目撃者、モブ

みけねこ

文字の大きさ
35 / 73
目撃者、モブ

目撃者、男性職員

しおりを挟む
 学園を卒業したあと、とある話題が大きく世間を賑わした。周りは驚く者が多かったけれど、中には納得している者もいた。ということは、その納得していた者たちは前に目撃したことがあるということだ。
 そんな中僕もその納得した側の一人だった。まぁ、一度だけだったけど学園内で見たし。驚くよりも納得よりも、寧ろ王子は頑張ったなぁとどこか感心してしまった。
 だって相手は彼だぞ、彼。王子がいい雰囲気の中キスしようと距離を縮めたところキスだと察せずに「距離が近い」とか言っていたアンポンタンだぞ。よくあのアンポンタンにめげずに口説き落としたものだ。
 とはいえ、あの時点で結構いい感じにはなっていたけど。嫌なら嫌だと拒否しそうなもんだったから、あの時受け入れた時点でこうなっていたのかもしれない。
 そういうことで卒業後、王子は結婚を発表した。

 僕はというと無事に国立図書館に就職することができた。元より本が好きだった僕としては本に囲まれている今の環境は最高だ。あとは生真面目に働こうと、最初は新人なものだから雑務から始まるが腐ることなくやっていっている。
 何より覚えることが多くそれをこなしていくのが楽しい。同期に少し変わっていると言われたことがあるが気にするものか。
「これを元の場所に戻しておいてください」
「わかりました」
 こういう作業も嫌じゃない。寧ろ場所を覚えるのにうってつけだ。ただちょっと腕が細いばかりに持つ量に限りがあるが、それでも言われた場所へと本を運んでいく。
 図書館というだけあってこの場所はどこよりも静かだ。ページがめくられる音やペンが走る音しか聞こえてこない。たまに話し声も聞こえてこないわけでもないが、それも小声で気になるようなものでもない。
「よいしょっと」
 脚立を使って本を戻し、しっかりと場所を覚えて上司の元へと戻る。しばらくこれの繰り返しだ。これで一日が終わることもあるが気にならない。
 きっとこういう毎日を過ごしていくんだなぁ、とかなんとなくしみじみ思ったが決して嫌じゃなかった。何事も平凡が一番。
「悪い、付き合ってもらって」
「いいって」
 そうそう、何事も平凡が一番。なんか普段ここじゃ聞かない声が聞こえてきたなぁとか、学生の時に聞いたことがあるなぁとか。そんなことに気付く必要はないといったらない。まったくない。平凡が一番!
 あぁ! でもなんで僕は進歩しないんだ! どうして好奇心が勝ってしまうんだ! 思わず本棚の影から覗き見しちゃったじゃないか!
「やっぱ俺一人じゃどうしようもなくてさ」
「だろうと思った」
 やっぱり。あの声は間違いなく王子の結婚相手であり、学生の時王子が苦労していた相手その人だ。隣にいるのはよく一緒にいた友人だな。常に成績が上位だったため僕も覚えている。あと僕と同じように眼鏡かけているし。
 今は王子のパートナーとなった男が国立図書館になんの用なんだろうか。正直こう言っては悪いが、彼は勉強のほうは苦手のように感じた。苦手だから、ここに勉強しに来た……というわけだろうか?
「覚えることが多くてさぁ。でもオリバーも知っての通り、俺は覚えるのが苦手だ!」
「勉強に関しては、な。でも大丈夫なのか? 俺もついてきて」
「大丈夫ちゃんと許可もらってきたから。相手がオリバーってことも伝えてる」
「そうしないと俺は逆恨みされるからな」
 ちなみに二人共しっかりと小声で会話をしている。なのになぜ内容が届いているのかというと、僕がしっかり聞き耳を立てているからだ。
 け、決して盗み聞きというわけでは……ただ、好奇心に勝てなかっただけだ……!
 別にいいだろう! だって僕は知っているんだし! というか前に不意打ちでとんでもないものを見せつけられたんだ、このぐらい、ちょっとぐらい聞いたところでバチは当たらない。はず。
 二人はそこそこの本を持ち、というか彼が持っている本は結構重いんだけど普通に持っているな。鍛冶屋の息子だからあれくらい楽勝だとでもいうのか。自分の細い腕が可哀想になってきた。
 いや話が逸れた。二人は本を持って近くにある席に着いて早速ページを開いている。友人のほうが軽くペラペラとめくり、要点をまとめているのか軽く何かを書いている。
「取りあえずこことここと、そうだな、ここも押さえておこう」
「ありがとな、オリバー。本っ当に助かる」
「まぁ一員となったお前も覚えることが多いだろうしな。大変だろうけど、しっかりと頭に叩き込むぞ」
「お、お手柔らかにお願いしますぅ……」
 語尾が弱々しくなったところを見ると、余程覚えることが苦手なんだろう。謎に心の中で「頑張れ」と思いつつ、僕も仕事に戻った。

