勇者と魔王は人生を謳歌する

みけねこ

文字の大きさ
17 / 21

17.暴走

しおりを挟む
「ヒィッ! う、うわぁっ! や、やめろぉッ!」
 大砲へと姿を変えた武器は勝手に魔法を練り上げ発動しようとしている。使っている当人の思考などそっちのけだ。しかも王子自身の意識はまだ残っている。好き勝手に使われる自分の身体とマナと魔力、それがどんどん消費されていくのを感じているのだろう。
「魔王」
 いつの間にか傍に来ていた勇者が俺の傍で膝をつく。勇者は俺の身体全体にサッと視線を走らせ最後に脇腹に留まった。
「油断しちゃったよ」
「あの剣ならしょうがないよ。魔王とのマナの相性が悪いんだから」
「はは、そのとおり」
 だからこその『勇者』なのだろうけれど。脇腹を押さえている俺の手をどけて勇者は自分の手をかざした。回復魔法を使えない俺の代わりに使ってくれるのだろう。
「途中で気持ち悪くなるかも。ほら、相性悪いから」
「治してくれるだけでもありがたいから」
 視線を合わせ、お互い無言で頷く。勇者の手から淡い光が生まれ俺の脇腹へそれが集まっていく。
「っ……!」
 確かに勇者のマナも流れてきて妙な感覚になる。勇者は気持ち悪くなるかもと言っていたけど、これは、あれだ、どちらかというと……あれだ。
 さっきとは違う汗が出てきているような気もするけど。流石に勇者に少し紅潮している顔に気付かれたくないなとちらりと様子を探ってみれば、彼女は俺の治療に専念しているようで俺の様子には気付いていない。よかったと内心ホッとしたけれど、多分俺の身体を支えてくれているバルレは気付いたかもしれない。ちらっと見てみると目が合って「頑張ってください」と生暖かい声援をもらった。
「――よし。魔王、どう?」
「……流石は勇者だね」
 まだ若干の痛みと痕が残っているものの、抉られた肉は元に戻っていて血も止まっている。支えてくれていたバルレに礼を言い立ち上がる。
「ウッ、ァ、ガッ……!」
 とうとう言葉らしい言葉を発することすら難しくなってきたらしい。大砲に集まっていた魔力が一気に開放され、城のあちこちに向かって強力な魔力を放つ。
「ヒーッ?! た、助けてー!」
「嫌ぁああ‼」
「『ルス・シールド』!」
 勇者が王子の後ろに隠れていた人間たちに向かって魔法を放った。悲鳴を上げているだけの人間たちの前に盾が現れ暴走した魔法を防いでいる。
「……助ける必要がある?」
「生き証人だよ、生き証人。あとで目一杯向こうの国に請求するためにね」
「わぁ、なるほどね」
 別に「助けなきゃ!」という気持ちだけで助けたわけじゃなかったようで、思わずにっこにこになってしまう。少なからず勇者も俺と同じ気持ちなのかもと思うと心がふっと軽くなる。
「ミウィちゃん」
「え? 妖精も来てたのかい?」
「来たくて来たんじゃないの! 勇者が心配っ……べ、別にそこまで心配してたわけじゃないけどっ? 怪我とかしたら夢見悪くなるから付いてきただけだけどっ?!」
 勇者のマントの中からひょっこりと姿を現した妖精は顔を赤くしながらそんなことを言っていたけれど、別に心配していなかったらこんな危険なところまで一緒についてきてはいなかっただろう。
 素直じゃないんだなぁ、とそういえば妖精って照れ屋なところがあったなとふと思い出す。彼らは気まぐれだから素直に物事を言うのはわりと少ない。この妖精もまんまそれだ。
「ミウィちゃん、私のマントの中も危ないかもしれないから避難してて」
「この状況で一体どこに避難しろって言うのよぉ?!」
「ほら、ここ」
 と言って勇者がポイッと投げ入れたのは……バルレの懐。流石のバルレも固まった。
「バルレさん強いからそう簡単にやられはしないよ」
「イヤァアアッ! 魔族の懐に入るなんてイヤァアアッ!」
「服の中で圧死させてやろうか」
「どっちにしろ嫌よッ! ちょっと! もっと安全なとこないの?!」
「ない」
 勇者は剣を構え、暴走している王子へ視線を向ける。
「私は今からあれを止めるから」
「っ……! む、無茶しないでよねっ! ――きゃっ?!」
 放たれた魔法が真っ直ぐにこっちに向かってきた。勇者は咄嗟に自分の魔法で跳ね返そうとしたけれど、真っ直ぐに飛んできたはずの魔法が途中でぐにゃりと曲がる。勇者の背後に向かってきたそれを、俺の魔法で打ち消した。
「……『勇者』のマナじゃない」
「そうだね。どちらかというと俺たちのほうに近い」
 リヒトの魂のコピーを使ったと言っていたけれど、マナの質がどんどん歪んできているのを感じる。本当にリヒトのマナだけならばこんなにも禍々しいものではないはずだ。
「やっぱり別の何かがしゃしゃり出てきてる。『勇者なんかより俺の魔力使えよな! 俺のほうがずっと強いんだ!』的な」
