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第十一章
レベル171 聖皇都・フォートレース楽器店
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私の名はエクサリー・フォートレース。
小さな楽器屋を営んでいる。
このフォートレースと言う家名は父の実家の名だという。
ユーオリ様に貴族になるなら家名が必要と言われ、父に相談した所、なぜか家名がある事が判明した。
それを聞いて以来、私はこのフォートレースの家名を名乗っている。
「お姉ちゃんお掃除終わったよ」
「ウッシッシ、小遣いクレ」
「お、お前等置いていくなよ~」
三人の子供達が走り寄ってくる。
この子達はクイーズの使い魔? みたいな存在らしい。
「ありがとう、それじゃこれが今日のお駄賃ね」
カードに戻れば食事も寝る場所も要らないっていうけど、そんなの駄目だ。
だからといって唯お金を上げるもの良くない。
なので、こうしてお店のお手伝いをしてもらう事で、お駄賃という形をとってお金を渡している。
耳の長い子はレリンといい、とにかく真面目で何をやるのも一生懸命だ。
次々と新しい事に挑戦してはアレでもない、コレでもないって言っている。
いったい何を探しているのだろう?
小さな熊のぬいぐるみのような姿をした、ふよふよと浮かんでいるのはサウ。
ダークエルフとのことだ。
ダークエルフってこんなモンスターだったっけ?
図鑑で見たのとは随分違うなあ。
最後にちょっとオドオドしながら二人の後を付いているのがハーモア。獣人? らしい。
こないだ変身している所を見せてもらった。
すっごく、モフモフで触り心地がとってもいいの。
また撫でさせてくれないかな?
三人はお駄賃を手にすると町のほうへ走って行く。
ちゃんと貯金しているのかな?
あ、サウが貯金しているのは知ってるけどね。
毎日、貯金箱にお金を入れてはウッシッシって言ってる。
サウは三人の中で一番の悪戯娘だけど、その実、一番しっかりしていたりもする。
「あっ、店長、おはようございま~す」
「おはよう」
暫くすると、お店の従業員達もちらほらとやって来る。
「今日も一日、暇なんスかね?」
「こらっ、そんな事言わないの! 店長が落ち込むでしょ?」
そうなのだ。お店の売れ行きは決して芳しくは無い。
利益、は出ていない事も無い。
ただし、利益が出ている物は貴族向けの大型商品だけ。
この店に並んでいる一般向けの販売は大赤字。
一日居て、まったく人が来ない日だってある。
商品だって大きく原価を割って販売している。
貴族向けの大型商品が、ものすごい利益が出ているから、わざとこちらは安く販売しているのだった。
こないだ、カユサル様が使っているグランドピアノのレプリカを受注した時なんて、目玉が飛び出るほどの値段設定だった。
豪邸が立つ位する上級ポーションが何十個って買えるぐらい。
ラピスに、これってぼったくりじゃない? と聞いたら、値段も物の価値の一つだなんてよく分からない事を言っていた。
だらかそっちで利益が出ている間は、楽器の浸透を図る為に、こっちは手軽に買える値段設定にしている。
「今は赤字でもいいんだよ。大切なのは町に音楽を根付かせること。人々の暮らしの中に歌が溢れ、傍に音楽があることが普通になったら、もう音楽無しでは生きてはいけない」
そういう意味では音楽は麻薬と一緒だな。って笑ったクイーズの顔が思い浮かぶ。
あれ? なんだかそんなクイーズの顔を思い浮かべてると顔が上気してきた。
ちょっと外にでも行こうかな。
お店の入り口に出ると、長方形の形をした板のようなものから映像と音楽が流れている。
そしてその周りには何名かの人が弁当箱のような箱をそれに向けている。
あの弁当箱は、現状、この店で一番売れている商品だ。
