目撃者、モブ

みけねこ

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数多な証言

王妃

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 王族は代々恋愛結婚。もちろんわたくしの旦那様もそれはそれはすごかった。
 けれど、やっぱり血は争わないわねぇとしみじみ思ってしまう。我が息子も幼い頃はとても心配していたけれど、しっかりと王家の血を継いでいた。
 だからといって独り占めは如何なものかと思うの。これだとアシエちゃんのためにもならないわ。
 っていうのは建前。本音はわたくしだってアシエちゃんを構い倒したい。
「アシエちゃん準備はいいかしら~?」
「はい! 大丈夫です!」
「よかったわ。それでは行きましょうか」
 わたくしの声にいつも通り元気な返事と笑顔にこちらも自然と笑顔になる。
「今回はわたくしと親睦の深い方々だから、そこまで肩に力を入れる必要はないわ」
「わかりました!」
 今回はわたくしがちょっとしたお茶会を主催した。例えあらゆるサポートを徹底的にウェルスが行うとはいえ、やはりすべてをカバーをするのは難しい。特にお茶会などがそうだ。
 わたくしも身の丈に合わない結婚だったからとにかく最初は苦労した。だからアシエちゃんの大変さも身をもってわかるし、少しでもそんなアシエちゃんの手助けをしたいと思ってしまう。
 兎にも角にもこういうことは経験だ。庶民だったアシエちゃんには圧倒的に経験が足りない。だから最初はわたくし同伴の、わたくし主催のお茶会から経験を積んでもらうことにした。
 一応本格的にではなく、気さくなお茶会ということで服装もしっかりしたものではなく少しラフだ。それでもわたくしがチョイスした服を着ているアシエちゃんは素敵で可愛いけれど。あとでウェルスに自慢しなくちゃ。どうせあの子は見れないのだし。
 なんてことを考えつつほくそ笑みながら、早速庭園に足を進める。そこにはすでにわたくしがお招きした貴婦人たちが談笑しており、わたくしたちに気付くとスッと美しいカーテシーを見せてくれた。
「本日はお招きありがとうございます、王妃」
「ふふ、畏まらなくて結構よ。今日はみなさんで楽しく談笑いたしましょう?」
 数少ない気心知れた友人たちに微笑みを向け、次にアシエちゃんに視線を向け隣に座るように促す。
 彼女たちは洗練された所作を身に付けている貴婦人たち。無礼な視線を向けることはなく、それとなくスッとアシエちゃんの様子を探る。もちろんアシエちゃんが熟練された彼女たちの視線に気付くことはない。寧ろ椅子を引いてくれた執事に爽やかな笑顔で礼を告げている。
 少しだけ胸を押さえた彼女たちに隠すことなく満面の笑みを浮かべる。ええ、ええ、可愛いでしょう、わたくしの義子むすこ
「お初にお目にかかります、わたくし――」
 一人の貴婦人がそう自己紹介をする。彼女たちに続くように他の貴族たちも美しい所作で次々に名を告げた。
「初めまして、アシエ・クラジューと言います。みなさん今日はよろしくお願いします」
 もうわたくしたちの家族なのだから「クラジュー」と名乗ったことに大満足である。
「今日はアシエ様より年上の者ばかりでつまらないかもしれませんが、楽しんでくださいな」
「いえいえ! ただ綺麗な人たちばかりなので緊張してしまいますね」
 そうはにかんだアシエちゃんにあちこちから「うっ」という声が聞こえた。ええ、ええ、可愛いでしょう。社交界では貴重な裏表のない笑顔と言葉ですわよ。純粋に「綺麗」と言われて喜ばない女性はここにはいないでしょう。
 それからお茶が注がれ目の前にある菓子に舌鼓を打つ。最初は言葉通り緊張していたアシエちゃんだったけれど、実家で接客業をしていたからか彼女たちと打ち解けるのは本当に早かった。彼女たちも言っていた通り歳の差が多少あるため趣味や好みに違いが出てくると思っていたけれど、アシエちゃんはつまらなさそうな表情をすることは一切ない。寧ろ興味津々に話を聞いて相槌を打ってくれる。
 彼女たちの中には旦那と同じような話をしても相槌を打つどころか興味なさそうに聞き流すこともあるようで、だからこそ話を聞いてくれることが嬉しいのだろう。自然と会話に花が咲く。
「アシエちゃん、小腹が空いたでしょう? たくさん食べてね?」
 頃合いを見図らない笑みを浮かべてお菓子を勧める。お茶会ということと彼女たちのお喋りを優先していてアシエちゃんはお菓子に手を付けていなかった。
 まだまだ食べ盛りなのだからお腹空いたでしょうし、それにここはほんの小さなお茶会、雰囲気を楽しんでもらいたいのであって所作はそこまで気にしなくていいという考えだった。そもそも今に至るまでアシエちゃんの所作は申し分ない。
 わたくしの言葉にアシエちゃんの目が丸くなって表情もパッと明るくなった。まったく隠しきれない感情にわたくし含め彼女たちも微笑みを浮かべ、彼を見守る。
「いいんですか?」
「もちろんよ。アシエちゃんのためにたくさん作ってもらったのだから」
「それでしたら……」
「所作も気にしなくていいわ。思いっきり食べちゃって」
「えっ」
 アシエちゃんの視線がわたくしに向き、次に彼女たちへと向かう。彼女たちもどうぞどうぞと手で示し、了承も得たことなりそれでは、といった雰囲気でアシエちゃんはお菓子に手を伸ばした。
 お菓子に伸ばされた手がとても厚みがあり無骨なことに、彼女たちもわかったのだろう。それとなく、といった貴婦人もいたけれどしっかりと目に焼き付けている貴婦人もいる。これほど逞しい手を持っている貴族はそうそういない。
 所作は気にしなくていい、というわたくしの言葉を素直に受け取ったアシエちゃんはカパッと大きく口を開けて、そしてお菓子を頬張った。
 頬にたくさん入っているお菓子を頑張ってモゴモゴ動かして食べている姿がまるでリスやハムスターのようで可愛らしいわ~っ。
「美味しいです!」
 しっかりと咀嚼したあとの第一声に、これにはわたくしも彼女たちもそして遠くで見守っているシェフもにっこり。
「ふふっ、アシエ様が美味しそうに食べているところを見ているとわたくしもお腹が空いてしまいましたわ」
「どうぞどうぞ! まだたくさんありますし!」
「それではお言葉に甘えていただきますわ」
「わたくしも」
「わたくしもいただこうかしら」
 彼女たちが次々に手を伸ばし、わたくしもアシエちゃんが食べていたお菓子に手を伸ばし口に運ぶ。
 このお菓子を作ったシェフはいつもわたくしたちの食事を作ってくれている。だから食べ慣れているというとそうなのだけれど。
 でも不思議と、アシエちゃんが美味しそうに食べたあとに口に運んだこのお菓子はいつもより美味しく感じた。

