龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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龍帝皇女の護衛役 1話ー3

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学園に帰る朝、泣いて引き止める舞に後ろ髪を引かれながら俺と礼司兄は車に乗り込み
『御幸ヶ原学園』に向かった。
車内で妙に礼司兄が不機嫌なのは無視したい。
「『いつもならパパ行かないでって』言ってくれる舞ちゃんがいつの間にかお兄ちゃん行かないでになっている…どういう事だ!うちの可愛い娘をどうする気だ!くそが!」
「前見て運転してくれよ。親馬鹿もそこまで行くと引くからな。
 帰ってくるなりべったりの父親に飽きたんじゃね。」
「うそ、だろ?」
仇を見るかのように睨みつけて来る礼司兄に対してかなりぞんざいに言葉を返してみた所、驚くほど絶望した顔をしていたので可哀想になる。
「冗談だよ、頼むから前見て運転してくれ。師匠もなんか言ってくれよ。」
ダッシュボードの上で胡坐をかいでいる師匠が礼司兄のほうを向いて顎をさすり話し出した。
「礼司殿、よく聞きなされ。古来より父親と言うのはいずれ娘を他家に嫁がせねばならぬ者。しかしながら幼い娘を溺愛してしまうのも父親と言う物である。どれほど時代が変わろうとも娘にとって父親は父親他人と比肩事などないと言うもの…だといいのう。たまに帰ってきては適度に甘やかし適度に遊んでくれるこやつに傾いてしまうのも仕方ないのかの…」
「絶望した!俺以外の男皆死ねばいいのに!舞はお嫁に行かなくていいの!!」
鬱陶しい事この上ない。
こんな状態で30分ほど俺に向けてくる羨望と敵意の視線を無視しながら学園まで半分ほどの道のりを過ぎた頃
ようやく落ち着いた礼司兄が途中のコンビニに車を止める。
「舞を見るお前の目がオスになった瞬間俺はこの手を血に染めることも許される!」
「誰もゆるさねぇよ!弟をどういう目で見てるんだあんたは!」
落ち着いたと思ったら未だに剣呑な言葉をぶつけてくる礼司兄にうんざりしながらも俺はそろそろ本題に入りたかった。
「礼司兄、俺はまだ護衛対象の顔も知らない。こんなんじゃ護り様が無いんだけど?」
「仔細は話せないが顔写真だけならこれだ。」
パスポートサイズの小さな写真を渡されてた。
そこには透き通るような銀色の髪とまだあどけない少女の姿があった。
「名前は白銀月子、ある理由でお前に居る学園に入学する事になった。
 護衛期間は彼女が学園を去るまで彼女についての情報は
 特秘Sクラスだお前の権限でも調べられねーから詮索するな、それと…」
礼司兄は少し考え込んだ後俺を見ずに独り言のように呟く。
「彼女自身から聞く分には抵触しないから好きにしろ。」
妙に含みのある言葉に聞こえた、俺が自発的に『白銀月子』について調べてはいけないがこの子から聞き出す分にはOKらしい。
この護衛任務が少しキナ臭く感じ始めていたが受けた以上は遣り通す。
「勇吾、喉が渇いた。コーヒー買ってきてくれホレ1000円やるからお前の分も買って来いお釣りはやるよ。」
「おっ、いいの?寮に帰る前にお菓子補充できる!」
 

車内に残された二人の会話
「礼司殿、その女子の仔細を何故勇吾に言わないのだ?」
訝しげに礼司を見る羌。
タバコに火をつけるれ礼司。
「羌先生、分かっててそういう事を聞くのは止して下さい。」
「いずれ分かる事を先延ばしにして良い事などない、勇吾は既に何か感ずいているぞ。」
タバコの煙を吐き出しながら礼司は目を細める。
「それは貴方もでしょう?自身の正体と勇吾との因果を隠したまま済ます気ですか?」
「分かっている、我輩の事も此度の事案に触れ続ければいずれ露見しよう。だが我輩はあの子を人のままで居させてやりたい。」
悔むかのように顔を伏せる羌に同情の目を向ける礼司。
「俺も同じ気持ちです。ですが運命の時は待ってくれません、勇吾と『白銀月子』が出会ってしまう。これが何よりの証拠です。」
「礼司殿はそれを望むのだろう?」
礼司は短くなったタバコを灰皿で消すと振り向く事無く言った。
「あの子たちにはつらい思いをさせる事になるかもしれませんが因果の収束と怨嗟を断ち切るにはこれが必然。正直賭けです。」
最後の台詞を言った礼司の顔には自虐とも取れる笑いがあった。
「礼司殿、『白銀月子』が我輩が知るところの子女であるならあ奴等が動き出す。その動きに呼応するように混乱が起きる、
 それを須らく解決するつもりか!どれほどの事が起きるかそなたも分かるであろう!」
羌は礼司に詰め寄る。しかし礼司は黙ったままだった。
「答えよ礼司!二人の出会いもこれから起きる事も全て貴様の計画の内か!あの子らに背負わせるには余りにも酷いではないか!」
「やはり、霊核を消耗されている貴方は伝承に見る貴方とは随分と優しくなった。言ったでしょこれは賭けなんです。
 俺は勇吾に賭けたんですよ。自慢の弟に全て賭けたんです。」
その言葉に羌は何も言えなくなってしまった。その目が弟を信じている兄の眼であり心からの言葉だとわかってしまったから。
沈黙が続く車内で羌が切り出す。
「礼司殿、そなたの策は穴だらけだ。」
「そりゃそうですよ、不味くなったら俺が出張って力押しする無様な策です。」
羌の言葉に苦笑いする礼司。
「その穴だらけの策を我輩が埋めよう。今から我輩達は共犯だ、学園に着いたら我輩と共に『妲姑娘』にも協力を要請する。
 …心底嫌だが致し方あるまいよ。」
「羌先生、ありがとうございます。」
二人はサイズの違う手だったが硬い握手をした。
「あれ?二人とも何してんの?握手なんかして気持ち悪いな。」
その様子をコンビニの袋を抱えた勇吾が見ていた。
「なに来学期から羌先生に勇吾の修行の量を倍にすることで一致したその握手だ。」
「我輩ワクワクすっぞ!」
「ええーっ!マジかよ護衛任務しながら修行の量倍って鬼かあんたら!」
頭を抱える勇吾を見ながら二人の頭には次に向けての動きを考えていた。
これから始まる少年と少女の未来をより良く導く為の計画が。
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