元は戦争で使われていた、声を録音・再生する魔道具である。
それを一般向けに作り直し、音楽を録音・再生出来るように改良したもの。
ただこれには欠点があって、中に入っている魔石の魔力が切れたら録音されている内容も消えてしまう。
魔石の魔力が消える前に新しいのと交換すればいいのだけども、普通の人ではそのタイミングが分からない。
魔石の質によって持続する時間も変わる。
とうていこのままでは売りに出しても使えない。
そこでクイーズが、
「入り口にミュージックプレイヤー置いとくか。切れてもここに来れば再度録音が出来るようにすればいい」
とか言って。
お店の宣伝にもなるし、音楽に興味を持ってくれる人も増えるかもしれない。
事実、何人もの人がこうやって再度録音に来られて、それを見て何で集っているんだろって気になった人がコレを見て、新たなお客さんになってくれたりもしている。
クイーズはほんと、誰もが思いつかない突拍子のない事を考える事が旨い。
だからだろうか? 突拍子のないものばかりが集って来てるような気もする。
私はそんなクイーズの事を思い浮かべながらお店の隣に行く。
そこでは、椅子と机が並べられた青空教室があった。
ここと更に隣の建物で音楽教室を開いている。
元々はここだけで無料で開いていたのだが、カユサル様が講師の時、貴族の人達が独占してしまいそうだったので、別途、貴族向けの有料教室を隣に設ける事になった。
こちらの青空教室はクイーズと私が、隣の有料教室はカユサル様とラピスが主に受け持っている。
当然、お金のない平民達は青空教室へ、貴族や裕福な子達は有料教室へ集る訳だが、なぜだか有料教室の子までこっちの青空に来る事が多い。
まあ、クイーズの教え方は面白いから、分からないこともないんだけどね。
クイーズは楽器の使い方や音楽の作り方なんかは二の次で、みんなで合唱したり、トーナメントで競い合ったり、とにかく楽しい、音楽は楽しいんだって事を教えてくれる。
だからクイーズが教師の時は、子供達はみんなが笑顔だ。
それは音楽の魔法だって言うけど、私はそうは思わない
あれはきっとクイーズの魔法なんだ。
だって、私やカユサル様が教師の時じゃあんな笑顔は見られない。
だからきっとあれは魔法。クイーズしか使えない、そんな素敵な魔法。
そんな素敵な魔法を、すぐ傍で見られる私はきっと世界一の幸せ者かもしれない。
小さな楽器屋を営んでいる。
このフォートレースと言う家名は父の実家の名だという。
ユーオリ様に貴族になるなら家名が必要と言われ、父に相談した所、なぜか家名がある事が判明した。
それを聞いて以来、私はこのフォートレースの家名を名乗っている。
「お姉ちゃんお掃除終わったよ」
「ウッシッシ、小遣いクレ」
「お、お前等置いていくなよ~」
三人の子供達が走り寄ってくる。
この子達はクイーズの使い魔? みたいな存在らしい。
「ありがとう、それじゃこれが今日のお駄賃ね」
カードに戻れば食事も寝る場所も要らないっていうけど、そんなの駄目だ。
だからといって唯お金を上げるもの良くない。
なので、こうしてお店のお手伝いをしてもらう事で、お駄賃という形をとってお金を渡している。
耳の長い子はレリンといい、とにかく真面目で何をやるのも一生懸命だ。
次々と新しい事に挑戦してはアレでもない、コレでもないって言っている。
いったい何を探しているのだろう?
小さな熊のぬいぐるみのような姿をした、ふよふよと浮かんでいるのはサウ。
ダークエルフとのことだ。
ダークエルフってこんなモンスターだったっけ?
図鑑で見たのとは随分違うなあ。
最後にちょっとオドオドしながら二人の後を付いているのがハーモア。獣人? らしい。
こないだ変身している所を見せてもらった。
すっごく、モフモフで触り心地がとってもいいの。
また撫でさせてくれないかな?
三人はお駄賃を手にすると町のほうへ走って行く。
ちゃんと貯金しているのかな?