「え、具体的なセリフだね」
「なんかそんな感じの魔法じゃなかった?」
「……ははっ、確かに」
 バルレにこの場から離れるように伝え、そして避難している魔物たちにももっと離れるように指示するようにと伝える。
「無理はなさらないように」
「誰にものを言っているんだい? バルレ」
 胸でキャイキャイ騒いでいる妖精を手のひらで押さえつけながら俺に視線を向けるバルレに、にこりと笑みを返す。まさか魔王が自分の部下に心配されるようなことになるなんてね、と内心苦笑しながらもちらりと隣に視線を向ける。向こうも俺の視線に気付いて、しっかりと頷き返してきた。
 俺は魔王だ。もうずっと、数千年も前からこの地位は誰にも奪われてはいない。そして俺の隣にいるのは、そんな魔王と唯一対抗できる人間。
「俺はお前たちの主、『魔王』だ。普通の人間に負けるはずがない」
 一瞬瞠目したバルレはすぐにその表情を緩め、そして一礼して姿を消した。さて、と歩き出したのはほぼ同時。俺も勇者も、暴走しているそれに向き合う。
 俺を最も追い詰めた『勇者』のマナを宿しておきながら、まるで魔族が使うかのような魔法を繰り出してくる。恐らく直撃すればさっきの剣の形状だったときと同じように簡単に致命傷を負わされる。そして勇者も、あの歪なマナを喰らってしまえば無事で済まされない。
「まさか、こうして『勇者』と共闘する日が来るなんて」
「いいじゃん、今はきっとそういう時代なんだよ。楽しそうじゃん?」
 ずっと昔、勇者と対面し殺し合うのが普通だった。それが今では、お互いに背中を合わせている。勇者と戦わなくなって随分時が経つけれどまさかこんなことになるなんて。
 今まで俺と殺し合いをしてきた勇者たちはきっと驚くか失神するだろうなと苦笑する。彼女だけは、喜んでくれるかもしれないけれど。
 大砲にマナが集中する。また次の魔法が来るはずだとお互い自然と身構える。あれはまるで光線のように真っ直ぐ飛ぶけれど、さっきの勇者に向かっていったように途中で大きく曲がることもある。
「どうする? 勇者」
 大砲から目を逸らさずに隣に尋ねてみれば、はっきりとした言葉が返ってきた。
「私は『勇者』だから――勇者らしく接近戦で勝負する」
 なんの怯えも恐れもない声色に、思わず口角が上がる。そうだ、いつの時代だってどの勇者だって、彼らは迷うことなく真っ直ぐに立ち向かってきた。
「わかった、勇者」
 大砲が無数の光線を四方に放出した。勇者は迷うことなく床を蹴り一気に王子との距離を縮める。途中光線が自分に向かってきても魔法でそれを塞ぎ足を止めることはしない。ぐにゃりと曲がり勇者の背中目掛けて放たれた光線には俺の魔法で相殺する。
「ゥ、ガ、ァアッ……」
 ぐりんと白目を向き頭もグラグラと揺れている中、大砲へと形を変え腕に絡みついている武器だけはしっかりと動いている。勇者はまずは切り離そうと絡みついている腕に剣を振り下ろそうとしたけれど――大砲だったものは咄嗟に無数の刃を作り針のように変形した。
「ッ、邪魔!」
「『エタンドル』!」
 剣で振り払われた針は床に落ちることなくそのまま浮遊し、一気に勇者に襲いかかる。その身体に複数の針が刺さる前の俺の魔法で消し去り、勇者は一度飛び退き再び跳躍した。
「『ルス・エクスプロシオン』!」
 勇者は威力の高い上級魔法を至近距離で容赦なく発動したが、同じような規模の魔法が大砲から放たれその場で大爆発を起こした。魔王城がビリビリと震え辺りは衝撃のせいで窓ガラスがほぼすべて割れ飛び散る。それをマントで塞ぎながら視線を急いで上げる。普通の人間ならばあれほどの魔法を至近距離で浴びて無事なわけがない。
「クソッ! 使う魔法も一緒! そりゃそうだあれ『私』の一部使ってんだから!」
 悪態吐きながら煙の中から飛び出してきたのは威勢のいい勇者。恐らく衝撃を喰らう前に自分に防御魔法を使ったのだろう。羽織っていたマントがボロボロになりそれを脱ぎ捨てた彼女はもう一度剣先を向けたまま息を整えている。
「勇者」
 そんな勇者の傍にトン、と移動する。心なしかご立腹な彼女ににこりと笑みを向ける。
「勇者、俺を信じてくれる?」
 一度目を丸くし、そしてすぐに真っ直ぐに見返してくる。彼女は迷うことなく首を縦に振った。
「もちろん」
「ありがとう」
 彼女の肩が俺の身体に軽くトンと当たる。目を合わせて彼女は口角を上げそしてはっきり口にした。
「魔王のどんな魔法だろうと、耐えられる頑丈な身体なんだから」
 だから、と続けられた言葉に。今度は俺が目を丸くする番だった。
「だから、一緒に頑張ろう――シュバルト」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...