krystallos

みけねこ

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ほんの一コマ

楽しい女子会

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「そういえばフレイの出身地ってどこにあるの?」
 今日は宿で二部屋取ることができたから男女に分かれて泊まることになった。せめてもう一部屋空いていればよかったのにってブツブツ言っていたのはカイムで、ウィルもどこか複雑そうな顔をしていた。なんだかクルエルダと同室になるのは大変そう。
 でもフレイが笑顔ですぐに部屋に向かったから、カイムたちにごめんねと思いつつ急いであとを追っかけた。
 そしてすぐにおやすみ、ってわけでもなくて。折角だから女子会をしようっていう話になって、テーブルの前にお菓子と飲み物を置いて二人とお喋りをしていた。最初「女子会」って言われて一体なんだろうって思ったけど、今の時間はすごく楽しい。
 それで色々と喋ってたんだけど、そういえばフレイって海賊だけどどこで生まれたんだろう。もしかして船の中で? っていう疑問が浮かんだ。
「あ~、どうなんだろうね。一応ミストラル国で生まれたらしいんだけど」
「そうなんですね。あっ、これ美味しいです、フレイさん」
「そうだろう~? あたしも最初食べた時美味しい! って思ってさ!」
 フレイが選んだクッキーをティエラが美味しそうにもぐもぐ食べていて、アミィも気になって同じものを口に運ぶ。甘くて美味しい。
「でもあたしの父親はイグニート国出身なんだけどね」
「そうなんですか⁈」
「そうなの⁈」
「そうそう、元はイグニート国で漁師やってたらしいんだよ」
 でもイグニート国は昔も今とあんまり変わらなくて、特に国からの徴収? 国からお金を持っていかれる量が大きくてそのせいですごく生活も大変で。だからフレイのお父さんのそのまたお父さんも漁師さんだったらしいけど、そのお父さんのお父さんが漁師をやめた時にフレイのお父さんはイグニート国から出ることを決めたんだって。
 アミィがあんまり美味しいって思わなかった細長い何かをムシャムシャ食べつつ、多分お酒だと思うんだけどそれを飲んでいるフレイはそう説明してくれた。
「そもそもイグニート国近海って波も大きくて漁に出るのも命がけっていうのに、大漁だったとしてもその分国に持ってかれるんだよ。たまったもんじゃないね」
「フレイさんの船でないと渡れないぐらいでしたからね……とても危険な漁ですね」
「まったくだよ。んで、親父は漁で使ってた小さい船で国から出たらしいんだよね」
「危なくない?」
「普通は危ないよ。ただあたしの親父は腕がいいのさ」
 自慢げに笑ってるフレイは本当にお父さんのことが大好きなんだ。悲しそうな顔を全然しなくて、お酒を飲みつつ思い出話を喋ってくれた。
 小さい船で出港したこと。でも困っている人を放っておけなくて、助けていっていたらなんだか徐々に船員が増えていったこと。すると助けた人の中に偉い人がいて、その人から船をプレゼントされたこと。あまりにも大所帯になったから当時義賊を承認していると聞いたミストラル国に向かうことを決めたこと。フレイが生まれる前のことなのに、フレイの船にいる人たちが教えてくれたのかお喋りしているフレイの言葉はすごくスムーズだった。
「フレイさんのお母様とどこで出会ったんでしょう?」
「ミストラル国だよ。あたしの母親は踊り子だったのさ」
「踊り子?」
「うーん、なんて言えばいいかねぇ」
「ちょ、直接的な言葉は回避してください。アミィちゃんはまだ、あの、年齢がまだ」
「確かにね。そうだねぇ、お酒飲む場所で踊りを披露する人さ」
「へ~? なんだかすごそう!」
「ほっ……」
 なんだかティエラがすごくホッとした顔をしていたけど、どうしたんだろう? って首を傾げつつ楽しげに笑ってるフレイに視線を戻した。
「親父はうちの母親に一目惚れしたらしくてねぇ。それは猛アタックしたそうなんだよ。ちなみにあたしは母親似さ」
「なるほど、踊り子だったお母様に似たのでフレイさんはその……素敵なスタイルで」
「ぼいん」
「どこでそんな単語覚えてきたんだい? まさかカイム?」
「さ、流石にカイムさんがその単語を喋っていた記憶はありませんが……」
「すごく昔に遊んでた子がそう言ってた」
「またマセたガキだね」
 お喋りしながらお菓子を食べていたからテーブルの上にあった食べ物飲み物がどんどん減っていく。フレイは椅子の隣に瓶を置いていて、その中に入ってる液体もものすぐい早さで減っていっていた。
「ティエラの両親はどうなんだい? 馴れ初めを聞いてみたいね」
「そうですね……わたしの父は治癒師だったんですが、そのお手伝いをしていたのが母だったんです」
「へ~、仕事上接する時間も増えて距離も近かったと。そういうことだね?」
「ティエラのお父さんとお母さんすっごく仲よかったよ!」
「なんだか……少し居た堪れない気持ちになりますね」
「親の惚気話を直接聞いたり話したりするとねぇ?」
「そういうものなの?」