 和気あいあいとお茶会の時間は進み、アシエちゃんもかなり気が緩んで始終穏やかな雰囲気が流れていた。けれど、この場にいる貴婦人たちは修羅場をくぐってきた者たちばかり。アシエちゃんの気の緩みを見逃すこともなく。
 そっと、一人の貴婦人が肩を寄せて声を潜めてきた。
「ところで、アシエ様……嫌ならば無理に答える必要はないのですが……」
「なんでしょう?」
「……アレのほうが、どうなのでしょうか……? 本当に無理に答えなくてもよいのですが! ああっ、わたくし自身の好奇心がっ、憎らしいですわ!」
 こんなことを聞くことは野暮で無粋だというのに! と言わんばかりの彼女の様子に「まぁまぁ大変ですわね」と思いつつ、それでも気になっている方々ばかりということをわたくしわかっておりましてよ。
 息子がいない間しか聞けませんものね、とわたくしも隣で何気ない顔で紅茶を飲みつつ耳を傾ける。
「話しても大丈夫なもので……?」
「アシエちゃんがいいのであれば、大丈夫よ」
 わたくしもそれとなく彼女たちのアシスト。
 ただアシエちゃんは貴婦人にそういう話は大丈夫なのだろうかという心配だったのでしょうけれど。そこは本当に心配ないなぜなら彼女たちは興味津々なのだから。
「えっと……うーん、どこまではっきり言っていいのか……」
「やんわりで大丈夫よ、アシエちゃん」
「そうですか? まぁ……結論から言って、すごく満足しています」
「……まぁ!」
「あらあらあら!」
「あらぁ!」
 気さくなお茶会だらこそ、「きゃーっ」という声が上がった。彼女たちは一斉に色めき立ちまるで少女に戻ったように楽しそうにしている。そんな彼女たちの姿を見てアシエちゃんも嫌な顔一つもせず、寧ろ楽しそうに見守っている。
 けれど意外にも、アシエちゃんはそれ以降はっきりと続けることはなかった――これは恐らく、直前に口止めされたようね。本当に嫉妬深い息子なこと。
「ア、アシエ様……どちらからお誘いで……?」
 それでも少女に戻った彼女たちはもう一歩踏み出してきた。目を丸くしたアシエちゃんにどう答えるのだろうと、少女たちが息を呑んでその唇を注視する。
 節くれ立っている指がカップの縁に覆い被さる。誰かの喉がゴクリと鳴ったのが聞こえたような気がした。
「――俺も男なので」
 伏せ目がちから、少しだけ上げられた視線にそれを真正面から受けた少女は顔を赤らめた。彼女だけではなく、その場にいた女性全員といっても過言ではないかもしれない。
 当人はそのつもりはなかったのだろう、けれど今まで可愛いと思っていた子から不意打ちに醸し出された『男の色香』。彼女たちがもう少し若かったらどうなっていたかわからない。
 自然と、この会話はここで終わった。

