本引き抜き取りあえず飛んできた二体を射抜く。魔物と違って弱点を狙う必要がなくただ壊すだけのようだから、当てさえすればいい。
「流石エリーちゃん、前に襲撃されたときも思ったけど頼りになるね」
「あらそれはどうも。破片が飛んで来ないように少し下がったほうがいいわ。っと」
もう一体突っ込んできてそれを躱しつつ矢で射抜く。ガシャンッと音を立てて崩れ落ちたけれどそこからまた形成されることはない。しかし地下通路を守るために設置されていたとは言え、飛んできた数が多少多いような気がする。オスクリタが多めに設置したのか、それとも。石同然になったそれを眺めつつ、顔を上げ先生に視線を向ける。
「先生、これってコピーできるのかしら」
「本来ならばできませんが……」
「無機質な物を動かすぐらいの禁術だからね、材料さえあればできないこともないかも」
「……本当に禁術ってなんでもありなのね」
魔法を使うにはその人の才能も必要だしそもそも魔力がなければ使えない。先生が強力な攻撃魔法を使えないように、私が強化系の魔法しか使えないように。けれど禁術は贄さえあればそれを覆して色んな術が使えてしまう。
なぜ反乱を起こそうと企てている組織のほうがチートを扱えるのか、普通のゲームならばバランスが悪くてやりたくないわとひとりごちりつつ前で待っている王子たちの元へ急ぐ。
「大丈夫だったか」
「ええ。こちらに怪我はないわ」
「そうか。これから進むに連れて恐らく敵の出現も多くなる。そっちは任せたぞ」
任せた、とは先生とウィルのことかしら。そっちは戦えない人ひとりにふたりの護衛がついているのにこっちは戦えない人ふたりに対処できる人間がひとりなのだけれど。さっきからバランスの悪さだけが際立ってほんの少し腹が立ってくる。せめて女性ふたりに王子、魔術師のふたりに騎士ひとりでしょうが。
一応、笑顔で承諾しつつ先生とウィルと私で固まる。先行する前の様子は相変わらず男ふたりで聖女に気を遣って歩いている。手元が狂ったと言ってお尻に矢が突き刺さっても仕方のないことよね。
「こうなったら意地でも先生とウィルさんは私が守るわ」
「頼もしい限りだよ。エリーちゃん、魔法が使えるようになったらお礼に君のこと必ず助けるから」
ウィルの言葉にどこか既視感、というか聞き覚えがあるのは当たり前だろう。ゲーム内にヒロインに「君のこと必ず助ける」というセリフがあった。ここでヒロインである聖女ではなく私に言うの? と思わず首を傾げる。
「そういえばウィルさんはアリスさんと仲良くないのかしら?」
好感度がどこまで上がっているのかはわからないけれど、王子とルクハルトはそこそこ好感度が上がっている様子だ。ふたりがあの状態なのだから正規ルートで行ったらウィルもそれなりに上がっているはず。
なのに体力がない、という理由だけでアリスから離れるのだろうか。私はてっきりウィルもアリスについて私と先生がモブ同士仲良く後ろをついていくという形になると思っていたのだけれど。そんな彼は前にいる三人に視線を向け「ああ」と相槌を打った。
「彼女は優しいんだけどね。今この場で魔法を使えない僕を守ってくれるのはエリーちゃんだろうし」
「清々しいまでの開き直りね」
男性が女性に「守ってくれ」だなんてそう簡単に言えないような気がする。やはりこの世界でも女性を守るのは男性、とどことなく決まっている。よって女性騎士が極端に少ないのだ。そんな貴重な女性騎士は男性を苦手としている令嬢についていることが多い。
「それにあのセイファーが女性と暮らしているだなんて最初聞いたとき僕はびっくりしたんだよ! セイファーも研究者だからね、まず寝食忘れて没頭するから規則正しい生活から一番にかけ離れていたんだよ」
「え?」
二年以上も先生と一緒に暮らしているけれど、確かに部屋にこもっているときはあるけれど朝は必ず一緒に畑仕事をしているし食事も三食きっちりと取っている。夜は部屋の明かりが消えているから睡眠も取れているはずだけれど。
「……ウィル、余計なことは言わない」
「一緒に暮らして生活も改善されたようだね。研究一筋だったセイファーを変えたエリーちゃんが一体どういう人なのか、友人として純粋に気になるんだ」
「そ、そうなの」
「ほらウィル。喋ると疲れるよ」
「言葉遣いも気を付けているんだねーセイファー。そうだね、女性には優しくしないと。うんうん」
「ウィル!」
先生はハッとしたあと手で軽く口元を塞いで気まずそうに視線を逸らした。先生が友人と普通に会話していることに私も新鮮さを感じているし、こんな感じなんだと初めて見る姿に楽しくなってくる。きっとこの気持ちはウィルも同じなのだろう。
でも言葉遣いに関しては相手が女性だから、というよりも最初出会ったとき私が令嬢で先生が魔法省の人間というお互い立場があったからきちんと畏まった言い方になっているのだろう。それに慣れてしまっているだけでそこはウィルが想像しているようなことはない。
「おい、無駄話してないでしっかりついてこい」
そんな楽しく会話をしていた中聞こえてきた言葉、前を見てみればさっきよりも吊り上がった目がこっちをジトッと見ている。ともあれ、あれなのよ。
「私は彼と根本的に合わないわ。相性がよくない」
ルクハルトと仲良くお喋りする想像がまったくと言っていいほどできない。彼はまさに社交界でも幾度も目にしてきた固定概念の塊で物事を見てくる人間そのもの。ディランとはわりと仲良くお喋りできるのに不思議なものだ。
「まぁまぁ、彼もエリーちゃんの魅力に気付いたらきっと態度も柔らかくなるさ」
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