 それからどれくらい時間が経ったか。特に何か騒動が起こるわけでもなく誰かが騒がしくするわけでもなく。図書館らしい静かな時間が流れていた。僕も仕事に集中していたため彼らがここで勉強していたことをすっかり忘れていた。
 ただ不意に、入り口のほうが騒がしくなる。とはいってもここは国立図書館、騒がしいといっても本当にザワ……程度でみんな自制している。でも何か起こったんだろうということだけはわかり、顔だけを本棚から出した。
 しかし僕は入り口から離れた場所にいたため、顔を出しただけじゃよく見えない。目を凝らしたところで眼鏡があったとしても距離があるためまだよくわからない。
 ただなんというか、なんか……なんかキラキラしてるな? っていうのだけはわかった。キラキラしている何かが移動している、ように見える。
 そしてそのキラキラしているものがとある箇所で止まった。そこでようやく僕はこの図書館に誰がいるのかを思い出した。
「頑張っているな」
「え? なんでここに」
「たまたま近くに用事があったものだからな。ついでに迎えに来た」
 キラキラしている物体が必死に頭に叩き込んでいる人物と会話をしている。その隣に座っていた友人は軽く頭を下げて挨拶をしていた。
 いや、いやいや。本当にたまたま近くに来ていただけなのか? こう言ってはなんだが、ものすっごく溺愛してるっていう噂は庶民の間にも広がっているんだが。
「っていうかいつの間に夕方になってる⁈」
「余程集中していたんだな」
「結構頑張ってましたよ。あとで褒めてあげてください」
「ああ、もちろんそうする」
 いつの間にか図書館で働いている女性が二、三人壁際に集まってキラキラしているところを凝視している。
「まさかこんな間近で見るなんて」
「溺愛してる噂って本当だったんだ」
「王子様ってあんなデレデレな表情するんだ……」
 ここは図書館、静かな場所だ。例え小声だったとしても貴女方の会話は耳に届いてくる。ただ幸いにもあのキラキラしているところまではその声は届いていないようだ。
「ここって何冊か借りていっても大丈夫?」
「ああ、ちゃんと手続きすれば持ち出ししていい。ただちゃんと指定された日時までに返却しなければならないけどな」
「わかった。そしたら数冊借りてくわ。オリバー、どれがいいかな」
「これと……これだな。あんまり多く持っていっても覚えきれないだろ。だから、お前が覚えられる範囲で」
「何から何までマジでありがとな~!」
 感極まったのか、それが普段の距離感なのか。例の彼が両腕を広げて友人に抱きつこうと一歩踏み出した。ところを、キラキラもとい迎えに来た王子が片腕でその動きを制した。
「それじゃ、俺はお先に失礼します」
「ああ。俺からも礼を言う。付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ、親友の頼みなので。これぐらいは」
 おっと「親友」という単語を聞いて王子の笑顔が一瞬だけヒクッと動いた。悔しいのぉ悔しいのぉ親友というポジションに王子がいるわけじゃないから。
 友人である彼は王子に一礼し、友人には軽く手を振って一足先に図書館を後にした。
「俺たちも行こう」
「うん」
「持とうか?」
「いや俺のほうが力あるから大丈夫。ありがとな」
「……そうだな」
 王子のお相手は鍛冶屋の息子だ、腕の力だけはある。二人共しっかりと服を着こなしているが、やっぱり服の上からでも筋肉の違いは見てとれた。王子が軽く自分の腕を見て気にしているが、腕が細い俺にはその気持ちがよくわかる。やっぱないよりはあったほうがいい。
 そして手続きを終え、二人並んで図書館から去っていく。パタン、とドアが閉じるまで誰も彼も二人の様子を凝視していたようで、いなくなった途端どこからともなく息を吐く音が聞こえた。
 中には突然の王子の登場に緊張している者もいただろうし、普通に目の保養だと息をついた者もいたんだろう。
 にしてもあの二人は卒業してからも相変わらずのようだ。王子はやっぱり無自覚の彼に振り回されているんだろうなぁとなんとなく思ってしまった。いやだって、僕は学生の時に一度見ているので。
 取りあえず僕もずっと見てしまっていたわけで。仕事に戻ろう、と持っている本を持ち直して顔を上げた時だった。窓の外に、二人の姿が見えた。
 王子が顔を近付け、持っていた本で隠そうとしている。だがそれは、向こう側から見えないわけであって。こっち側だとまるっと見えているわけで。僕は慌てて辺りを見渡した。どうやら二人に気付いたのは僕だけのようだ。
 二度あることは三度ある、と聞いたことがあるが。一度あったことは二度あるようだ。僕はまた、二人がキスしているところを目にする羽目になった。
 声を上げなかったことを褒めてもらいたい。ただ、今回は前回と違って軽く触れる程度のものだったから僕も前に比べて平常心でいられた。というか相変わらずイチャイチャしているんだな、あの二人は。
 王子の溺愛は相変わらずのようで。でもその王子の愛に比例してちゃんと返してもらっているんだろうかと余計な心配をしてしまった。
 ただ、本当に余計な心配だったようだ。
「……あ」
 つい零れた言葉を飲み込むように、急いで自分の口を片手で覆い隠した。持っていた本を落とさなくてホッとした。
 王子がキスをしたあと少しだけ距離を離し、そのあとすかさず彼のほうが軽く背伸びをして王子の頬にキスをしていた。二人は見つめ合って、小さくはにかみあってる。
 なんだよ、どっちも溺愛かよ。僕は学生の時と同様に未だ恋人ができていないっていうのに。こっちは相変わらず恋愛未経験なんだぞ。
 でもあの様子を見る限り、しばらくこの国は安泰だなぁと安心した。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

夫婦喧嘩したのでダンジョンで生活してみたら思いの外快適だった

ミクリ21 (新)
BL
夫婦喧嘩したアデルは脱走した。 そして、連れ戻されたくないからダンジョン暮らしすることに決めた。 旦那ラグナーと義両親はアデルを探すが当然みつからず、実はアデルが神子という神託があってラグナー達はざまぁされることになる。 アデルはダンジョンで、たまに会う黒いローブ姿の男と惹かれ合う。

朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!

渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた! しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!! 至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

白銀の城の俺と僕

片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*

処理中です...