あ、サウが貯金しているのは知ってるけどね。
毎日、貯金箱にお金を入れてはウッシッシって言ってる。
サウは三人の中で一番の悪戯娘だけど、その実、一番しっかりしていたりもする。
「あっ、店長、おはようございま~す」
「おはよう」
暫くすると、お店の従業員達もちらほらとやって来る。
「今日も一日、暇なんスかね?」
「こらっ、そんな事言わないの! 店長が落ち込むでしょ?」
そうなのだ。お店の売れ行きは決して芳しくは無い。
利益、は出ていない事も無い。
ただし、利益が出ている物は貴族向けの大型商品だけ。
この店に並んでいる一般向けの販売は大赤字。
一日居て、まったく人が来ない日だってある。
商品だって大きく原価を割って販売している。
貴族向けの大型商品が、ものすごい利益が出ているから、わざとこちらは安く販売しているのだった。
こないだ、カユサル様が使っているグランドピアノのレプリカを受注した時なんて、目玉が飛び出るほどの値段設定だった。
豪邸が立つ位する上級ポーションが何十個って買えるぐらい。
ラピスに、これってぼったくりじゃない? と聞いたら、値段も物の価値の一つだなんてよく分からない事を言っていた。
だらかそっちで利益が出ている間は、楽器の浸透を図る為に、こっちは手軽に買える値段設定にしている。
「今は赤字でもいいんだよ。大切なのは町に音楽を根付かせること。人々の暮らしの中に歌が溢れ、傍に音楽があることが普通になったら、もう音楽無しでは生きてはいけない」
そういう意味では音楽は麻薬と一緒だな。って笑ったクイーズの顔が思い浮かぶ。
あれ? なんだかそんなクイーズの顔を思い浮かべてると顔が上気してきた。
ちょっと外にでも行こうかな。
お店の入り口に出ると、長方形の形をした板のようなものから映像と音楽が流れている。
そしてその周りには何名かの人が弁当箱のような箱をそれに向けている。
あの弁当箱は、現状、この店で一番売れている商品だ。
元は戦争で使われていた、声を録音・再生する魔道具である。
それを一般向けに作り直し、音楽を録音・再生出来るように改良したもの。
ただこれには欠点があって、中に入っている魔石の魔力が切れたら録音されている内容も消えてしまう。
魔石の魔力が消える前に新しいのと交換すればいいのだけども、普通の人ではそのタイミングが分からない。
魔石の質によって持続する時間も変わる。
とうていこのままでは売りに出しても使えない。
そこでクイーズが、
「入り口にミュージックプレイヤー置いとくか。切れてもここに来れば再度録音が出来るようにすればいい」
とか言って。
お店の宣伝にもなるし、音楽に興味を持ってくれる人も増えるかもしれない。
事実、何人もの人がこうやって再度録音に来られて、それを見て何で集っているんだろって気になった人がコレを見て、新たなお客さんになってくれたりもしている。
クイーズはほんと、誰もが思いつかない突拍子のない事を考える事が旨い。
だからだろうか? 突拍子のないものばかりが集って来てるような気もする。
私はそんなクイーズの事を思い浮かべながらお店の隣に行く。
そこでは、椅子と机が並べられた青空教室があった。
ここと更に隣の建物で音楽教室を開いている。
元々はここだけで無料で開いていたのだが、カユサル様が講師の時、貴族の人達が独占してしまいそうだったので、別途、貴族向けの有料教室を隣に設ける事になった。
こちらの青空教室はクイーズと私が、隣の有料教室はカユサル様とラピスが主に受け持っている。
当然、お金のない平民達は青空教室へ、貴族や裕福な子達は有料教室へ集る訳だが、なぜだか有料教室の子までこっちの青空に来る事が多い。
まあ、クイーズの教え方は面白いから、分からないこともないんだけどね。
クイーズは楽器の使い方や音楽の作り方なんかは二の次で、みんなで合唱したり、トーナメントで競い合ったり、とにかく楽しい、音楽は楽しいんだって事を教えてくれる。
だからクイーズが教師の時は、子供達はみんなが笑顔だ。
それは音楽の魔法だって言うけど、私はそうは思わない
あれはきっとクイーズの魔法なんだ。
だって、私やカユサル様が教師の時じゃあんな笑顔は見られない。
だからきっとあれは魔法。クイーズしか使えない、そんな素敵な魔法。
そんな素敵な魔法を、すぐ傍で見られる私はきっと世界一の幸せ者かもしれない。
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