「今日はお招き本当にありがとうございました」
「とても楽しかったですわ」
 楽しい時間はあっという間で、もう少し時間をとってもよかったかもしれないと思いながらもお開きとなった。今回来てくれたお礼にシェフが作ってくれたお菓子をお土産としてプレゼントし、それを受け取った彼女たちも満足げに礼を告げる。
 彼女たちのその笑顔はお土産が嬉しかったというよりも、アシエちゃんと同じ時間を過ごしたのが楽しかったから来るものだろう。次々にアシエちゃんにお礼を告げ彼もそれに対して一つ一つ返答し、また来てほしいと笑顔で告げた。
 爽やかな笑顔でそんなこと言われてしまえば、既婚者とはいえ彼女たちもキュンとしてしまうもの。
「王妃が自慢していた通り、とても可愛らしい方でしたわ」
「許されるのならばそのふわふわの髪を撫でたかったのですが……」
「わたくし次にお招きされたら必ずお土産を持って参りますわ」
 わたくしと会話している彼女たちからも次々とそんな言葉が出てくる。わたくしと親しくしている方たちですもの、可愛いと思うものもきっと同じだと信じていましたわ。
 アシエちゃんの魅力が伝わってよかったですわ、とわたくしもホクホク顔が止まらない。そして彼女たちにもそれが伝わりみんなで笑みを浮かべる。
「アシエ様、社交界で困ったことがあったらいつでも頼ってくださいまし」
「わたくしたちアシエ様の助けになりたいのです」
「そう言ってもらえて本当にありがたいです。そのときはよろしくお願いします!」
「もちろんですわ」
「この胸に飛び込む勢いで頼っても構いませんわ!」
「何なら我が家に駆け込んできてくださっても構いませんわ!」
「そうなると怒り狂ってしまう男がいるので、そこはご遠慮願いますわ~」
 彼女たちの気持ちもわからないわけでもないけれど。そうなると絶対に殺意満々でアシエちゃんを捕らえに行く息子がいるものだから。彼女たちの身の安全のためにも助けるのもそこそこに、ということにしてもらいましょう。
 彼女たちを見送り、わたくしたちも帰りましょうと背中に手を添える。旦那様や息子とはまた違った、職人の逞しい背中。
「今日はありがとうございました、お義母さん」
「うふふ、いいのよ。また今度お茶会を開きましょうね」
「はい!」
 にこやかに返事をする義子むすこについ顔がニヤけてしまう。アシエちゃんも意欲があるようだし、予定よりも多くお茶会を開いてもいいのかもしれない。
 ほとんどと言っていいほどウェルスが独り占めするのだから、これくらいは許されるでしょう。
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