 このケーキおいしい、って思いながらもぐもぐ口を動かしつつ二人にこてんと首を傾げる。お父さんとお母さんの仲がいいお話ってすごく嬉しいことだと思うんだけど。アミィの言葉に二人は顔を見合わせて、「あたしは心が汚れちまったみたいだ」なんて言っていた。ティエラもどこか恥ずかしそうにしてる。
「あの……アミィちゃんのご両親のお話も、聞いてみていいですか? 話したくなかったらそれでいいんですが……」
 二人が自分の親の話をしてたから、順番的に次はアミィなんだろうけど。二人がどこか心配そうな顔をしてるのはアミィの過去を知ってるから。あの時あの場所で何があったのか、それを知ってるから心配してる。
 でもアミィは首を横に振った。確かにあのことは悲しいし、今でも思い出すと泣きそうになる。でも。
「いいよ! だって悲しいことばっかりじゃないもん!」
 その言葉に二人はハッとした。そしてすぐに優しい顔になる。
「そうだね。生きてる人間が忘れないようにしなきゃ。そうして思い出して誰かにそのことを伝えたら、記憶の中でもいなくなった人たちはまだ生き続けることができる」
「フレイさん……アミィちゃん……」
「だからアミィちゃんと喋るよ! アミィのお父さんとお母さんはね、幼馴染だったんだって!」
 実験される前のことだから、思い出すのも少し大変だったけど。でもアミィが覚えている二人はいつも優しくて一緒にいて嬉しそうな顔をしていた。悲しいこともあったけど、嬉しいこともあったっていうことをアミィは思い出さなきゃ。
「幼馴染ですか。いいですね、なんだかロマンチックです」
「いいね~、小さい頃からずっと一緒にいるって。ティアラはどうだい? そういう相手いる? 例えばウィルとか」
「な、なんでそこでウィルさんが出てくるんですかっ……それに、ウィルさんと出会ったのは彼がまだ騎士見習いの時で……幼馴染っていうわけではないです」
「フレイはどうなの? カイムと小さい時に会ったの?」
「いや、カイムと初めて会ったのはあたしがお頭になった直後だから、そんな昔ってわけじゃないねぇ。そう考えたら幼馴染っていないかも」
 コップについでいたのに気付けばフレイは瓶からお酒を直接飲んでる。酔っ払わないのかなってちょっと心配になってきたけど、顔がちょこっとだけ赤くなっているだけでいつものフレイとあんまり変わってない。
 でも流石にティエラも心配になってきたのは、近くにあったお水をフレイの前に置いていた。
「アミィちゃんはどうなんですか? いましたか? 幼馴染。さきほどその、とある単語を言っていた子がいたんですよね?」
「うーん、どうなんだろう? えっとね、多分他の子たちとも一緒に遊んでたんだよ。でもお父さんとお母さんみたいに仲良くしてた……ってわけじゃないかな?」
「なんだ、そうなのかい? アミィから初恋の話でも聞けるかと思ったんだけどねぇ」
「アミィ、カイムのこと好きだよ!」
「ではアミィちゃんの初恋はカイムさん、ということになるんでしょうか?」
「いやいやアミィ、早まったらいけないよ。それはあれだよ、卵から孵った雛鳥が最初に見た相手を親と認識しちまうようなもんさ。だからそうじゃないってあたしは思うね」
「フレイさん……大人げないかと」
「べべべ別にそういう意味じゃないからね⁈ あたしはただアミィが心配なだけで!」
「なにが心配なの?」
「色々とだよ!」
 何を言いたいのかわからなくて、困った顔をしていたらフレイはガッて取った瓶を口につけてゴクゴク喉を動かしていた。それを見たティエラが困ったように笑って、瓶がテーブルの上に置かれたのと同時に水の入ったコップを差し出した。
「ああでもアミィ、彼氏ができたんならあたしの前に連れてきな。どんな男かあたしがしーっかりと確認してあげるからさ」
「フレイさん、流石にそれは……確かにアミィちゃんに彼氏ができたとなるとわたしも心配になって相手の身辺調査するかもしれませんが」
「そうだろう⁈ だってこんなに可愛いんだよ⁈ 心配にもなるってもんだ! あたしが認めた男じゃないと嫌だね!」
「アミィちゃん、彼氏ができたらわたしの前にも連れてきてもらえます? わたしもしっかりと確かめたいので」
「え、えぇ……?」
 なんでそんなに二人が必死なのかわかんない。それに彼氏って確か好きな人だよね? アミィが好きなのはカイムなのに、ってもっと困っちゃう。カイムのこと調べるなんて、二人とも今一緒にいるから知ってるはずなのに。
 ズイズイ二人の顔が近付いてきて――フレイのほうはちょっとお酒臭い――どうしようって思っていたら。隣からすっごい声が聞こえてきてびっくりしすぎて目をぱっちり丸くした。
「……」
「……」
「……ま、あたしたちには関係ないさ。こっちは楽しく女子会しようじゃないの」
「触らぬ神に祟りなし、という言葉もあるようですし」
「そうそう」
 すごい声とすごい物音が聞こえてきてるんだけど。二人は様子を見に行くこともなく引き続きお菓子と飲み物を口に運んでる。
 アミィはすっごく心配で大丈夫かな、ってそわそわしてたんだけど。隣からクルエルダの気持ち悪い声が聞こえて行くのをやめた。
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